4.運命改変の代償
不幸な少女ナギは――運命を、変えてしまった。
本来ならば、魔王軍のハラヤはサクナ姫とナギを間違えて、ナギをさらうはずだった。
しかし、間違われることなく、サクナ姫が魔王軍に連れ去られた。
(私は……ナギです)
その一言が、運命を狂わせた。
名乗ってしまったがゆえに、正体が露見し、
ナギが、サクナ姫と間違われて魔王軍に連れ去られる運命がなくなった。
魔王軍の目的通りに、サクナ姫が魔王軍に連れ去られた。
ジミー「サクナ様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
衛兵ジミーの絶叫が響き渡る。
喉が裂けるほどの叫びに、周囲の空気が凍りついた。
ジミー「そ、そんな……」
ジミー「姫様が……?」
衛兵たちは一斉に色を失い、城内は瞬く間に混乱へと沈んでいく。
そのときだった。
ジミー「……あいつのせいだ」
低く、刺すような声。
衛兵ジミーが、ゆっくりと前へ出て、ナギを指さした。
ジミー「あいつが……あいつが『私は……ナギです』なんて言わなければ……!」
ジミー「姫様がさらわれることなんて、なかったんだ!」
その言葉が、引き金だった。
――シン、と空気が切り裂かれる。
次の瞬間。
「お前のせいだ!」
「許すな!」
「姫様を返せ!」
衛兵、メイド、大臣。
怒りと絶望を抱えた人々が、一斉にナギへと襲いかかる。
逃げ場はない。
弁解の声も、届かない。
ナギはただ、その場に立ち尽くしながら、理解していた。
これが、私が選んだ“結果”なのだと。
私が過去に戻って、やり直したかったことだ。
これで、アイカが魔王討伐しなくても良い。
(これで、アイカは死なずにすむ。)
ナギのすぐ横に立っていた少年――アイカは、怒りに満ちていた。
(……なんなんだ、こいつら)
冷たい視線で周囲を睨みつける。
(同じ人間なのか?気持ち悪い……)
憎悪と嫌悪が、胸の奥で渦を巻く。
アイカ「……うるせぇ」
ぽつりと、低く吐き捨てるような声。
アイカは一度、ぎゅっと拳を握りしめ、深く息を吸った。
そして――
アイカ「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!!」
城内に響き渡る、魂を叩きつけるような怒号。
その場のざわめきが、一瞬で静まり返る。
アイカ「魔王軍は、最初からサクナ姫をさらうつもりで城に侵入したんだ!」
アイカは衛兵たちを真っ直ぐに睨み据える。
アイカ「衛兵!!侵入を許したのは、お前らだろ!!仕事しろよ!!」
言葉は刃となり、容赦なく突き刺さる。
アイカ「それに……」
アイカ「間違われて、ナギがさらわれればよかったって……なんだよ、それ!!」
怒りで声が震える。
アイカ「人一人が犠牲になれば、それでよかったって言うのかよ!!」
ナギは、隣に立つアイカを見つめていた。
小さな背中。
それでも必死に、世界に立ち向かう姿。
ナギ「……アイカ君」
名前を呼ぶと、アイカの手が、わずかに震えているのが見えた。
それでも彼は、前を向いたまま、一歩も退かない。
(ありがとう)
ナギは、声にならない言葉を胸の中でそっと呟いた。
――この少年が、今、たった一人で。
自分の味方でいてくれることに。
「――もう、よい」
低く、しかし揺るぎない重みを帯びた声が、玉座の間に響き渡った。
その声の主は、玉座に座す男――
この国を治める王、ワクワクール王だった。
荒れ狂っていた空気が、音を立てて静まっていく。
ワクワクール王「誰か一人に、罪を押し付けてよい話ではない」
王はそう告げると、ゆっくりと視線を巡らせ――
やがて、その眼差しを一人の少年へと向けた。
アイカ。
王は一瞬、目を細める。
それは王の目ではなく、ひとりの父の目だった。
そして、静かに、しかし確かな声で告げる。
ワクワクール王「異世界からきた勇者。アイカ。」
その呼び名に、場内がどよめいた。
ワクワクール王「我が娘、サクナを――助けてほしい」
王は玉座から立ち上がり、一歩、前へ。
ワクワクール王「これは、王としての命ではない」
言葉を区切り、深く息を吸う。
ワクワクール王「……サクナの父としての、お願いだ」
アイカは、すぐには答えなかった。
喉が、ひりつく。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
(……俺が?)
魔王軍。
四天王。
さらわれた王女。
どれも、自分とは遠い世界の話だったはずなのに。
――ふと、隣を見る。
ナギは、何も言わずに立っていた。
(……ナギと一緒に逃げたい)
ここで首を横に振って、城から逃げたいなぁ。
でも、
そんな自分を、許せるのか。
アイカは、ぎゅっと拳を握りしめた。
震えは、もう止まっていなかった。
それでも、一歩、前に出る。
アイカ「ごめん、ナギ。」
ナギ「大丈夫だよ。わかってる。」
ナギは目を閉じて微笑んだ。
(アイカ君は、困っている人を見捨てることができない。)
アイカ「王様!わかりました。」
アイカ「サクナ姫を、必ず……連れ帰ります」
その瞬間、ワクワクール王は、深く、深く頭を下げた。
ワクワクール王「ありがとう。」
――王ではなく、父として。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。




