20.敵の拠点に潜入中だけど味方がうるさすぎる
ナギたちは、魔王軍四天王ユウキュが支配する大聖堂の正門前へとたどり着いていた。
薄暗い空の下、巨大な門が重々しくそびえ立つ。
その前には、二体の魔族兵が立っていた。
一体は、筋骨隆々の鹿の魔族。
もう一体は、細長い顔をした馬頭の魔族だった。
鹿頭の魔族が鋭く睨みつける。
鹿頭の魔族「貴様、何者だ!!!」
続いて、馬頭の魔族がじろりと視線を向けた。
馬頭の魔族「見かけねぇツラだな」
その視線の先には。
大きな段ボールを載せた台車を押す、一体の魔族。
いや、“魔族の人形”だった。
ぎこちない動きで台車を押しながら、人形は低い声を出す。
メイメイ「魔王様から、ユウキュ様へお届け物です」
その人形には、メイメイが憑依していた。
そして。
段ボールの中には、身を潜めたナギたちが詰め込まれている。
狭い。
苦しい。
しかも暑い。
段ボールの中で、アイカが小声でつぶやいた。
アイカ「これ本当にバレねぇんだろうな……」
ナギ「静かに……!」
ナギも小声で返す。
バイオレット「ナギ、いい匂い」
バイオレット「(*´Д`)はぁはぁ!」
くんくん、と鼻を鳴らす。
アイカ「殺すぞ!!」
段ボールの中で、アイカの肘がバイオレットの脇腹にめり込んだ。
ナギ「静かに……!」
ナギも小声で返す。
外では、鹿頭の魔族がふんと鼻を鳴らした。
鹿頭の魔族「なるほど。通っていいぞ」
鹿頭の魔族「お仕事ご苦労様です」
馬頭の魔族が敬礼する。
ギギギギ。
重たい音を立てながら、大聖堂の正門が開いた。
メイメイの憑依した人形は、ぎこちない足取りのまま門をくぐっていく。
メイメイ「どうもどうも!!」
妙に軽い調子で返事をしながら。
そして。
背後で正門が閉じた、その瞬間だった。
ポンッ。
軽い音とともに、異変が起きる。
台車が消えた。
段ボールが消えた。
そして、人形までもが跡形もなく消滅した。
ナギ「ええええええっ!?」
ナギたちの絶叫が、大聖堂の廊下に響き渡る。
床に放り出されたアイカが顔を上げた。
アイカ「痛っ!? な、なんだこれ!?」
その隣では、メイメイの魂だけがふよふよ浮いている。
メイメイ「どういうことだ!!」
数秒の沈黙。
そして。
バイオレットが、さっと目を逸らした。
バイオレット「あっ」
アイカの目が据わる。
アイカ「お前……まさか……」
バイオレットは冷や汗を流しながら、ぎこちなく笑った。
バイオレット「そういえば俺の杖、具現化したモノは10分で消える仕様だったわ!!」
アイカ「今思い出すなーーーーー!!!!」
アイカは絶叫しながら、バイオレットの胸倉を掴み上げた。
バイオレット「ぐえっ!?」
そのまま、がっくんがっくん揺さぶる。
アイカ「お前の頭どうなってんだよ!! 欠陥品か!!」
バイオレット「ちがっ、天才! 天才だ!!」
アイカ「意味がわからない!!」
バイオレットの頭がシェイクされるたび、紫の髪がぶわんぶわん揺れる。
その横で、ナギは顔面蒼白になっていた。
ナギ「まずいよまずいよまずいよ!」
ナギは正門のほうを指差した。
ギギギギギ……。
閉じたはずの巨大な門が、ゆっくりと開き始めている。
どうやら、外の警備兵たちが異変に気づいたらしい。
ナギ「警備員が正門を開く!!」
メイメイ「そりゃ開くだろ!! こんなに叫んだら!!」
アイカは叫びながら拳を握った。
アイカ「クソッ、もう強行突破しか」
ナギが慌ててバイオレットを見る。
ナギ「バイオレット君! 今すぐ人形と台車と段ボールを!!」
アイカ「間に合わねぇ!!」
アイカのツッコミが即座に飛ぶ。
アイカ「段ボールに入る時間を考えて、間に合わねぇ!!」
ギギギギ……。
門がさらに開く。
外から、鹿頭の魔族の声が聞こえた。
鹿頭の魔族「おい!? 今なんか悲鳴聞こえなかったか!?」
馬頭の魔族「しかも“ええええ”って言ってたぞ!?」
鹿頭の魔族「完全に侵入者のリアクションだろそれ!!」
ナギたちの背筋が凍る。
絶体絶命。
……かと思われた、その時。
床に転がっていたバイオレットが、ぴこんっと起き上がった。
バイオレット「……いいこと思いついた」
アイカが真顔になる。
アイカ「お前がその顔するとき、大体ろくでもねぇ」
バイオレットはキリッと杖を構えた。
バイオレット「ほい!!」
ぽんっ!!
ぽんっ!!
ぽんっ!!
煙とともに現れたのは三つの樽だった。
しかも、やたらデカい。
そして、なぜか片側がぱかっと開いている。
沈黙。
ナギが恐る恐る聞く。
ナギ「……樽?」
バイオレットはドヤ顔で親指を立てた。
バイオレット「かくれろ!!」
アイカ「雑!!!!!!」
アイカのツッコミが大聖堂に響き渡った。
アイカたちは樽の中に入る。
メイメイは幽体なので、天井に逃げた。
そして、正門は完全にひらかれた。
馬頭の魔族「だれか!!いるだろ。」
馬頭の魔族「行くぞ兄弟」
鹿頭の魔族「おう、馬鹿ブラザーズ出動だ!!」
樽の中で、ナギたちの顔が青ざめる。
馬鹿ブラザーズの足音が、すぐそこまで迫っていた。
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