第120章 ガストンの夜 ― 海沿いの家で
第120章 ガストンの夜 ― 海沿いの家で
ガストンの町は、夕暮れの光に包まれていた。
港に並ぶ船の影が海面に揺れ、潮風が心地よく頬を撫でる。
すすむとマリー、そしてボルトンの三人は、港沿いの道を歩いていた。
「ここだよ。私の家は」
ボルトンが指差した先に、白壁の家が見えた。
青いドアと窓枠が映える、どこか地中海の家を思わせるような爽やかな外観だ。
海沿いの風景とよく馴染み、落ち着いた雰囲気を漂わせている。
「……大きい家ですね」
すすむは思わず呟いた。
ボルトン一人で住むには、広すぎるほどの家だった。
「ギルマスターってのは、いろいろと来客も多いからね。
それに……マリーがいつでも帰ってこられるように、部屋を空けてあるんだよ」
「お姉様……」
マリーは、少し照れたように微笑んだ。
すすむは、車を家の前で停めると、能力で収納した。
木製の外装で偽装された車が光に包まれ、すっと消える。
「収納魔法か……。
こんなに大きなものまで……。
……何も言うまい」
ボルトンは呆れたように、しかしどこか誇らしげに言った。
「さぁ、入って。
ちょっと待ってな。何か食事を出すよ」
三人は家の中へ入った。
★★★★★
家の中は、外観と同じく白を基調とした落ち着いた空間だった。
木製の家具が温かみを与え、窓からは港の灯りが見える。
「いい家ですね……」
「ありがとう。
まぁ、広いだけが取り柄だけどね」
ボルトンはキッチンへ向かい、棚から食材を取り出した。
「にしんの干物と……イカの燻製もあるよ。
簡単なものだけど、食べていって」
すすむとマリーは、テーブルの準備を手伝った。
すすむは、能力を使って食材を出す。
「――クロワッサン、ブドウパン、野菜、ハム、リンゴ、ミネストローネ」
光が弾け、次々と料理が現れる。
「相変わらず……すごい魔法だね」
ボルトンは、驚きながらも笑った。
「せっかくだから、パンとサラダ、スープを用意しますね」
すすむは、手際よく料理を並べていく。
クロワッサンの香ばしい匂いが部屋に広がり、ミネストローネの湯気が心を温めた。
「さぁ、食べよう」
ボルトンが席につき、三人は夕食を囲んだ。
にしんの干物の香りが食欲をそそり、イカの燻製は噛むほどに旨味が広がる。
すすむの出したパンはふわふわで、サラダは新鮮、スープは優しい味わいだった。
「……うん、これは……」
ボルトンはクロワッサンを一口食べ、目を見開いた。
「すすむ、あんた……料理も完璧じゃないか」
「いえ、これは僕の能力で……」
「能力だろうがなんだろうが、美味しいものは美味しいんだよ。
マリー、いい旦那さんをもらったね」
「はい……。
すすむさんの料理、大好きです」
マリーは、照れながらも嬉しそうに微笑んだ。
すすむは、少し顔を赤くしながらスープを飲んだ。
夕食は、笑い声と温かい空気に包まれながら進んでいった。
★★★★★
食事が終わると、ボルトンが言った。
「悪いけど……うち、風呂がないんだよ。
海沿いだから、昔から水場が弱くてね」
「そうなんですか?」
「うん。
だから、シャワーはギルドで浴びることが多いんだけど……今日はもう遅いしね」
すすむは、少し考えた後、静かに言った。
「じゃあ……ユニットバスを出します」
「……え?」
ボルトンは目を瞬かせた。
すすむは、家の空いているスペースに手をかざした。
「――ユニットバス、出現」
光が広がり、白いユニットバスが現れた。
シャワー、浴槽、洗面台まで揃った、完全な設備だ。
「なっ……!?」
ボルトンは、口を開けたまま固まった。
「お湯も排水も、魔法で処理されます。
水道は必要ありません」
「すすむ……あんた……
どこまで便利なんだい……!」
ボルトンは、感動したようにユニットバスを触った。
「ありがとう……本当に助かるよ」
「どういたしまして」
ユニットバスは一つなので、順番にシャワーを浴びることになった。
最初はボルトン。
次にマリー。
最後にすすむ。
シャワーの音が止むたびに、家の中に石鹸の香りが広がった。
「はぁ……生き返ったよ」
ボルトンは、髪をタオルで拭きながら言った。
「すすむさん、本当にありがとうございます」
「いえ……喜んでもらえてよかったです」
★★★★★
「二人とも、部屋は……ここを使って」
ボルトンが案内した部屋には、大きなベッドが一つ置かれていた。
「えっ……」
すすむは固まった。
「お姉様……これは……」
「夫婦なんだから、いいだろう?
それとも……床で寝るつもりかい?」
「そ、それは……」
すすむは、床に布団を敷こうとした。
だが、マリーがすすむの袖をそっと掴んだ。
「すすむさん……」
「マリー?」
マリーは、頬を赤くしながら言った。
「……一緒に……ベッドで寝ましょう」
すすむは、一瞬言葉を失った。
「で、でも……」
「夫婦……ですから……」
マリーは、恥ずかしそうに視線をそらした。
すすむは、胸が熱くなるのを感じた。
「……わかった。
一緒に寝よう」
「はい……」
二人は、並んでベッドに入った。
マリーは、すすむの腕にそっと触れた。
「すすむさん……」
「うん?」
「……おやすみなさい」
「おやすみ、マリー」
窓の外では、波の音が静かに響いていた。
ガストンの夜は、穏やかに、優しく、更けていった。




