第16話「雨の夜。居酒屋で麦茶。魔女と狸たちと」
その夜。四国全域で雨が降った。
「梅雨でもないのに。最近の四国はよく雨が降る。あの日もこうだったか……」
愛媛のとある学校。その教務室の窓から呟く一人の教師。
長年ずっとこの学校で働いてきたベテラン教師だ。
彼はある生徒のことを思いだしながら、白髪の髪を掻きむしってそうぼやく。
今治の港町にある飲み屋。
「いらっしゃいませ!」
店員の声のする方向に黒合羽のフードを深々と被った女が2人。
「こんな雨の夜に来るとは景気がいいな。今日は嬢ちゃんたちの貸し切りも同然だぞ。はははっ」
カウンター席に座って好物の梅酒を飲み干すのは秋桜元総長のトンキチ。
しかし彼女たちが素顔を露わにするとその手を止めた。
「萌香……それからアンタは……」
トンキチは目を丸くしてしまうばかり。
「ここが単なる飲み屋でないことは知っている。私がここで本気をだせば、塩塚萌々子がいても彼女もろとも沈めることができる。密室だからね」
「桐生みちる……どういうことでぇ。萌香、春醒の奴らに心を売ったのか……」
トンキチは動揺している。周囲の蛮狸たちも同様だ。
「トンキッチャンたちがどう思っているのか私には分からないけど、彼女は違う。中谷の味方じゃない。むしろ敵の敵。で、萌々子っていうのはここにいないの?」
萌香が拳を鳴らす。それを「それをしないって約束でしょ?」と言って桐生が萌香の肩を掴んでなだめる。
「お嬢ならここにいない。いや、もう来ないだろうよ。九尾との決闘に向かって出ていった。俺たちはそれをできる限りのことでサポートしてやった。それだけ」
「そっか。九尾を倒したいと……」
「しっかし、何だろうな。お前と会うのはそんなに久しぶりでもねぇのにすげぇ久しぶりな気がするな。ちょっとでかくなったか?」
「何が? どこ見た? 気持ち悪いオッサンよぉ?」
「いやいやいや! そういう意味じゃないってば!」
「あはは! 面白いね! あなたたち!」
「おい、コイツが敵じゃねぇっていう証拠はあるのか? こっちはそっちの局長さんが春醒に加担していることぐらい知っているのだぞ?」
「そうね。美味しい麦茶をいただけないかしら? 話はそれからで」
「お出ししろ」
桐生と萌香は適当なところの椅子に座る。
話は桐生から。
四国未廻組の春醒九尾への加担は本部にも知られていることだった。だけど、全てのメンバーがその勢力になっているワケでない。それでも局長の小池筆頭にその噂は絶えないものとなっている。
「それでアンタは違う方。本部側の魔女で小池を見張っているのかい?」
「あいにく私は徳島生まれ徳島育ちよ? 魔女には多いのだけども。小池もそう」
「お~上官を呼び捨てか。敵と認識しているのだな」
「本人の前でそうはしないけども。それと私は本部に忠誠を誓ってやっている訳でもない」
「アウトローか?」
「そうね。そう言って貰えるとチョット嬉しくなる。話を続けるよ?」
桐生は自らの義憤で小池たちの悪行を暴くことを掲げて未廻組同胞である後輩たちと内密に動いている。いや、本当は知っているのだろう。それでも本部との連携を断っている立場を貫く彼女を重宝すらしている。
「でも、彼女が私に手をださない本当の理由が別にある」
小池の魔術は舞踊幻覚術。その目に舞踊を焼きつけることで人格を意のままに奪うことができるのだ。しかし、常時異常な二酸化炭素のベールを身に纏う桐生には全く効かない。桐生の側近である新馬と舩山もそれぞれ性質は違うも、桐生と同じく小池に惑わされない魔女として未廻組にいる。
ここでやっと萌香の話になる。萌香と風太はそれぞれが萌々子に斬り倒された。萌々子と桐生は内密の同盟関係にあり、それは萌香にも話したことだ。もっとも、萌々子が目的としているのは九尾の討ち取り。常人ではまず不可能な目標である。だからこそ秋桜ですら九尾率いる春醒の一派に対して何もしないわけだが……
「合点がいった。なるほど、だからあんな粋のイイ野郎がこの四国に来たのか」
「私がそそのかした訳じゃない。でも、彼女と私では共有するものがあまりにもあった。ありすぎたの」
「そうすると……風太さんが斬られて救われたっていうのは……」
「ええ。初めからすぐ近くに私がいた。もしものことがあったら、治してやってくれと依頼されて」
「あの親父みてぇだな。重道さんに会いにいけばいいだろうに」
「生きていると分かってないのでは?」
「そんな訳あるか。広島からあっちこっちの不動産で儲けているので超有名だぞ」
「人は自分の都合の良いものしかみられないって事をご存知?」
「ん? なんか聞いたことはあるが……」
「狸さんたちは違うのかしら?」
「どういうことだ?」
「本当は生きていると知っている。でも、それを受けとめきれない。九尾に挑み散った父親が本当の父親。そこから逃げて生き延びた男、さらに遊び人になった男ではなくてね……」
「かぁ~! そういうことかい! 年頃の娘は難しいなぁ!」
「かぁ~! ムカつくよ! 今すぐぶん殴ってやりたい!!」
ドンッ! と萌香は麦茶を飲み干してグラスを置く。
「萌香、でも、お嬢はあの中谷のところにいった。もう遅いだろうよ」
「そんなことはないかもしれないよ?」
「何だって?」
「彼女は1匹で動いているようでそうでない。九尾を物理的に斬って倒すなんてありえない。だったら何をすると思う?」
「まさか…………封印術?」
「計画は動いている。あっちもこっちも」
桐生は壁の高くに掛けてある時計をみる。
「いなかったし。そろそろいこうか。萌香」
「オッケー! キリチョン!」
「キリチョンって……」
「じゃあトンキッチャン、これで。釣りはなしで」
「アンタもだいぶ変わった魔女だよな。桐生さん」
そう言いながらも、トンキチはお札をペラペラしながら軽く礼をしてみせる。
四国末廻組といえば感じの悪い奴らでしかなかったが……
今日はそんな印象を払拭するに充分なぐらいだ。
雨がドンドン強くなる。萌々子も決死の覚悟で特攻していった。どうにも憂鬱でしかなかった夜なのにいつの間にか気持ち良い夜を過ごしているようで――
「雨、気をつけろよー!」
自然と溢れるようにでたその言葉と笑顔は嘘でないだろう。
この四国編の全容がみえた話だったと思います。まだ見えてないところもあるけど。
いつの間にかバディ化している萌香&桐生。
これもDROPOUTです(#^.^#)次号(#^.^#)m9ドーン!!!




