運命の人が現れたらどうする?
『運命の人が現れたらどうする?』
『何言ってるの。お前のことだろ?』
『え! めっちゃ嬉しいこと言ってくれる……!』
『……αになんか屈しない』
*
一世一代の告白だった。
Ωのおーちゃんは頷いてくれた。
『俺もお前のこと好きだった』と言ってくれた。
だから何があってもずっと一緒、何があっても絶対守ってやろうと思っていた。本気で思っていた。
おーちゃんは特定の番を見つけようともせず僕の隣にいてくれた。首輪はしっかり鍵をつけて。
過去にαに嫌なことをされたらしく優等生組を毛嫌いしている。『アイツらはただの猿だ』って。
そうかなあ。と僕は思う。
中には、きっちりしてるαもいると思う。……例えば、あっくんとか。
僕たちは3人幼馴染で、あっくんはいつも会うたびに「おーちゃんは運命の番だ」と口説いている。
おーちゃんもこの時ばかりは「αと番になるつもりはないから」とツンと振って終わりだ。
その後は決まって僕の隣に来て周りに見せつけるように恋人繋ぎをする。いつもデレてくれない分嬉しくて、恥ずかしくて。あっくんも「やれやれ」と苦笑しつつ、でも毎回めげない。無理やり番にしようとしない紳士な人だと僕は思う。
だからもし、おーちゃんが運命の番を見つけた時は遠慮なく言ってほしい。
そう伝えたことがある。
おーちゃんは激怒して僕をぶん殴った。『おれにはお前しかいないんだよ!』と号泣しながら言ってくれた。ごめんね、と謝って抱きしめた。こんな僕を本気で好きになってくれたんだと嬉しかった。
だから、おーちゃんが嫌だと言うなら近寄ってくるαは遠ざける様にした。
*
……気をつけているつもりでも厄介なαというものはうじゃうじゃ湧き出ているもので。
通りすがりのαに首元に急に注射器を打たれたおーちゃん。それは周期でなくてもヒートを無理やり引き起こすものだった。
いつも薬で抑え込んでいるヒートが全て全面に出てきて立つことさえ出来なくなるおーちゃんの周りには、僕でもわかるフェロモンが一気に溢れ出ていた。
隣にいたのに防げなかったのを後悔した。抱き上げて、αから逃げて個室に隠れる。突然のことだったから抑制剤なんて持ってない。
「おーちゃん、おーちゃん! しっかりして! ……どう、すれば…っ」
「………っ、ね、ねぇ……っ」
「なにっ?」
「…頸噛んで……番に、して……っ」
「……っ」
出来ることなら僕だっておーちゃんの番になりたかった。首輪の鍵を外して、頸を噛む。何度も噛む。……わかっている。僕らは番になれない。
「お願い、たすけて、苦しい…っ」
「おーちゃん……」
鍵をかけていたのにこじ開けられるドア。振り返ればαの男が2人。
「そこを退きな」
「痛い目に遭いたくないだろ? オレらがそのΩを楽にしてやっからよ」
腕の中でおーちゃんの体がみるみる強張っていくのがわかる。抱きしめ返し頸をしっかり隠す。
「……退かない。おーちゃんは渡さない……っ」
ゲホッと咳き込む。背中を蹴られた。大丈夫、平気、まだ耐えられる。何度蹴られても、僕の体がどうなっても。おーちゃんは、守りきる。
突然フェロモンが強くなった。αの男たちよりももっと強い、別のαのもの。振り返れば男2人の首根っこを引っ掴んで部屋から追い出すあっくんがいた。彼もヒートを引き起こしている。こちらに来るとまず僕の肩に触れて「大丈夫か」と聞いてくれた。
「……僕は、平気……でも、おーちゃんが……っ」
「わかってる……おーちゃん、俺だ。わかるか?」
「……あっくん」
「ああ。突然のことで俺も、抑制剤今持ってないんだ。ごめんな」
「……いいよ」
「……おーちゃん。こんな時に言うのは卑怯かもしれない。だけど、言う」
何を言うかなんて、わかっていた。でも止める事なんて出来なかった。だって僕は。
「お前は俺の運命の人だ。番になってほしい」
ただの一般人βなのだから。
「いや、だ……おれ、は……たっちゃんと、いっしょ、に…」
「番になったらもうヒートを引き起こさない。突然αに襲われるなんてこともなくなる。俺がお前を守ってやる」
「……おれはαと一緒になりたくない……たっちゃん、たっちゃんからも何か言ってよ」
「おーちゃん」
αとΩにジッと見つめられる。
ほんとうは、わかっている。おーちゃんだってわかっている。どちらの道を選べばいいのかなんて。一目瞭然だよ。
ね、おーちゃん。僕ね。幸せだったよ。こんな僕を好きでいてくれて本当にありがとう。
だからね、おーちゃんにはずっと笑顔でいてほしい。幸せでいてほしい。
だからさ、ね。
わかって。
「あっくんと番になって」
「………ぇ……っ?」
目を真ん丸にするおーちゃん。ああ、キミは最後まで可愛いなあ。
「……いやだ、たっちゃん、なんで……? おれはたっちゃんしかっ」
「幸せになるんだよ?」
「……ッいやだいやだいやだ! 退いて! こっち来んなッ!」
腕の中にいるおーちゃんをあっくんに渡す。逃げようとする体は全身から力が抜け切っていて抱え込まれるだけで終わる。離れようとすれば右手を両手でぎゅうっと握り込まれ離してくれない。
「お、おれを捨てるのか……?」
「……ちがうよ。おーちゃんのためだよ」
「……っ、おれを想ってるなら離れるな! ずっと一緒にいろ! αなんかごめんだ!」
「あっくん、頼んだよ」
おーちゃんはずっと拒否し続けていたけど、αのあっくんが『運命の番』というのならそれは本当なのだろう。結局おーちゃんを助けられるのはカッコいいヒーローだ。僕はただ主人公に恋した物語の脇役なんだ。αやΩのフェロモンなんかろくにわからない一般人でもわかるくらい、この2人は強く惹かれ合ってて間に割り込む余地なんかないのはわかるから。
「おーちゃん、絶対後悔させない。一生かけて幸せにすると誓う。俺のものになって」
「やめて、あっくん……お願いたっちゃん……たつや、たつやぁ…っ」
手はずっと離してくれない。目の前で恋人が番にされるのを見ないといけないのか。可愛くて、残酷なことをする僕のΩ。
背後から抱き込み頸に口を近づけるあっくん。おーちゃんの抵抗なんて些細なものでしかなくて。
「大好きだったよ、おーちゃん」
「……、ぁああ゛あ゛ア゛ア゛ッッ!!」
頸を強く強く噛まれて絶叫するΩ。
数分も経てばヒートはどんどん落ち着いていく。
あっくんの腕の中でぐったりしているおーちゃんをしばらく見つめて、背を向け離れる。
「……たっちゃんなんか嫌いだ……」
一番最後の言葉がそれだった。




