第80話 運命を分けるバグ
残すは一人と逸る気持ちを抑えて最後の戦闘現場に移動する。
戦闘の音は既に無く、微かな呻き声が耳に届く。
「やっと来たか」
と話し掛けてきたのは眼鏡を掛けたブロンド碧眼の男で、倒れたミイナさんの胸に片足を乗せていた。
銀髪の隊員は気を失っているのか既に事切れているのか確認が出来ない。
「その汚い足をどけろ!」
「あぁ?
どけてください、の間違えだろうが!
このクソガキがっ!」
会話では埒が明かないので魔道銃の銃口を眼鏡の敵に向けようとすると、男が足に力を入れたようでミイナさんが悲鳴を上げた。
「この女の命が惜しけりゃ、その武器を使えると思うなよ」
「武器を捨てたからと言って、ミイナさんを解放する気は無いんじゃないか?」
「まぁ、そうだな。
お前ら六人が纏めて掛かってきたところで俺には勝てない以上、結局死ぬのが先か少し後かの違いしか無い」
随分と傲慢な物言いだが、確かにこの眼鏡の男は今までに会った誰よりも強烈なオーラのような物が感じられる。
ゲーシルさん達ドルチェの三人、マリー夫妻、ハンターギルドの教官二人もかなりの強さの筈なのに、彼らとはまるで次元が違うヤバさだと本能が逃げる選択肢を強く推奨してくる。
「何が目的でここに来た?」
「目的ねぇ?
そうだな、強いて言えば上司に対する嫌がらせ的な?」
「上司? お前の上司? それとも俺の?」
俺の上司は誰でもないが、強いて言えば領主様、ギルドマスターだな。ゴンタさんはどうでも良いにしても、領主様に対する嫌がらせで人を殺そうなんて頭がおかしいだろ。
「あぁ、言い忘れていたがお前の考えは俺には手に取るように分かるんだよ」
「それは良いから、上司の話プリーズ」
「俺の上司は下らないオヤジギャグばっかりいつも言うわ、暴れベルジャンブルーと素手で戦わせるわ、飛んでもない鬼上司だったな」
「牛と素手で……マジか?」
「遣唐使から拳と牛だ。オヤジギャグに付き合わされる俺の身にもなってくれよ」
遣唐使ってことはコイツも転生者か。
「さてと、次長にカスタムアバターの実力を見せ付けてやりましょうかね」
「お前の上司は次長? いやさ、なんでこのら村を襲うのが次長への嫌がらせになるんだ?」
「お前が次長の下僕だからだよ」
「意味が分からん」
どう言うこと? でも下僕って……どこかで聞いた覚えがあるような……どこだった?
「さぁ、処刑を始めちゃいますよ!
次長! 最初の一撃でダイブチケット使ってますよね~ケラケラ。
大事な下僕が元部下に殴り殺しにあう様をよーく見ててくださいね~」
次長とやらがこの場を見ているのか?
そんな馬鹿なことがあるのか?
「考えごとする暇なんて……」
突然目の前から眼鏡男の姿が消えた。
ヤバい――
気が付くと無意識に抜いていた短剣が眼鏡男の脇腹に突き刺さっていた。俺に何かの攻撃を仕掛けてきたコイツにカウンターを入れたのか?
《まさかケント神がここまでやるとはな》
気のせいか、そんな声が聞こえたような気がする。
「……クリティカル?」
《そんな……ダイブ出来ない筈じゃ……》
《最初の一撃は正真正銘のマグレ当たりだ。それを勝手に俺がダイブしたと思い込んだのがお前の敗だ》
ん? 空耳にしてはハッキリ聞こえるような……俺なのに俺じゃない声が出てる?
全く意味が分からないよ。
《これで終わると思うなよ》
眼鏡男の怨念に満ちた声を心の声を空耳で聞くとは、俺も大したエスパーだな……と冗談を考えてみるが、勝てないと思った相手によく分からないが勝った喜びより手に伝わった衝撃が後になって心に響いてくる。
俺は人を殺してしまった……自分でもいつ抜いたのか分からないのに、確かにこの手が握った短剣が相手の体に突き刺さってる。
どうしよう……正当防衛なら殺しても構わない?
ピコン
俺の気持ちなど知ったことかとアラームが一度鳴ると、ステータス画面が勝手に開いた。
【アイテム[死出の道連れ]が相手にプレーヤーに使用されました
自動的に当キャラクターは死亡となります】
勝手に殺すなよ!
と言うか、プレーヤーとかキャラクターとか、ゲームじゃないんだからおかしいだろ。
【コンティニューしますか?
YES/NO】
まさか、この世界ってホントにゲーム?
ホントに俺死ぬの?
でもまだ死ぬつもりはないからコンティニューするに決まってるだろ。 YES。
【コンティニューするにはダイヤ1000個が足りません
ダイヤを購入しますか?
YES/NO】
ダイヤって課金ダイヤのことか?
レートは知らないけど、俺の資産で買えるなら買うよ。アイロンのお陰で少し懐が温まったからな。 YES。
ピコン
【ダイヤを購入しました
キャラクターが復活しました
引き続きゲームをお楽しみください】
ホントにダイヤが買えたの?
どう言う原理か知らないけど、これで死なずに済むんだよね?
◇
ふと気が付くと、俺は血塗れの短剣を握りしめていた。
眼鏡の男は既に息絶えているらしく、ドーリアさんが布を持って来るよう指示を出していた。
それよりミイナさんは?
短剣を投げ捨て、倒れているミイナさんの元に駆け寄った。顔には強く殴られた跡があり、呼吸の音もおかしくて激しく咳き込んでいる。
「ヒール、ヒーラー、ヒーレストっ!」
顔のあざは消えていったけど、呼吸の音は変わらない。まさか肺に骨が刺さってるの?
何度か試して見るが『再生医療』では一向に治る兆しが見えずに、次第にミイナさんの呼吸が弱くなっていく。
「くそっ! どうして治らないんだよ!
毎日お供えしてるんだから、ちょっとスキルレベルを上げてくれてもいいだろうがっ!
ちくしょー、ステータスっ!」
やけになってステータス画面を開くと、ずっと無視してきた『お供えポイント』に意識を集める。コイツが多分今までのお供えで貯めたポイントなんだろう。
使えるかどうか知らないし、そもそも何でこんな画面が見られるのか意味が分からないが今は気にしている場合じゃない。
【お供えポイントを使う項目を選択してください
・能力の向上
・スキル獲得
・ガチャ】
治癒魔法のスキルを上げる選択肢は無い?
能力の向上は今の筋力とか知力とかを上げるだけだろうし、スキル獲得は文字通りに新しいスキルを獲得するんだろう。
ガチャは……何が出るか分からないよね。
くそっ、どれがミイナさんの命を助ける手段なんだよ?
スキル獲得で手持ちのスキルとダブったらレア度が上げられるか?
それとも運を天に任せてガチャに注ぎ込むか? スキル獲得だって運任せか……。
もし失敗したらミイナさんを見殺しにしてしまうかも知れないけど、悩んでいる時間も無さそうだ。決めるしかない……
◇
『ちょっ! 待てっ!
何で下僕のお前が俺の口座で課金出来るんだよっ! バグか?
1000ダイヤだぞ、10万Gだぞっ!』
ケント神そっくりのキャラクターが死の間際に使用したアイテムは、自分を殺した者を道連れにする呪いのアイテムでありキャラの死亡は不可避である。
ただ、このアイテムは運営が用意したものではなく、ケント神がハッキングして仕込んだものである。
ケント神アバターがもし万が一セルバンに破れたとしても、これを使ってセルバンを倒してジロー次長に身勝手な復讐をしようと企んでいたのだ。
このような悪質な手によってキャラロストしても、被害者に一切補填しないのがマジチュア運営である。人の命をエンタメの材料にするような運営なのだから、被害者は運が悪かったと泣き寝入りするしかない。
ジロー神の言う10万Gは1万円相当と実は大した額ではないのだが、無課金プレーヤーである彼が自分の意思に関係なく課金してしまったことに腹を立てただけである。
だが即座に運営にクレームを入れたことでケント神の悪行が次々と明るみに出たことで、今回に限り10連ガチャ券が送られたのが幸いである。
「なんでお前がお供えポイントを使えるんだよっ!
バグか? 絶体馬具だよな?」
ピコン
【お問い合わせの件、確かにバグではありますが下僕がお供えしたことで得たポイントなので、下僕が消費するのは問題なしと判断し、修正は行わないこととなりましたのでご了承願います】
◇
ルピナス村襲撃事件から四年が過ぎて、俺は十七歳になった。
ライフル型魔道銃はあまりにも危険性を秘めていると言う理由で廃棄処分……と言うのは建前で、王宮にひっそり眠ることとなった。
ケンタローは魔力式センサーを搭載し、今でも畑の隅で害鳥を追い払う任務に明け暮れている。
魔紋式個人識別装置の運用も本格的にスタートし、俺はバリシアに一番近い村で村長を務めることになった。
俺の隣にはいつもミイナさんが居てくれる。お供えポイントで回したガチャで得た使い捨てアイテム『時間遡行』で傷を負う前の体に戻すことが出来たお陰だろう。
あの眼鏡男、どこかで見覚えがあると思ったら、俺が転生する時に居たヨイショ下手の神様だよ。
神様の下僕としてこの世界に送り込まれたと思っていたら、まさかこの世界が神様のゲーム世界だったなんてね。
きっと暇を持て余した神様達が異世界を作って死んだ人間を送り込んで駒にしているのだろう。
ミイナさんみたいに転移してくる人は、次元の狭間でも通って来たのだろうか。地球からこっちに来れたってことは、こっちから地球にも行ける可能性がある訳だ。
俺は地球に未練は無いけど、ミイナさんはどうなんだろうね。
あの事件移行、ミイナさんも本気で剣の訓練を始めて強くなった。ひょっとしたら転移した場合には特典が与えられてるんじゃないかと思うぐらいの成長ぶりだ。
それに引き換え俺はハンターギルドと商業ギルド、更に魔道具ギルドと三足のサンダルを履いているせいかあまり上達したとは言えないな。
でも良いんだよ、村長自ら戦う必要は無いんだから。元チビッ子三人組を筆頭に、村の子供達も立派な戦力に育っているからね。
何と言ってもケンタローの魔石に魔力をチャージ出来る子供達の魔法がヤバい。俺の魔道銃より破壊力があるんじゃないかって疑うぐらいの魔力弾をビュンビュン発射するんだからね。
それにドルチェの三人も村に暮らすことになって、子供達の訓練をしたり畑を耕したりとのんびり過ごしている。
村長の仕事なんて税金のことを除けば大したことはない。通信装置に異常が無いか確認してれば良いんだからラクなもんだよ。
ラッシュメイデンの五人は事件の後、修行をやり直すと言って王都へ戻った。技も体も破壊力抜群の彼女達にはずっと居て欲しかったような、居て欲しくなかったような。
ミイナさんが居るから他の女性のことを考えたらダメなのか。
今日の仕事は通信アンテナの定期検査だ。安全帯と命綱の用意をして、高い鉄塔に登っていく。このアンテナが高い位置にあるほど魔力通信距離が延びるそうだ。理論は知らないけどマキナさんがそう言ってた。
そのマキナさんはシェルド家と双璧を為すぐらいのお金持ちになっている。プライゾン王国で流通している魔道具の殆んどがマキナ研究所発だからね。
おっと、地震が起きたか。結構揺れたな……
ゴブリンキング率いる軍団が襲来してくると急報が来る。通信網が整備されたお陰で離れた場所の出来事も簡単に入手出来るようになったからね。
村から何人かの子供達が兵士としてゴブリンキングとの戦争に参加する。魔道銃は持たせられないけど、新兵器を幾つか持たせるか。
俺は臆病者だから戦線には立てれないもんね。
「誰よりも強いのに臆病者なんておかしな人ね」
そう言って笑うミイナさんと共に、俺は子供達の帰りを楽しみに待つのだった。
◇
「お供えポイントが貯まる一方だな。
セルバンの奴、もう少し欲を出せば良いものを」
妻とのんびり暮らせればそれで良いと、あの事件以来お供えポイントに手を出さないセルバンを優しい眼差しで見守るジロー神。
ケント神の策略で秘境送りになったのだが、今は中央に復帰にも関わらず相変わらず秘境暮しを続けている。
たった一人のプレーヤーがであるケント神が運営していた闇ギルド灰色なまこ団は、ケント神の逮捕によりNPCとなって存続を続けたが、スラム街での大規模な戦闘、焼失によって姿を消すこととなった。
マジチュアもPK禁止にルール変更となり、セルバンが命を狙われる可能性がグッと下がる。
「スローライフも悪くないな」
どこまでも続く天界は今日も一面真っ白だったそうだ。
プロット立てずに思い付きだけで進めたので、時間軸が、おかしくなったり未回収フラグが残っていますが、これで完結です。最後までお付き合い頂きありがとうございましたっ!!!




