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第九十六話 淑女計画➁

 ソフィーの厳しい目で選ばれた衣装は、背中や肩を露出していない立襟で長袖の白いロングドレス。


 二人が着替えるとき、当然オリヴィアは手伝おうとしたが、ソフィーから追い出された。


 選ばれなかったドレスは、後日、ソフィーの部屋に運ばれることとなった。

 当然、姫様が怒った卑猥なドレスも一緒に。


 マリアはその服を、こっそりと元に戻すことを心に決めている。


 


 次の部屋も、それほど広くない部屋だった。


 今度は奥側と右側に扉があり、真ん中に丸い机があるだけの部屋。


「次は食事のマナーから行かせていただきます。椅子に掛けるときは、立つときと座るときも、基本は左側からだと言うことをお忘れなきよう」


 そう言って、オリヴィアは椅子を引いた。


「まずはソフィー様からお願いいたします」


 ソフィーは優雅に座った――ように見受けられる。


 悔しくも、彼女の所作を美しいと思ってしまった。

 そんなことは決して口にするつもりはないが。


「それでは、次はマリア様」


 何も指摘がないということは、ソフィーには何の問題もなかったということだろう。

 それがどこか誇らしくもあり、悔しくもあった。


 だが、座るだけのことなら誰にでもできることだと、自分を奮い立たせる。

 マリアは左側を意識して座った。


「マリア様、座るタイミングは引いた椅子が膝裏に触れてからが良いです。そして、もう少しゆっくりと腰を下ろした方がよろしいかと。後、椅子には深く腰掛け、体とテーブルの間は握り拳ふたつ分ぐらいがちょうど良いと言われています」


 簡単だと思った内容で、あまりにも多く指摘され、マリアは軽くショックを受けた。


 ソフィーはマリアを見て、優し気な笑みを浮かべている。――それが、無性に癇に障った。


「机の上にナプキンがあると思いますが――」


 マリアは反射的にナプキンを手に取った。


「ま、マリア様、基本的には、料理が運ばれてくるタイミングでそれをお取りください」


 指摘され、マリアは慌てて机の上に戻した。


「発言が遅れて申し訳ありません。料理が出てきたら、ナプキンを2つ折りにし、折り目を手前にして膝の上にのせてください」


 そう言って、オリヴィアは銀色のベルを取り出すと、それを鳴らした。


 右側の扉が開き、メイドさんがワゴンカートを手で押し、やってくる。

 見たことのない顔。

 優雅な佇まいであり、美しい人だ。


「彼女は私の身の回りの世話をしてくれている人です。名前はカーラと言います」


 カーラと呼ばれた女性は、ワゴンから手を放し、頭を下げ挨拶をした。

 そして、再びワゴンを押し、料理を並べようとする。


 ソフィーは料理を並べる前に、ナプキンを2つ折りにし、自分の膝の上にのせた。


 マリアはメイドの所作に見惚れていたため、ナプキンのことをすっかり忘れている。


 オリヴィアに指摘され、マリアは慌ててナプキンを膝の上にのせた。


「マリア様、ナプキンは2つ折りにし、折り目を手前にしてから膝の上にのせてください」


 マリアはあわあわとしながらも、なんとか修正した。


 それを見て、ソフィーは相変わらず優しげな顔で、一度頷いてみせる。 

 その顔はまるで、駄目な妹を優しく見守る姉のような表情だ。


 その顔を止めてくれー、とマリアは手をわなわなと動かす。


「それでは、申し訳ありませんが、私も席に着き食事をとらさせていただきます」


 メイドが椅子を引き、オリヴィアはお手本のように椅子へ座った。


 彼女は実演で食事を行う。その所作は、本当に美しいと感じた。


 まずは前菜、そしてパン、魚料理ときて、肉料理、締めくくりとしてデザート。

 朝ということもあり、全体的に量は少なめとなっている。


 色々と説明しながらの実演だったが、正直覚えきれない。

 そのため、食べるように促され戸惑うというのは、初めての経験だ。

 

 目の前には、前菜のサラダ。


 ソフィーは特に気にした風もなく、食事に手を付ける。

 素人だからかも分からないが、オリヴィアと比べても全く遜色がないように見受けられる。


 マリアとしては謎のライバル心が湧き上がってくるのだが、如何せん、まったく勝てる気がしない。


 とは言え、このまま見ているだけではだめだと自分を奮い立たせた。

 しかし、食べるところを凝視され、指摘されるたび――心がくじけそうになる。


 料理は美味しい――美味しいはずなのに、まったくそれを感じない。


 これでは、料理が可哀そうだなぁーと、マリアは感じた。

 そのため、頑張らなければと自分を鼓舞するのだった。


 そして、相変わらずソフィーはこちらを見て、優しげな顔。

 マリアは叫び出したい自分を、なんとか押さえ込んだ。

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