第1話 あの日私はあの人と出会った
なんの変哲もないある日の晩
寒さが和らぎ始め、春の訪れを感じるようになった季節に、ある女が人気のない住宅路で血塗れで倒れていた
彼女は白山菊理21歳
ペットショップ店員をしているごくごく普通の女性だった
今日もいつものように仕事を終え、自宅のあるアパートに帰るはずだった
しかしこの日、彼女は何者かに背後を刃物で刺されてしまったのだ
背中からどくどくと血が溢れ、血の匂いが広がり、だんだん視界が霞み始める
(………どうして………?なんで……?)
菊理は痛みと混乱の中、なんとか顔を上に上げると、そこには男が立っていた
血塗れのナイフを持ち、血走った目でこちらを見ている
興奮しているのか息は荒く、フーッフーッという息遣いが聞こえる
「現世ノ者……美味シそウな命……こレでオレの力が……」
理由のわからない言葉を呟きながら、菊理に更に近づくと、またナイフを持った腕を振り上げた
(……ああ、私の人生こんな嫌な終わり方するんだ………)
絶望的な状況で菊理は希望をなくし、悔しそうに目を瞑った
しかし、その一撃が菊理の身体に入ることは無かった
「ア………う……?」
男は何故か手を振り上げたまま固まったように動けなくなっていたのだ
「力を欲し現世の人を襲ったか亡者め。お前は此処にいてはいけない存在だ」
突然何者かの声が響き、その方向に目をやると、ツカツカと黒い軍服らしき服装の男が暗がりから現れた
短髪の黒髪で三白眼の顔色の悪い死神のような男がそこに現れた
「ガ……あ………黄泉人メ……!」
ナイフを持った男が黒尽くめの男を睨み、襲いかかろうとした時――――
「冥府へ還れ」
そう言って黒尽くめの手をかざすとナイフを持った男の周りから無数の黒い手が伸び男を掴んだ
「があアぁぁァぁ!!」
ナイフの男は断末魔を上げながら黒い影に飲まれ消えていった
菊理はそれを呆然としながら見つめた
すると黒尽くめの男と目が合った
「……大丈夫……ではないなコレは。この傷では君は助からない」
黒尽くめの男は菊理の傷を見てハッキリとそう告げる
慰めの言葉すらかけてこないこの男を、菊理は痛みに耐えながら恨めしそうに睨みつける
「そんな目をされても困る。俺は神じゃない。治せないものは治せないんだ」
黒尽くめの男は少し困惑したような表情を浮かべながら、冷たく事実を述べる
「……だが1つだけあるにはある」
ぽつりと放った言葉に、菊理の目が見開かれる
「俺の血を……黄泉人の血を飲めば助からないことも無い。だが飲めば君は人間では無くなる……それでも飲むか?」
黒尽くめの男の問いに、菊理はうめき声を上げながら手を伸ばし答える
(ここで終わるなんて嫌!だから――)
痛みで声が出せない代わりに手を伸ばし黒尽くめの男に訴える
すると黒尽くめの男は優しくその手を取った
「………分かった」
そう呟くと男は自身の爪を噛み傷つけた
そこから彼の血が滴り落ちる
「―――責任は取る」
そう小さく呟くと、血を口に含み菊理の唇に触れ、口移して飲ませた―――――




