三十二章 狐族の長、文字を考える
長は、狐族にしか見えない道を通り、石造りの蔵に入っていく。
奥には、埃の積もった書が、山積みになっている。
その一冊を取り、めくっていく。
何周期か前の歴史書である。
あるところでは、次のように記されている。
あるとき、大国がこの国に二回、攻めてきた。
大国の軍は、遠くを射る弓を持ち、この国の馬を乱心させる大砲を使った。
戦い方も、この国より優れていた。
しかし、大国はこの国の軍に苦しめられ、嵐に船は沈み、撤退した。
また、あるところでは、次のように記されている。
東の大陸から、この国の南部に軍が攻めてきた。
南部の民は大勢死んだ。
南部の軍は、援軍なくとも、戦い抜いた。
山岳の戦いに通じていたため、東の大陸の軍は、被害が予想を上回り、
予定を変えた。
他に、あるところでは、次のように記されている。
この国の平和を考えるとき、陰陽寮の人によって書かれた、
真に秀でた四十八の教えを伝える内伝書がもとになった。
長が書をめくり続けると、解読不可能と思われる、畸形な文字が錯綜するようになり、やがて白紙が現れてくる。
長は考える。
せめて、同じ「文字」で、歴史書が書かれているならば、この山積みになっている書も宝の山になっているであろうこと。
そして、読み比べることができるならば、よりよい治政を知るであろうこと。
歴史を通じた文字の統一を、落ち着いたら姫に相談したいこと。
全ては、幾千年も続く、人と狐の民の安寧のためと、長は思う。




