忍法露がらし
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雪蘭は、半月刀を右手に、十字手裏剣を左手に隠し持ちながら、胸の前でクロスする。
『忍法露がらし』
呟くと同時に、半月刀を右斜め上空に、放り投げる。
『ギューイン』
放物線を描きながら、半月刀は加速度を増す。
まるで仕掛け花火のように、半月刀からオレンジの光のシャワーが、地面に降り注ぐ。
同時に放たれた無数の手裏剣も、怪人二人を襲った。
「どう……お気に召したかしら」
円弧を描き、戻ってきたブーメラン半月刀を、ヒョイと右手に納めた雪蘭が呟く。
大量の夢汁を浴びた、ラマツキドールの黒マウントが光を発しているように、
暗黒の中に、ボーッと浮かびあがる。
『……ウゥ~ムゥ』
ラマツキドールが、地の底に沈み込むような呻き声を洩らす。
「忍法露枯らしは、メス以外の全ての生物に影響を及ぼすのよ」
操り人形のように、上下左右に揺れていた黒マウントが、ピタッと静止した。
その刹那、ストーンと黒マウントが、糸が切れたように地面に落ちる。
『うぅ…』
突然、伸一が呻き声を出した。
「どうしたの、伸一くん」
雪蘭が、心配そうに呟いた。
(毒消しを飲んでいても、これほど影響するとは?)
「ごめんなさい、実は先ほどの薬飲んで無い。自分の能力確かめたかった」
伸一が、申し訳なさそうに呟いた。
「な、なんて無謀な」
呆れ顔で呟いた雪蘭の表情が、驚愕の表情に変化する。
伸一の左手首の上に、リングのような痣が出現して、蒼白く輝いている。
右手で、伸一がその痣を軽くタッチすると、七色に輝きだす。
「鉄壁の不動心」
伸一が呟いた刹那、七色の光が全身を覆う。
『ガタガタ』
地面に突き立てた、妖刀霧氷が、伸一の左手の皮膚の痣から
螺旋を描くように現出した7色の光の渦に反応して鳴き出した。
ビタッと霧氷の動きが静止した。
閉じた瞳も指し貫くような強力な光に覆われた伸一が、ゆっくりと回転し出す。
伸一は最初はゆっくりであったが、だんだんと加速していった。
7色の光のカーテンに包み込まれた伸一が、まるで透明にでもなったみたいに透けて見える。
『チリリ~ン』
『チリ~ン』
大気を振るわせ響きわたる透明な鈴の音色に、
反応したかのようにスーッと伸一の姿が消滅した。
天空を見上げると、空中に浮遊している古代遺跡から
二人の天女が舞い降りて来る。
一人は、清らかさと妖しい瞳を、兼ね備えた妖花であった。
もう一人は、雪蘭と瓜二つ。
「光華……」
雪蘭と瓜二つの女が、同時に声を発する。
「あたしは雪蘭よ」
二人の声が、シンクロする。
「……よく、この世界に侵入出来たわね」
「……ええ、偶然に、あなたは別の世界のあたしね……で、あの不気味な二人は何者?」
雪蘭が、天空から舞い降りてきた、青い薄絹を幾重にも纏ったもう一人の雪蘭に尋ねる。
「異次元からの侵略者よ、なかなか撃退できなくて一進一退……あれっ!
……もしかしたら妖刀霧氷?」
大地に突き刺さっている、幅広の刀に視線を合わせながら呟く。
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