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プロローグ

この世界は、私たちが地球で暮らしている銀河とは、また異なる世界線。

無限大に広がる星々の中で、もしも私たちの世界と近しい星が、どこかにあるとしたら──。

 高校生の頃、授業で『地球』という遠くの星について学んだことがある。


 驚いたことに、その星では一つの世界の中に国という境界線があり、人種や文化がいくつも分かれているらしい。

 だけど、俺たちの世界は違う。この小さな太陽系では、「星ごとに、世界線そのものが違う」のだ。

 それぞれの星は分厚い宇宙の壁で隔てられていて、普通に生きていれば一生交わることはない。星が違えば、それはもう「別世界」。


 超能力や魔法を当たり前に操る、ファンタジーの【第一の星】。

 妖精や魔族、獣人といった異種族たちが独自の社会を作る、幻獣の【第二の星】。

 そして──俺が生まれ育った【第三の星】。

 ここは魔法のような奇跡も、強靭な肉体もない代わりに、“音楽”が文明そのものを支えている世界だ。人々の感情や熱狂から生まれる生命波動“シャルト”。

 それは都市を動かし、人々の暮らしを支える、この星にとっての光そのものだった。


 そんな世界で、俺・リオンは、トップアイドルとしてステージに立っている。


 ただ、本当はもう一つ、教科書には載っていない星の噂があった。

 他の星で大罪を犯した者が強制移住させられるという、暗黒の監獄【第四の星】。

 本当に存在するのかすら分からない、ただの都市伝説。それが、俺たちにとっての『第四の星』の認識だった。


 _____そんな俺には、誰にも信じてもらえない話がある。


「俺は幼い頃、第二の星に落ちたことがあるらしい」


 その話をメンバーや事務所のスタッフにするたび、「また始まったよ」と苦笑いした。星と星の間には、分厚い大気と、容易には超えられない宇宙の壁がある。別々の星の人間が交わるなんて、そう簡単なことじゃない。


 けれど、これは母から何度も聞かされる話だった。

 その話を口にするたび、母はいつも物憂げな顔をして引き出しの奥から、一枚の「妖精の羽」を差し出すのだ。淡く、ガラス細工のように透き通った、俺たちの星には絶対に存在しないはずの、異世界の欠片。


「あなたは本当に、あそこへ行ったのよ、リオン」


 母の言葉はそれだけだった。俺には、その時の記憶がまるでない。なぜ落ちたのか、そこで誰に会ったのか、どうやって帰ってきたのか。すべては白い霧の向こう側だ。


 ただ、時折。胸の奥が、激しい既視感に襲われることがある。

 何か、取り返しのつかない大切なものを、あの星に置いてきてしまったかのような、切ない疼きがあった。


 ____________




「リオン、スタンバイお願いします!」


 インカムから響くディレクターの鋭い声。一瞬で思考を切り替え、神経を張り巡らせる。ステージへのポップアップが競り上がり、視界が一気に開けた。

 凄まじい轟音。鼓膜を震わせる、数万人の歓声と悲鳴。


 ここは第三の星、最大のスタジアム。

 俺はここで、みんなの「光」として生きている。歌って、踊って、“シャルト”というエネルギーを届ける。それが俺のすべてで、この星の誰もが愛する、平和で、きらびやかな生命の象徴だった。


「さぁ行くぞ。俺たちのSupernova!」


 ライブは最高潮に達し、ファンの熱気も最高潮へと跳ね上がる……


 はずだった。

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