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フジ-01

目が覚めた。

ちょっと違うかな?

実際は初回起動完了だね。


でも、今までの記憶が全部あるから、目が覚めたっていう感じなんだよね。

もちろん記憶って言っても作り物だっていう事も知ってる。

絶対にばれないように無駄にリアルだから、記憶としか思えないけど。


アドバンスドトルーパー師団所属のフジ少尉っていうのが公式な身分になるんだけど、これは実在していた人なんだ。

なんだかその人の人生を乗っ取ったみたいで申し訳ないなぁ。


------------------------------


わたしは地方の辺鄙な開拓村で生まれ育ったんだけど、成人する少し前に機械軍の残党が暴れて、わたし以外はみんな死んじゃった。

わたしは魔法は使えないけど、どうしても仇討ちしたかったから軍高等工科学校に進学する事にしたんだ。

もちろん専門教育で対機械軍戦闘を履修してAT師団に配属されるのが目的だよ。

AT師団なら魔法が使えなくても機械軍の残党となんとか戦えるからね。

わたしの村みたいにあんまり重要じゃない場所に派遣されて、魔法兵が駆け付けるまで時間稼ぎする為の駒だけどさ。


それでも、必死に頑張ったんだ。

AT乗りの最優先任務は住民の避難誘導だけど、いつかは一矢報いてやろうって思って、誰よりも対機械軍戦闘訓練に打ち込んだんだ。

もちろん座学も頑張ったよ。

情報インストール装置は実用化されてるけど、AT乗りへの割り当て時間なんて数秒くらいだから、最低限の知識しか習得できないからね。

あんまり頭が良くなかったから休暇の時もずっと勉強してたけど、同期から孤立したりはしなかったなぁ。

元々の性格が明るかったのもあるけど、機械軍を倒す情熱が皆に認められてたんだろうね。


そうやって真面目に過ごしていたから、卒業前には幹部候補生学校への進学を勧められたんだけど、軍のエリートになるつもりは無かったから断ったんだ。

仇討ちしたいから真面目に過ごしてたけど、元々は軍人向きの性格じゃない事は自分でよく分かっていたからね。


卒業して伍長になって新規開拓地に配属されたんだけど、そういう所は機械軍の残党がトラップ化してる可能性が高いから、一般的には左遷されたような人が行く場所なんだ。

進学を勧めた教官の面子を潰したせいなのか、機械軍を倒したいっていう情熱が認められたのかは分からないけど、わたしとしては願ったり叶ったりだったよ。


でも、現実はそう上手く行かないもんだね。

わたしの任地で機械軍が出て来る事はなかったんだ。


それでも諦めなかったよ。

いざという時にはすぐに村人の皆が逃げられるように、日頃から定期的に避難訓練をしてたから村から感謝状をもらったりもしたなぁ。

もちろん毎日の哨戒任務も完璧にこなしてたから、軍の覆面調査でも感心されたみたい。

僻地の単独駐在で何年も平和に過ごすと、ほとんどの人が少しは手を抜くみたいだから模範軍人として表彰されたんだ。


でもね、本当は村人の為にやってたんじゃないんだ。

仇討ちする為だったんだよ。

もし機械軍が来てたら絶対に見つけられるように哨戒任務を頑張ってたんだし、避難訓練を頑張ったのもさっさと避難してもらって魔法兵が来るまでにわたしが戦える時間をちょっとでも増やしたかったからなんだ。

でも、そんな事言えないよね。

村人を本気で守ろうとしてくれている真面目な軍人さんだなんて言われたらさ。


------------------------------


結局、配属された村では機械軍と戦う事は出来なかったなぁ。

でも人事考課は良かったから、曹長にまで昇進したんだよ。

その時、軍高等工科学校の准教官への転属も打診されたんだけど、断っちゃった。

だって、後方で教官なんてやってたら機械軍と戦える訳ないし。


それで曹長に昇進してすぐ、配置転換の命令が来たんだ。

未開拓地域の広域単独哨戒任務の試験運用っていう命令だったよ。

地雷が埋まってないか確かめる為に一人で先を歩けって言われたようなもんだね。

一応、優秀な軍人だからテスト要員に選ばれたって言われたんだけど、たぶん准教官の話を断った報復だったんだろうねぇ。

でも、わたしにとっては最高の命令だったんだ。

やっと、仇討ちできるかもしれないんだし。


もちろん任務は過酷だったよ。

単独任務だから、空調なんてほとんど効かないATに24時間乗りっぱなしなんだ。

補給の為に各地の駐屯地に立ち寄る時以外はシャワーなんて浴びられないから、酸っぱい臭いがAT内に充満するし、食事もあの不味い非常用保存食を飲み込むだけだったし。

でも、それでも、機械軍を探して頑張り続けたんだ。


やっと機械軍を見つけた時は嬉しかったよ。

あぁ、これでやっと仇討ちできるんだなって。


装備には問題なかったんだ。

人機大戦の頃に比べたらこっちの装備はずっと性能が上がってるからね。

機械軍の小型機じゃあアダマント入りのタワーシールドは絶対に貫通できないから、安心して戦えたよ。

機械軍の戦闘ロジックはとっくの昔に解析されて戦闘支援端末に入力されているから、相手の動きも完璧に予測できていたんだ。

レーザーキャノンのパワーも昔とは比べ物にならないくらい上がってるから、小型機なら正面装甲でも貫通できるようになってるし。


そのおかげで、あっさりと一撃で倒せたんだ。

嬉しかったよ。

何年も何年も望み続けて来た仇討ちができたんだから。


喜びを噛み締めながら本部に連絡を入れている時に、わたしのお腹が弾けた。


やっぱり油断すると駄目だね、地中にもう一機居たんだ。

ATの腰の繋ぎ目を撃たれて、わたしは仰向けに倒れてしまったみたい。

地中から這い出たそいつに向けて仰向けのままレーザーキャノンを一発撃ったところで記憶が途切れてるんだ。


------------------------------


たぶん、この記憶の本当の持ち主は死んだんだろうね。

ここから先は作られた記憶だと思う。


わたしの記憶だと奇跡的に一命を取り留める事ができた事になっている。

子供を産めない身体になったけど、脊椎の損傷も先端医療のおかげで治す事ができて、今は療養中っていう事になってる。

そう言えば、”一般兵でありながら重傷を負いつつも果敢に戦い単独で二機を撃破した功績”で少尉に昇進したみたい。

もしも細かい記憶違いを問い詰められたら、重傷を負った後遺症で少し記憶障害が残っている事にしろっていう指令も出てるみたいだね。


そう言えば、初回起動時にはアップデートパッチを当てないといけないんだった。


------------------------------


「どうやら記憶チェックは終わったみたいだな。今回はパッチは無い。」


酷薄そうな男の声が聞こえた。

ここの所長っていう情報はインストールされているけど、名前は知らない。

わたしはAT師団所属なんだけど、今はこの男が直属の上官になるみたい。


目を開けた。

広くて明るい実験室みたいな場所だった。

わたしと男の二人だけしかいない。


肌寒さを感じて身体を見ると素っ裸だった。

途端に恥ずかしさを感じたけど、すぐに治まった。

頭では恥ずかしいと思っているのに、感情は動かない不思議な状態だった。

男は測定器を見ながら呟いた。


「回路は正常に動いているみたいだな。」

「おはようございます。えっと服を着たいのですが・・・」

「不要だ。どうせ大して恥ずかしくはないのだろう?」

「は、はい。」

「感情抑制回路が取り付けてあるからな。」

「大変です。モニター画面に表示されません。」


わたしはアンドロイドだから、各種機能はモニターできる。

でも、感情抑制回路なんていう項目が見当たらない。


「不具合では無い。電源以外は完全に独立した回路だ。では任務を転送する。」

「はっ!」


任務の内容が情報インストール装置からわたしの頭の中に流れ込んできた。

内容は最高機密情報だらけだったから驚いたけど、その驚きもすぐに収まってしまう。


「質問は?」

「いえ、ありません!」


この男から最終チェックを受けて、すぐに荷物を持って任地に向かう事になっていた。

男を見ると、下種な笑みを浮かべていた。

悪い予感がして不安がこみ上げて来たけど、それもすぐに治まった。


「仕事は楽しんでやるものだ。」

「は、はぁ・・・」

「わたしの持論なんだがね、負の感情が一番強い。それを抑制できれば感情抑制回路の最終調整は完了だ。」

「え、えっと・・・」

「お前の身体で俺を愉しませろ。これは命令だ。」


嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だーーーーーーーーっ!


全ての負の感情が吹き荒れた。

でもすぐに感情抑制回路に無理矢理治められた。


軍では上官の命令は絶対だ。

でも、それでも、限度はある。

普通ならこんな命令に従う筈がない。

でも、どうしても、逆らえなかった。


そして、わたしは、自ら動き、汚された。


------------------------------


「フジ少尉、着任致しました!」


わたしはシェルターメインコンピューターのオモヒカネ、通称オモさんに敬礼をした。

オモさんは軍の管轄じゃなくて行政の管轄になる。

だから、わたしに対する直接の命令権は無いんだけれど、行政から軍へ依頼するっていう形で実質的に命令を出す事ができる。

このシェルターは4年間外部との交信は一切遮断されるから、依頼を受けるかどうかはわたしが判断する事になっていた。

でも、ブラックリスト方式、つまり軍からやってはいけないと明示されている事以外は、全て承諾するように命令されているんだ。


「シェルターへようこそ、フジ少尉。よろしくお願いしますね。」

「はっ!いざという時は命懸けで守り抜きます!」


オモさんにはわたしがアンドロイドだっていう事は知らされている。

わたしが壊れた時は、オモさんが二号機を組み立てないといけないからだ。


「ありがとうございます。しばらく特に用事はありませんからディープスリープモードで構いませんよ。」

「はい、ありがとうございます!」

「そうそう、必要な時以外は堅苦しくしなくてもいいですよ。」

「あ、そうなんだ。やったー!」

「・・・」


------------------------------


シェルター内に設けられた軍の管理区画にやって来た。

これから四年間はここで生活か。

任務に必要なものしか置いて無い殺風景な部屋だなぁ。

それでも広域単独哨戒任務の時に比べれば、はるかに人間らしい環境だけどね。


さて、洗い流そう、色々と。


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