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第百八話 次期聖女

 全てはオーランドの罪として、この事件は幕を閉じる。


 多くの大貴族が行方不明との報告が上がっている。


 間違いなく、情勢は大きく変わる。


 そのため、王国内はしばらく大騒ぎとなり、当然――式は数日先に延期となった。


 マリアが心配していた国王も無事であったし、王妃様も今回の件で色々と吹っ切れた。どれだけ恨もうとも――彼女は夫を愛している。誰よりも。


 そして、王妃はソフィーに謝罪をした。


 あの牢獄の部屋に居続ける原因を作ったのは自分だと――王妃は口にする。


 しかし、ソフィーとしてはその謝罪はあまり面白くない。


 だって、あの部屋はもう――牢獄なんかじゃない。


「マリアと私にとってあの部屋は大切な場所です。だから二度と、そのことについて謝罪などしないでください」


 王妃はその言葉を聞いて、もう一度謝罪しようとした自分を止める。


 少しずつでいい。


 少しづつでも前に向かえたなら――それでいいと、マリアは思う。



 


 今回の事件が終わった後、ソフィーに対する恐怖心が皆の中からほとんどなくなっていた。


 聖女は、器が空になり――この世界が正常に戻ったからだと言った。


 だからと言って、緊張感を与える彼女に対して、気軽に話しかける愚か者などいるはずもないが。


「それにしてもマリア、いつまでもシスター服のままなのね。今の立場なら、服なんて選び放題なんだろうに」


 聖女はふらっと気軽に、マリアたちの部屋に寄り、暫く見回した後、そんなことを呟いた。


 聖女の言葉は、少し意外だった。


 確かに、いろんな服を準備してもらい、マリアのための衣裳部屋が用意されたほどだ。


 しかし、結局それを着ることなく普段はシスター服のまま。


 それはまだ、自分が教会の人間だと言う認識が――マリアの中にあるからだ。正直、王家の人間だと言われても実感が湧かない。


「国王とはもう話を終えている。――マリア、君はもうシスターを辞めなさい」

 

 正直、意味が分からない。意味が分からなさ過ぎて、思考がうまく働かない。


 何故か、ソフィーが手を握ってくる。その理由が、マリアには分からない。


「王家の人間が一介のシスター何て、やっぱり問題あるでしょ?」

「でも私は――」


 ――聖女候補生。何故か、その言葉がでてこない。


「これはある意味予知なのかもしれないけれど、聖女は次期聖女が誰になるのか本能的に分かるのよ。分かった上で、候補生を何人も用意させ、競わせる。努力でなるものではない、それは天命なのよ」


 そして、自分の命の時間も知っている。

 

「――それはつまり、私じゃないんですね」

「そうよ、君じゃない」


 別に、なりたいと思っていたわけじゃないし、自分が相応しいと思っていたわけでもない。それでも――彼女に憧れて、彼女のようになりたいと、そう思っていた。だから――彼女の役目を受け継ぐのは自分でありたいと、心のどこかで、そう――願っていた。だって彼女は私の師であり、母親でもあるのだから。


「言っておくけど、シスターではなくなったからと言って、私たちとの関係がなくなる訳ではないし――」


 そう言った後、何故か聖女は少しためらった後、独り言のように呟いた。


「――君が、私の娘であることには変わりないわ」


 マリアは少し、笑ってしまう。


「そんなこと、言われなくたって――分かってますよ」

「そう――なら、いいんだけどね」


 聖女は少し照れた感じで、目線を逸らす。


「国王様は、君にこの王国と教会を繋ぎ、さらにはこの王都以外にも飛び出して仕事をして貰いたいらしいわよ。ソフィー様と一緒にね」

「それって、どんな仕事なんです?」

「まぁ、言ってしまえば、世直しって奴? 詳しくは明日の式が終わって、君たちの新婚旅行が終わってからよ」


 そう言って、聖女は二人に背を向け、部屋の扉を開いた。


「聖女って――次は誰がなるんです?」

 

 聖女は振り返ると、何故か肩を竦めた。


「聖女になる人間は、依り代の少女に――心を奪われてしまうものなのかもしれないわね」


 そんなことを言って、聖女は部屋から出ていった。

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