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第58話 清、作戦開始

 その頃イグラァ本社では、専務の大谷と農業と動物性タンパク質のプロジェクトチームが会議をしていた。


 大谷は、つむぎたちのプロジェクトの成功と野菜の販売の成功について話した。


「まず、つむぎさんたちの畑で収穫した野菜は検査の結果、全く問題なく調理も生食も可能だった。そして市場も盛況で全て完売した」


「「おぉぉ」」


「そして、懸念していた『野菜が収穫後も20倍の速度で腐る可能性』についても、収穫して本体の植物から離れた野菜はゲーム内の時間と同期した事を確認し、本体の植物は引き続き20倍で枯れる事を確認した」


「「おおお!」」


「そして動物性タンパク質プロジェクトのニワトリだが、プロジェクトチームの素晴らしい働きにより、エサから卵を生産出来る可能性のある雌鳥めんどりが2羽完成した」


「「おおおお!」」


「ニワトリは現在ピンデチふれあい苑の敷地で飼育中で、収穫したトウモロコシを乾燥させて砕いたものを与えている。近々結果が報告されるだろう。私からの報告は以上だ」


 大谷がそこまで話すと、それを聞いた農業プロジェクトの稲作チームが大谷に発言した。


「大谷専務。たった今、ミナモトの一団より田植えが終わったとの報告が入りました。苗は問題なく田んぼに順応しているようです」


「おお、それは良かった!」


 すると農業プロジェクトの野菜チームも大谷に発言した。


「大谷専務。先ほどピンデチふれあい苑担当の者から、収穫した小麦から小麦粉を作る事に成功したとの報告が入りました。そしてプレイヤー様のミッチ様が『うどん』を完成させました」


「なんと! それは貴重な1歩だ!」


「さらに、ミッチ様のご友人Choco様はジャガイモと小麦粉でニョッキを作ることに成功し、さらに小麦粉と水を使ってパンに使う天然酵母の発酵に取り掛かっております」


「素晴らしい! ……それにしても我らは本当に運が良い。機密を守ってくださるつむぎさんのご友人たちが料理に精通しているとは……」


「はい。それにミッチ様とChoco様は稲作の話をお聞きになり、ぬか漬けや土壌改良の可能性もお話になられておりました」


「それは面白そうだ。現在、脱穀機をマシン・デザイン部門にお願いしている。籾殻もみがらは一部回収できるように提案しておこう」


 するとそれを聞いた動物性タンパク質プロジェクトの女性部長が発言した。


「大谷専務。現在私たちは乳牛の完成に力を注いでいます。完成すれば牛乳やチーズ、そして卵と合わせればプリンなども視野に入ってきます。そうなれば我が社のVR世界は素晴らしい食の体験ができる世界になります」


「おお、正にその通りだな。乳牛の完成、楽しみにしているぞ」


「はい。できるだけ早く完成させてみせます」


 こうして会議は続き、VR世界でおじいさんがお好み焼きを作ることができる日も近づいて来たのだった。


 ◆


 その頃、アーボンとゴーストは森の島で対面していた。


「ゴーストさん、先日はどうも」

「これはこれは、アーボンさん」


「いやぁ、メッセージありがとうございました。眷属が使えないって知らなくって……」


「いえいえ、やはり正々堂々と戦ってこその模擬戦です。それに知っているのに黙っていては我らも笑われます」


 ゴーストはそう言ってアーボンに笑顔になると、メイとナミの前へと行って挨拶をした。


「メイさん、ナミさん、本日はよろしくお願いしますね」


「ゴーストさん相手じゃ気が引けるけど、わたし頑張るね」

「ぅん。がんばる」


 ゴーストは2人に笑顔を見せると、タケチと清にも会釈をした。


 そしてアーボンの所へ戻るとアーボンと握手しながら言った。


「では宜しくお願いします」

「こちらこそ宜しくお願いします、ゴーストさん」


 アーボンとゴーストは別々に分かれて自陣の砦へと向った。


 ◆


 ゴーストたちは自陣の砦へ向かう途中、メンバーの1人の大司教がゴーストに言った。


「ゴーストさん、あれが今日の相手ですか?」


「ああ。そうだ」


「テイマーと大司教の女の子たちは分かるんですが、アーボンはヘタレ両手剣ですし、タケチは攻撃力が弱い片手剣ですよ? それにあの老人、岩の杖って……」


「そうだな。我々は大司教で賢者の私と、大司教1人に賢者3人だ。戦力の差が大きいが、テイマーがテイムしたモンスターを使うことが出来ることを忘れるな」


「あ、ええ。しかしナミってコはララガを使うと聞いています。ララガであれば氷の魔法と炎の魔法で水を作って攻撃すれば……」


「それは理論上の話だ。我らはテイマーとの戦闘経験はない。必要以上に怖がる必要もないが、警戒を怠らないようにな」


「あ、いや、……はい」


 大司教のプレイヤーは納得いかない表情で答えた。


 ◆


 その頃アーボンたちは自陣の砦で清の作戦を聞いていた。


「まず敵は大司教で賢者のゴーストさんを筆頭に、大司教1名と賢者が3名おります」


 清は地面に枝で絵を描きながら話を続けた。


「おそらく湖上での戦闘に相性の良い大司教が遊覧船で攻めてくるでしょう。そこをメイさんとナミさんで遊覧船で迎撃して頂きます」


「まずはナミさん、例のあれで敵の大司教を驚かせてください」


「ぅん」


「その隙にメイさんはウィンドブッチャーを」


「うん、分かった!」


「その後はナミさんが中心に攻撃をお願いします」


「しょぅち」


 すると清はアーボンとタケチに説明を始めた。


「私の推測では残り3人のプレイヤーが賢者である以上、防御魔法が使えるゴーストさんが砦の防衛をするのではないかと思います。湖の横を抜けてこちらに攻めてくる場合、賢者は3人一緒か、2人と1人になるはずです」


「はい」

「はい」


「ナミさんからの報告を受け次第、手筈通てはずどおりにお願いします」


「おっけー、清さん!!」

「はい、がんばります!」


 こうしてアーボンたちとゴーストたちの戦いが始まったのだった。


 ◆


 メイとナミが遊覧船で出発すると、清の読み通り大司教が1人で遊覧船に乗って近づいて行きた。


 しかし敵の大司教は遊覧船を止めて両手を広げてから大きく挨拶したため、メイとナミも敵の遊覧船から少し距離を取って船を止め、一緒に頭を下げて挨拶を返した。


 しかしその瞬間、敵の大司教はメイとナミの礼儀正しさを嘲笑うかのようにウィンド・ブッチャーの構えを取って不意打ちに打って出ようとした。


「あ、ズルっ!」

「だいじょぅぶ」


 ナミは敵の大司教より早くタクトを振って静かに言った。


「スノたん」

 ブワッ!


 すると大きく翼を広げたドラゴン状態のスノたんが現れた。


「なぁぁっ!!!」


 ウィンド・ブッチャーを放とうとした敵の大司教は予想だにしなかった事に思わず声をあげてウィンド・ブッチャーを中断させてしまうと、目の前に音量警告の表示が現れた。


「しっ、しまった」


 敵の大司教が思わず声を漏らしたその瞬間、


 ズババババババババババババッ!!!


「ぐわぁぁっ!!」


 なんとメイが放ったウィンド・ブッチャーが全て敵の大司教に命中した。


「や、やばい……」


 敵の大司教は慌てて大司教の杖を振りかぶってウィンド・ブッチャーで反撃しようとしたが、頭上からの音に気づいて空を見上げた。


 ズド、ド、ド、ド!!!


「うげっ!」


 なんとスノードラゴンに乗ったナミが空から放った矢が見事に全て敵の大司教にヘッドショットを決めた。


「……う、……そ」


 しかしまだHPが残っていた敵の大司教は空のスノードラゴンに向ってウィンド・ブッチャーの構えを見せた。


 するとそれを見たナミは、回り込むようにシロたんを湖スレスレまで急降下させた。


 そしてタクトを振って言った。


「スノたん、シロたんと交代」


 ブゥゥンン……


 するとスノたんが消えて白蛇の状態のシロたんが現れた。


 ナミはシロたんにつかまると一緒に滑るように静かに湖に入水した。


 チャプン……


 ナミとシロたんは敵の遊覧船の下をくぐるように泳いでいった。

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