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セカンドハーフ~夢の後半戦~  作者: ふぉるせ
1章

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13

 ボールキープゲーム開始直後、向かって来た蓮見翔はすみかけるのスライディングを難なくかわして見せる涼宮透すずみやとおる

 しかし――。


「制服汚れるぞ?」

「そんなの気にしてられるかよ!」


 制服姿のズボンも、白いワイシャツも汚れることも厭わずに、いきなり砂場の上でスライディングを行って来た翔に、透はつくづく驚いていた。


(やはりこいつに常識は通用しない……!)


 すぐに立ち上がって来た翔からボールを奪われまいと、自分の身体をうまく相手に背を向けて押し込み、腕を伸ばして相手の行動を制限する。


「さっきのゲームは味方で心強かったけど、敵になってもやっぱわかるぞ! お前はサッカーがうまい!」

「それはどうも。サッカー歴一か月未満の男に言われてもだけどね!」

「言ったなー!」


 怒った翔は、上手く透の横から足を突き出すが、その動きをすでに読んでいた透は大股となった翔の股の間にボールを通し、自身は身体を振り向かせて突破する。


「うわっ! なんで俺の動きが分かってるみたいなんだよ!?」

「っ!」


 ――やっぱり、この感覚だけは衰えていない。

 透はなおも迫りくる翔をじっと見つめてから、視線を足元に落とす。

 先ほどの体育の授業で、御子柴達樹みこしばたつきたちと対峙した時と同様、透は向かってくる相手をじっと見据え、次の行動を行う。それはなにも、全て勘に頼った偶然の動き出しでは、なかった。


「蓮見! 俺にはお前の次の動き出しや、何をしようとしているのかが分かっていると言ったら、驚くか?」

「はぁ!? そんなこと出来るのかよ!」


 今度は相手と向かい合わせで、しかし足元だけは小刻みにボールをタッチして、翔の足を躱しながら透は言う。


「俺にはわかるんだ! 相手が次にやろうとしているプレーや、考えが!」

「相手の行動が先読みできるのかよ!? だからボール奪われないし、すぐ奪えるのか!?」


 互いに息を切らしながら、言い合う。ボールは相変わらず透の足元に収まったままだ。


「じゃあ相手の考えてることとか、俺が今食べたいものもわかるって!?」

「サッカーの試合に関係ないことはわかるわけないだろう!」

「サッカー限定かよ! でもすっげーな! どうやってわかるんだよ!」

「昔からサッカーが好きだった。色んな試合とか、実践で相手の動きとかを見まくったら、自然と!」

「自然とって! 誰でも出来たら苦労しなさそうだな!」


 翔はそう言いながら再度、スライディングをしてくるが、やはり透はすべて見透かしているかのように、空中に跳んでかわす。

 すぐさま立ち上がった翔を手で押さえながら、透は顔に一筋の汗を流した。


「御子柴の動きもそれですべて読んでいたんだ。でも正直な話」

「正直な話?」


 なおも諦めずにこちらからボールを奪おうとしてくる翔に向けて、透は笑みを浮かべる。


「蓮見。お前は俺のサッカー人生の中で一番、動きが読み取れない!」

「それって褒められてるのか褒められてないのかわからねー!」


 直後、翔が思い切り突き出した右足が、透の操るボールに接触。大きくファンブルしたボールは、用具入れの壁に当たって跳ね返り、そのボールを受け止めたのは、翔だった。


「あ、これは……」

「まあ、ボールは奪われたし、蓮見の勝ちかな」


 実戦ではありえないが、蓮見にボールを奪われたことは事実だ。何よりやはり、3年ぶりの運動は身に応える。

 じっと、足元に収まったボールを見た翔は「俺も一つ分かったことがある」と、何やら意味深に呟く。


「?」


 次に翔は、盛大な笑顔で、透を見据えた。


「お前は俺以上にサッカーが大好きなんだってことだ」


 どくんと、心臓が微かに跳ねる音が聞こえた。それは3年ぶりの運動が応えたわけではなく、きっと、別の理由で。

 火照った身体を冷ますようなそよ風が汗でしわくちゃの顔をなぞり、透は微かに頷いた。


「……まあ、そうなんだろう」

「へへ。あ、でも俺が勝ったってことは」

「ああ。俺がサッカー部への入部届を出すのはなしだ」

「そんなぁ」


 そしてたまらず、その場に座り込む透。制服が砂利の上で汚れようが、もうそんなことは気にしない。

 翔は、両手を腰に添え、残念そうに透を見る。

 そんな心配しないでくれ、と透はどこか気恥ずかしく、こほんと咳ばらいをして、


「……でも、蓮見が勝ったから、約束は叶えないと。お前をてっぺんに連れて行くんだろう? 俺は疲れたから、俺の代わりに、入部届、出してくれ」

「!? おおー! でもそこは本人いないとな」

「……急に真面目にならないでくれ」


 3年間で失われたと思った感覚は、どうやら偽物ではなく、本物だったらしい。

 そして蓮見翔を前にして再び感じた、このサッカーに対する情熱も、どうやら本物だ。

 目の前ではしゃぐ汚れだらけの少年。しかも春先のまだ4月で、新品同然の制服をここまで汚してまで、サッカーに情熱を注ぐ――サッカー仲間を前に、透はそう感じていた。


1章 完

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