覚醒-06
フジさんの亡骸を抱えてシェルターに戻ると大騒ぎになった。
皆にとっても、アンドロイドだった事への驚きはもちろん大きかったのだが、何よりも身近な人が死んでしまった事への悲しみの方が遥かに大きかった。
俺と同じく、”アンドロイドが壊れた”ではなく、”親しい人が死んだ”それが皆の偽らざる気持ちだったのだ。
そしてその結果、2つの提案がオモさんに対して行われる事になった。
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「オモさん、フジさんの事なんだけど、ちょっといいかな?」
「はい、どうされましたか?」
「大人全員で話し合ったんだけど、2つお願いしたい事があるんだよ。」
「分かりました。どんな内容でしょうか?」
「じゃあ、まず1つ目なんだけど、フジさんの亡骸は他の皆と同じようにそのまま墓地に埋葬してあげたい。」
「使えるパーツやリサイクル可能な素材を取り外さず埋める、という事ですか?」
「あぁ、皆にとってフジさんは人間と同じだから、バラバラにして再利用っていうのは抵抗があるんだ。」
「なるほど、過去の医療であった人間間での臓器移植に反対するような感覚ですか?」
「言われてみれば、まさにそれだな。」
「1つ目の要望は理解しました。2つ目は何でしょうか?」
「次の防衛用アンドロイドは、人工頭脳を使わずフジさんに似せないで欲しい。」
「理由を教えて頂けますか?」
「一番の理由は、もし自分がフジさんだったら嫌だから、だな。」
「なるほど、2つ目の要望も理解しました。」
「それで、了承してもらえるかな?」
「申し訳ありませんが、その2つの要望は承認できません。」
「えっ!なんで・・・」
「わたしは明確に下された命令には逆らえないように厳重に設計されています。」
「どうすればいいんだよ・・・」
「担当大臣以上の役職から、命令の変更が成されれば承認可能です。」
もう連邦政府は消滅している。
命令の変更は不可能だ。
こうなったら、オモさんが何と言おうと力づくでやってしまうしかないのか?
「じゃあ、どうやっても無理って事か?」
「いいえ、非常に簡単です。」
「は?」
オモさんの意外な言葉に思わずアホ面を晒してしまった。
「先ほど、”大人全員で話し合った”と仰いましたね?」
「あぁ、そうだよ。」
「これは非常に重要な点なのですが、あなた方はこの地を実効支配しています。そして直接民主主義という非常に原始的な方法ではありますが、何かを決める会議を開いています。」
「ひょっとして・・・臨時政府か?」
「その通りです。議会に相当するものが既にありますから、後は大統領に相当する政府の最高指導者を選出して臨時政府の樹立を宣言すればいいのです。」
「オモさんは、その政府に従うと?」
「半分正解です。以前の政府機能が消滅しており、実効支配する民衆が民主的な方法で選出した政府ならば、国際法に基づき新政府が発足したと判断できます。ただし、わたしはマホロバ国の国有財産ですから、他国からの命令に従う訳にはいきません。新政府はマホロバ国を継承する事が必要です。」
「なるほど、そうやってから最高指導者がオモさんに命令の変更をすれば・・・」
「先ほどの要望は実現可能です。」
「分かった、ありがとう。さっそく、皆と話してくるよ。」
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それから大急ぎで臨時政府の樹立を宣言して、何とかフジさんの件は片付いた。
しかし、大きな誤算があった。
俺が大統領になってしまったのだ。
名ばかり大統領で実際には只の雑用係だが・・・
地星生まれの俺がスメラの大統領になんかなっていいのかと思ったが、憲法を改正し各種特例法を成立させて法的な問題はクリアされてしまった。
皆が俺に面倒な役を押し付ける為に一致団結した訳ではないだろう・・・きっと。
法律などはマホロバ国を継承した以上、以前の物を流用する予定だ。
ただし、現状にそぐわないものは大急ぎで停止したり制定しなおさなければならない。
特に、子供の数に応じた累進課税なんてされてしまったら、2,000人の子供がいる俺はお終いだ。
という事で、もう少しすると本格的に忙しくなってしまうので、その前に、フジさんにお願いされていた事を済ませておく事にした。
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俺はフジさんから受け取ったカードキーを使って軍エリアへと入った。
ここには軍事機密があるので、オモさんもネットワークからは遮断されているらしい。
エリア内には3部屋あるが、一番左側がフジさんの部屋だ。
カードキーをかざしてドアを開けると、更にドアがあった。
少し面食らったが、よくよく考えてみれば特務隊でもセキュリティー対策として二重扉は普通に採用されていた事を思い出した。
「殺風景な部屋だな。」
「そうですね、任務遂行に必要な物しか持ち込むことが許されていなかった事がよく分かります。」
「皆と同じように小物を置いたりしたかったんだろうな。」
「間違いありません。」
「ん?やけに自信ありげな言い方だな?」
「わたし自身がそうしていますからね。もっとも、フジさんと違って身体がありませんから、仮想空間でアバターを作って楽しんでいるだけですが。」
「マジで?」
「女子の嗜みですから、当然です。」
「は?キット、お前って女だったのか?」
「キューさん渾身の疑似人格ですよ?性別という基本項目が設定されていない方が不自然です。」
「ま、まぁ・・・そうか。」
確かに男と断定できるような事は今までなかった。
言われてみれば声は高めで、どちらかと言えば女性寄りだ。
戦闘中でも聞き取りやすいなとしか思っていなかったが、そういう事だったのか。
「さて、じゃあそろそろ端末にアクセスするか!」
「はい。パスワードは覚えていますか?」
「あぁ、もちろんだ。特務隊の訓練のおかげで1回聞けば忘れないよ。」
「そうでしたね。」
俺は椅子に座り、端末を立ち上げた。
ログイン画面になったので、教えられたパスワードを入力すると無事に認証された。
マニュアルを参照しながら、フジさんが行っていた日常業務を頭に入れていく。
武器の項目に差し掛かると、予備の武器についての記載があった。
どうやら、この部屋の奥に武器庫があるらしい。
マニュアルに従って武器庫の開錠コマンドを送ると、部屋の奥で物音がした。
「よし、見に行くか。」
「はい。」
武器庫にはフジさんが装備していたのと同じATの予備が保管されていた。
マニュアルに記載されていた通りにセッティングを済ませ、武器庫を閉じた。
「コウ、ご自身用の装備は調達されないのですか?」
「あぁ、魔法が使えるようになったからな。」
「聞きそびれていたのですが、魔法というのは比喩では無く、所謂魔法なのですか?」
「そうだよ。本当に”魔法”が使えるようになったんだ。」
「ひょっとしてフジさんが覚醒させてくれたんですか?」
「たぶん・・・な。人工頭脳は魔法を発動させる事は出来ないが、瞬間的に高エネルギーを加えれば覚醒させる為の波は作り出せるらしいからな。」
「それでフジさんは急に亡くなられたのですか・・・」
「あと5分生きていられたのに・・・な。俺が覚醒するかどうかなんて分からないのに。」
「いえ、わたしでも同じ事をするでしょう。」
「そうなのか?」
「はい。ずっと出来なかった、好きな人に想いを伝える事が出来て、死ぬ間際にキスまでしてもらえたのです。思い残す事など何もなく、好きな人に自分の出来る限りの事をしてあげたいと思うのは自然な事です。」
「そういうものか・・・」
「そういうものです。」
フジさんが満足して逝けたのなら、それで良かったのだろう。
俺は改めて目を瞑り冥福を祈った。
「魔法が使えるといっても、いつかは特務改は直してやりたいな。」
「謂わば戦友ですからね。そういう意味では装甲機動戦闘服も修理したいですね。」
「そうだな。キューさんも転移してくれねーかな・・・」
「いえ、それはそれで大変そうです。」
キットと雑談を交わしながら作業をすすめた。
「さて、これで作業は完了したな。ん?」
「どうしました?」
「どうやら機密情報らしきフォルダーが見つかった。」
「アクセス出来そうですか?」
「どうだろう?」
フォルダーを開こうとしたが、認証画面が出てきた。
「どうやら管理者権限が必要なようだな。」
「フジさんは教えてくれませんでしたね。」
「さっきのと同じっていうのはセキュリティー的に無いだろうな。」
「フジさんの場合は有り得なくも無いですが・・・」
「とりあえずダメ元で入力してみるか。」
エラーが表示された。
「違ったようですね。」
「困ったな。」
「フジさんも知らなかったか、あるいは生体認証的なものが必要なのか・・・」
「いや、たぶん違うな。それならそう言っている筈だ。」
「念の為にオモさんに聞いてみますか?」
「そうだな。オモさんからのアクセスは遮断されているが、万が一に備えてパスワードだけは知らされている可能性はあるか。」
俺は音声通話用のボタンを押した。
これは超ローテクのコイルと永久磁石と板バネスイッチだけで構成されているものだ。
徹底的にオモさんのネットワークから遮断しつつ会話は出来るようにしているのだろう。
「オモさん、ちょっといいかな?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「フジさんの端末の管理者パスワードとかは知らされてますか?」
「いえ、軍事機密ですのでそういう情報は全く知らされていません。」
「そうですか、分かりました。ありがとう。」
「いえ、お役に立てませんでした。」
軍はアクセス不可能になるリスクよりも機密保持を優先していたようだ。
「となると、フジさんは何らかの制限が掛けられていて、俺に教えたくても教えられなかったと考えるべきか。」
「その可能性は高いですね。」
「特務隊の頃の経験からすると、会話の中に何らかのヒントが・・・あっ!」
「どうしました?」
「キット、これだ!」
視線の先に表示されていたのは、”秘密の質問”だった。
さっそく、そのページに飛ぶと、予想通りの質問が書かれていた。
”わたしのスリーサイズはいくつでしょう?”
スメラほど文明が発達していれば3Dスキャンでスリーサイズをこっそり測る事ができる。
そして、フジさんはアンドロイドなのでサイズは変動しない。
そんな数字を管理者用の秘密の質問の答えにする筈がないのだ。
そして、フジさんがスリーサイズの話題を出してきた状況には共通する点があった。
それは、オモさんを含めて周りに誰も居ない状況だったという事だ。
俺はためらう事無く入力した。
”B99.9、W55.5、H88.8”
無事に認証され、ついに機密情報へのアクセスが可能となった。
念の為、俺のアカウントも作成して管理者権限を付与してからフォルダーを開いた。
膨大なファイルが存在していたので、重要そうなものだけ見る事にした。
中には” 非常用保存食の効果に関する仮説”などという馬鹿げたタイトルのファイルもあったからだ。
「おっ、これって・・・」
「大統領IDの発行手順ですね。」
「このコードをオモさんに入力すればいいみたいだな。」
「軍と行政で分割管理していたのですね。」
「便利そうだから、後で発行しておこう。」
「そうですね。あ、これは例の条約ですね。」
「”スメラ・ルキフェル条約”か。内容を把握しておかないとまずそうだな。」
見つけ出したファイルには、ルキフェル軍のファーストコンタクトから条約締結までが詳細に記録されていた。
スメラ・ルキフェル条約の内容に移る流れですが、次章はフジさん追悼章が割り込みます。




