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異世界転生数秘術〜転生するのはあなたです〜  作者: Z.KEY
XNo.16 施しの魔術師 マギル編
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第一章 第三節〜施しの魔術師〜

 ヴァルガロムを出発してから半日。


 マギル達六人は、火山山頂へ続く岩場を進んでいた。


 空気は相変わらず熱い。


 だが都市周辺より風が強く、火山灰混じりの熱風が絶えず吹き抜けていく。


「うわ、景色終末世界すぎる……」


 マギルは黒い岩山を見上げながら呟く。


 視界の先には、赤く脈動する溶岩流。


 地割れから吹き出す白煙。


 硫黄臭。


 時折、大地そのものが低く震えていた。


「ゲブラーの外縁部は大体こんなもんだ」


 レジーナが肩を竦める。


「新人がここで迷子になると死ぬ」


「サバイバル難易度高いなぁ……」


「だから道案内込みでパーティ組むんだよ」


 前方では騎士の青年――ガルドが先導している。


 巨大盾を背負った寡黙な男で、今回の即席パーティの実質的な隊長らしい。


 僧侶の青年フィオは後衛寄りに位置取りし、盗賊の少女ミナは周囲を警戒しながら歩いている。


 最後尾には狩人の青年シグ。


 弓を肩に担ぎ、魔物の気配を探っていた。


「止まれ」


 不意に、狩人シグが低く言った。


 全員の足が止まる。


「前方左。岩陰」


 その瞬間。


 黒い影が岩場から飛び出した。


「ギィッ!!」


「うわっ!?」


 犬に似た魔物だった。


 だが皮膚は焼け焦げたように黒く、口元から火の粉を漏らしている。


「火喰い犬だ! 二体!」


 レジーナが即座に剣を抜く。


 騎士ガルドが盾を構え前へ出る。


 マギルの心臓が大きく跳ねた。


 初めての実戦だった。


「マギル!」


「はい!」


 反射的に返事をする。


「落ち着いて後衛やれ!前出んな!」


「了解!」


 頭では理解していた。


 自分は前衛ではない。


 なら、やる事は一つだ。


 マギルは深呼吸する。


 身体の奥。


 訓練で掴み始めた熱の流れを意識する。


 魔力。


 それを掌へ集める。


「――燃えろ!」


 放たれた火球が、火喰い犬の横腹へ直撃した。


 爆ぜる炎。


「ギャウッ!?」


「当たった!」


「よし、そのまま牽制!」


 レジーナが笑う。


 火喰い犬が怯んだ隙に、騎士ガルドが前進。


 盾で一体を弾き飛ばした。


 もう一体は盗賊ミナが足を斬りつけ、動きを止める。


「シグ!」


「任せろ」


 狩人シグの矢が火喰い犬の喉を射抜いた。


 絶命。


 残る一体へレジーナが突っ込む。


「おらァッ!」


 大剣が振り下ろされ、火喰い犬の頭部を叩き割った。


 戦闘終了。


 静寂。


「……終わった?」


「終わったな」


 マギルはその場にへたり込んだ。


 心臓がうるさい。


 手が震えている。


「初陣なら上等だ」


 レジーナが笑いながら剣を担ぐ。


「ちゃんと後衛できてたぞ」


「寿命縮んだ気がします……」


「そのうち慣れる」


「慣れたくないなぁ」


 だが。


 自分の魔術が通用した事に、少しだけ安堵していた。



 山頂へ近づくにつれ、空気が変わっていった。


 熱は増している。


 だが同時に。


 奇妙な静けさがあった。


「……なんか、変ですね」


 マギルが呟く。


「気づくか」


 僧侶フィオが感心したように言った。


「この辺りは特別なんだ」


「特別?」


「この世界の各領域には、別領域の力の残滓が宿る場所がある」


 僧侶フィオは火口の方角を見上げる。


「この火山山頂には、“始まり”に近い力の残滓が宿っていると言われている」


「始まり」


「だから“聖なる種火”が生まれる」


 マギルには詳しい理屈は分からない。


 だが。


 火口へ近づくほど、胸の奥が静かに震えていた。


 恐怖ではない。


 何か巨大なものへ触れているような感覚だった。



 山頂へ近づくにつれ、空気が変わっていった。


 熱は増している。


 だが同時に。


 奇妙な静けさがあった。


「……なんか、変ですね」


 マギルが呟く。


「気づくか」


 僧侶フィオが感心したように言った。


「この辺りは特別なんだ」


「特別?」


「この世界の各領域には、別領域の力の残滓が宿る場所がある」


 僧侶フィオは火口の方角を見上げる。


「この火山山頂には、“始まり”に近い力の残滓が宿っていると言われている」


「始まり」


「だから“聖なる種火”が生まれる」


 マギルには詳しい理屈は分からない。


 だが。


 火口へ近づくほど、胸の奥が静かに震えていた。


 恐怖ではない。


 何か巨大なものへ触れているような感覚だった。



 火口部へ到着した時。


 マギルは思わず息を呑んだ。


「……綺麗」


 火口の中心。


 赤熱する溶岩の傍に、無数の白い結晶が浮かんでいた。


 拳大の結晶。


 その内部には、小さな炎が揺らめいている。


 まるで星の欠片だった。


「あれが“聖なる種火”だ」


 騎士ガルドが告げる。


「魔物避けの炎の元になる」


 レジーナ達は慣れた手付きで耐熱容器へ結晶を回収していく。


 マギルも恐る恐る結晶へ触れた。


 熱いはずなのに、不思議と焼ける感覚はない。


 むしろ温かかった。


「不思議……」


「旅人や行商人も、小型ランタンに入れて持ち歩くんだ」


 僧侶フィオが説明する。


「弱い魔物なら近寄れなくなる」


「便利アイテムだ」


「命綱だよ」


 この過酷な領域では、それだけ夜の外が危険なのだろう。



 帰路。


 日が落ち始めると同時に、周囲の闇が濃くなっていく。


 マギル達は“聖なる種火”を入れたランタンを灯して進んでいた。


 白い炎が静かに揺れている。


 その光を避けるように、小型魔物達が岩陰へ逃げていった。


「本当に効くんですね」


「低級魔物は嫌がるからな」


 レジーナがランタンを掲げる。


「ただし――」


 その瞬間だった。


 岩場が揺れる。


 地鳴り。


 巨大な影。


「っ!?」


 溶岩色の目が闇の中で光った。


 現れたのは、四足歩行の巨大魔物だった。


 黒鉄のような外殻。岩盤じみた巨体。口元から漏れる灼熱。


「……冗談でしょ」


「熔岩獣だ!!」


 狩人シグが叫ぶ。


「種火効かねえぞ!」


 熔岩獣が突進した。


 轟音。


 騎士ガルドが盾で受け止める。


「ぐっ……!」


 盾が軋む。


 凄まじい重量だった。


「散開!」


 レジーナが叫び、前衛が左右へ展開する。


 マギルは咄嗟に火球を放つ。


 だが。


「硬っ!?」


 炎が外殻を焼くだけで致命傷にならない。


 次の瞬間。


 熔岩獣の尾が横薙ぎに振るわれた。


「フィオ!!」


 僧侶フィオが吹き飛ぶ。

 岩へ叩きつけられ、血が散った。


「っ……!」


 マギルの思考が止まる。


 重傷。


 あれは危ない。


 そう理解した瞬間だった。


 胸の奥で。


 あの“別の流れ”が脈動した。


 誰かへ向かって流れていく感覚。


 与える力。


「――あ」


 理解してしまった。


 これは。


 自分の力を、誰かへ渡すものだ。


 マギルは反射的に僧侶フィオへ駆け寄る。


「マギル!?」


「じっとして!」


 彼女は僧侶フィオへ手を伸ばした。


 瞬間。


 身体の奥から、何かが抜け落ちていく。


 熱。


 生命力。


 自分自身の一部。


 それが光となって僧侶フィオへ流れ込んだ。


「なっ……」


 裂けていた傷が、淡く光りながら塞がっていく。


 僧侶フィオが目を見開いた。


「治って……」


 同時に。


 マギルの身体から力が抜けた。


「っ……!」


 膝が揺れる。


 息が重い。


 だが、立てないほどではない。


「マギル!お前それ!」


「後で説明します……!」


 熔岩獣が再び突進する。


 前衛が押され始めていた。


 このままでは崩れる。


 その時。


 マギルはもう一つの感覚へ手を伸ばした。


 今度は生命ではない。


 自分の力を、一時的に渡す。


「レジーナ!!」


「何だ!?」


「今だけ、持ってって!!」


 マギルが手を掲げた瞬間。


 赤い光がレジーナへ流れ込む。


「――ッ!?」


 レジーナの身体から爆発的な圧力が迸った。


「何だこれ……!」


「多分、バフです!!」


「雑だなお前!!」


 だが効果は絶大だった。


 レジーナが地面を蹴る。


 速度が違う。


 一瞬で熔岩獣の懐へ潜り込む。


「おおおおおッ!!」


 振り下ろされた大剣が、熔岩獣の外殻を真正面から叩き割った。


 轟音。


 赤熱した血飛沫。


 巨体が崩れ落ちる。


 静寂。


 そして。


「……勝った?」


 マギルの呟きと共に、全員が息を吐いた。



 ヴァルガロムへ帰還した頃には、夜が明け始めていた。


 巨大な港湾都市の街灯には、“聖なる種火”の白い炎が揺れている。


 その光を見上げながら、マギルは壁へ寄りかかった。


「つっかれた……」


「初遠征で熔岩獣戦やった新人が言う台詞じゃねえ」


 レジーナが苦笑する。


 だが、その目はどこか真剣だった。


「……お前、何者だ?」


「私も知りたいです」


 それが、マギルの本音だった。


 魔術師。


 そして、もう一つの力。


 誰かへ与える、不思議な能力。


 自分は一体、何を与えられてこの世界へ来たのか。


 まだ答えは分からない。


 だが。


 異界セフィロトでの彼女の運命は、この戦いを境に大きく動き始めていた。

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