第119章 ガストンへの道 ― 義姉との旅路
第119章 ガストンへの道 ― 義姉との旅路
すすむとマリーの結婚式から二日が経った。
村の祝宴はようやく落ち着き、グレン村はいつもの穏やかな空気を取り戻しつつあった。
そんな中、ガストン冒険者ギルドのギルマスターであり、マリーの異母姉でもあるボルトンが、村を離れる日がやってきた。
「二人とも、本当に世話になったわ。
結婚式まで見届けられて、嬉しかった」
ボルトンは、荷物を肩に担ぎながら微笑んだ。
その表情には、姉としての誇らしさと、少しの寂しさが混じっていた。
「ボルトンさん、こちらこそ……ありがとうございました」
マリーは深く頭を下げた。
すすむも隣で同じように頭を下げる。
「姉さんが来てくれたおかげで……僕たちは背中を押してもらえました」
「ふふ……あんたたち、素直になっただけよ。
私はちょっと手伝っただけ」
ボルトンは、照れ隠しのように肩をすくめた。
だが、すすむとマリーは知っている。
彼女がいなければ、二人が結婚を決意するのはもっと先になっていたかもしれない。
「姉さん、ガストンまで送りますよ。
感謝の気持ちも込めて」
「えっ……いいのかい?」
「もちろんです」
こうして、三人のガストンへの旅が始まった。
ガストンまでは、およそ120キロ。
山道を越え、谷を抜け、いくつもの峠を越える必要がある。
普通の馬車なら、三日はかかる距離だ。
だが、すすむには――
この世界に来た時に持っていた“車”がある。
「よし……出すか」
すすむは、手をかざして能力を発動した。
「――車、出現」
光が弾け、木製の外装で偽装された車が姿を現した。
外見は馬車に見えるが、内部は完全に車そのものだ。
「……何度見ても、不思議な魔法だね」
ボルトンは、興味深そうに車を眺めた。
「義理の弟が、こんな特異な魔法を使えるなんて……
なんとも言えない気分だよ」
「はは……僕も、まだ慣れてません」
すすむは苦笑しながら運転席に乗り込んだ。
マリーは助手席に座り、ボルトンは後部座席に腰を下ろした。
「じゃあ、行きますね」
すすむがアクセルを踏むと、車は静かに動き出した。
★★★★★
グレン村を出てしばらくすると、道は徐々に険しくなっていった。
山道は曲がりくねり、ところどころ岩が転がっている。
普通の馬車なら、揺れで乗っているだけでも疲れる道だ。
だが――。
「……揺れが少ないね」
ボルトンは、驚いたように言った。
「行きにも、似たような大型の馬のいない馬車に乗ったけど……
あれも、すすむの魔法なんだよな?」
「はい。
あれは、僕が出した“バス”です」
「バス……?」
「大きな車みたいなものです」
「なるほどね……。
あんたの魔法は、本当に規格外だよ」
ボルトンは、感心したように腕を組んだ。
マリーは、窓の外を見ながら微笑んだ。
「すすむさんの魔法は……本当に頼りになります」
「いや、そんな……」
すすむは照れながらも、どこか嬉しそうだった。
★★★★★
車が山道を進んでいくと、前方に異変が見えた。
「……あれ?」
すすむは車を停めた。
道の先が、完全に塞がれている。
大量の土砂、折れた木々、崩れた岩。
大規模ながけ崩れが発生していた。
「これは……ひどいな」
ボルトンが険しい表情で言った。
「歩いて越えるのは……無理ですね」
マリーも同じく困った顔をしている。
崖は急で、足場も悪い。
無理に進めば、滑落の危険がある。
「どうする……?」
ボルトンがすすむを見る。
すすむは、少し考えた後――
静かに言った。
「……ユンボを出します」
「ユンボ……?」
ボルトンは首をかしげた。
すすむは、車から降り、手をかざした。
「――ユンボ、出現」
光が弾け、巨大な建設機械が姿を現した。
黄色いボディ、長いアーム、鋼鉄のバケット。
まさに“ユンボ”そのものだ。
「なっ……!?」
ボルトンは、目を見開いた。
「すすむさん……これを使うんですか?」
マリーも驚きながら尋ねる。
「はい。
これなら、土砂をどけられます」
すすむは、ユンボに乗り込み、エンジンをかけた。
ゴォォォォォ……
重低音が山に響く。
すすむは、ユンボのアームを操作し、崩れた土砂を次々と掬い上げていった。
バケットが土砂を掬い、横に移動して捨てる。
また掬い、また捨てる。
その動きは、まるで熟練の作業員のように滑らかだった。
「すすむ……あんた、こんな機械まで扱えるのかい……?」
ボルトンは、呆然と呟いた。
「すすむさんは……なんでもできます」
マリーは、誇らしげに微笑んだ。
作業は続く。
崩れた岩を砕き、木々をどけ、道を整えていく。
太陽が高く昇り、また沈み始める頃――
ようやく、道が開通した。
「……終わった」
すすむは、額の汗を拭った。
「たった……四時間で……?」
ボルトンは、信じられないという顔をしていた。
「普通なら……数日かかる作業だよ……。
あんた、本当に……何者なんだい?」
「ただの……ホテル経営者ですよ」
すすむは照れながら笑った。
「ふふ……義理の弟が、こんな規格外だなんて……
マリー、あんたも大変だね」
「はい……でも、誇りです」
マリーは、すすむを見つめながら言った。
ユンボをしまい、三人は再び車に乗り込んだ。
夕日が山を赤く染める中、車はガストンへ向けて走り出した。
山道を抜け、谷を越え、平地に出ると――
遠くに大きな城壁が見えてきた。
「あれが……ガストンの町です」
ボルトンが指差した。
夕暮れの光に照らされた城壁は、どこか荘厳で、力強さを感じさせた。
門の前には兵士が立っている。
「おーい!」
ボルトンが手を振ると、兵士たちは驚いたように姿勢を正した。
「ギルマスター!
お帰りなさい!」
「ただいま。
ちょっと遅くなったけどね」
兵士たちは、すすむたちの車を見て目を丸くした。
「こ、これは……?」
「気にしないでいいよ。
義理の弟の“魔法”さ」
ボルトンは笑って答えた。
こうして、三人はガストンの町に入った。
「今日はもう遅いし……
二人とも、うちに泊まっていきな」
「いいんですか?」
「もちろんだよ。
家族なんだから」
ボルトンは、優しく微笑んだ。
案内された先には、立派な木造の家があった。
ギルマスターとしての威厳を感じさせる、堂々とした造りだ。
「さぁ、入って。
夕食を用意するから」
「ありがとうございます、姉さん」
「お姉様……お世話になります」
三人は、温かい灯りのともる家の中へと入っていった。
こうして、すすむとマリー、そしてボルトンの旅は、無事にガストン到着という形で幕を閉じた。
だが、この旅は――
二人にとって、新たな家族の絆を深める大切な時間となった。




