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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
解決編
91/97

91.そんな君を守りたい


守りたいものがある。

そのために必要な事がある。


『力を貸そうか?君がその体をくれるなら』


守りたいなら強くなれ。

誰よりも何よりも強くなれ。

強い心と強い体と強い力と、強さを求めてどこまでもどこまでも地の果てまでも彷徨い歩け。


『君のその体は━━━━なんだよ』


そうして強くなった先、僕が本当に守りたかったもの。それはまだそこにあるのだろうか。まだ手の届く所にあるのだろうか。まだ僕の中に存在しているのだろうか。まだ弱いままなのだろうか。


僕は強さを手に入れた。

強さを手に入れた僕が守りたかったものは、一体何だったのだろうか。














「……レイ、ト?」


次に目が覚めた時すぐ目の前にはアルファルド君の顔があった。私の肩に手を置いて私の顔を見るアルファルド君が視界いっぱいに広がる。ドアップとはこの事か。近い。久々に近い。


「大丈夫かっ?」


だけど、どうしてアルファルド君はそんなに心配そうに私を見ているのだろうか。小首を傾げる。

現状が掴めずよく分からなかった私は、兎に角アルファルド君に大丈夫だと伝え、周りを確認すべく辺りに目をやる。

それは現状を探ろうとしての行動だったのだが、アルファルド君の「……っ、大丈夫じゃないだろ!!」との突然の怒鳴り声に驚き視線を戻せば、そこにはお怒りなアルファルド君の姿。


「あ、アルファルド君?」

「なんでっ……、なんでお前は……っ!!」

「え、えーと」


何があったのか本当によく分からない。

頭の中はてなマークだらけの私に事の現状を説明してくれるのは頭の中に響く一つの声。


『結乃。あいつはとりあえず足止めしといたがそんなに長くはもたない。そいつの説得は僕には骨が折れるから結乃に任せる』


任せるって。

私はもう一度周りへと視線を向ける。少し遠くで国王が俯いたまま座り込み動かない姿が見えた。足止め。


「……何で意識残しといてくれないのさ」


私はぼそりと頭の中に響く声に文句をたれる。代われと言われて代わってやったが、まさかその間全く私の意識が無いとは聞いていない。


『結乃の意識が残っているとやりづらかったからな。そんな事より『アルファルド』をどうにかしろ』


自分勝手なその発言に顔をしかめつつ私はアルファルド君へと意識を戻す。


「あのね、アルファ」

「どういう事か、分かってるのかよ……」

「えー、と……」


これはきっと、私の中にいる私じゃない『これ』の存在に気付いている感じだ。もしくは『これ』が自分から喋ったのかもしれないが。


「あのね、アルファルド君。大丈夫だよ。何処まで聞いたのか分からないんだけど……」

「そんな事したら、どうなるか分かってるのかよっ!!何でそんな事ばっかするんだよっ!!何で……っ、何でこんな事するんだよ……!!」

「あの、アルファルド君?聞いて?大丈夫なんだよ。この体は」

「もう止めてくれよ!!」

「…………」


どうやらアルファルド君は私の話を聞くつもりがない、らしい。


仕方なく私は口を挟むことをせず、成す統べなく現状に甘んじる。きっと私の中の『これ』はアルファルド君に一から十までの全てを説明した訳ではないのだろう。割愛し過ぎた説明は相手に間違いしか伝えられないというのに。何て事をしてくれるのか。


「俺はもう嫌なんだよっ!!」


アルファルド君が叫び、そうして叫んだ事を後悔するかのように手でぐしゃりと髪の毛を掴み俯く。


「俺はっ、おれはもう、嫌なんだよ…………」

「アルファルド君……」


ずきりと心が痛む。

私はもしかしたら彼を追い詰めているのだろうか。彼の心を酷く傷付けてしまっているのだろうか。そう思ってしまうほど、アルファルド君のその姿は私には痛々しく、だけど私がここで諦める訳にはいかない。

これが間違った選択だったのだとしても、私は後には引いてはいけないのだから。


アルファルド君の、今は片方しかない腕を掴み両手で包み込む様にして手を握る。


「ねぇアルファルド君」


アルファルド君の体がピクリと揺れる。


「私のお願いを聞いてよ」


これで通算何度目だろう。


「誰のためであっても、何のためであっても」


世界が滅ぶ事になったとしても。

人類が滅亡する事になったとしても。


「自分を犠牲にしないで」


お願いだから。



「アルファルド君、私の手を取っ……」

「ありがとう。レイト」


私の言葉を遮りそう言って、アルファルド君はふわりと私を抱きしめた。そうして暫く、アルファルド君はそっと腕を離す。


「…………」


私に触れたアルファルド君の体温が私の体にゆっくりと染み渡って行き、耳元近くで囁かれた言葉は私の心を深く貫き私の体をその場に縛りつけて動く事も許さない。


アルファルド君のありがとうという言葉。


「……違う」


くるりとそのまま私に背を向け歩き出すアルファルド君。


「私が……、私が聞きたいのはそんな言葉じゃないよ……っ、ねぇっ、アルファルド君っ!!」


アルファルド君は振り返らずに歩いて行ってしまう。私に背を向けて、一人この世界のために『贄』となることを決め、死ぬ事を決めた。一人、犠牲になることを決めた。


「…………っ」


私は唇を噛み締め、ぎゅっと拳を握る。


「どうしてっ……どうして、分かってくれないの……?」


泣きそうになる感情を必死にこらえたが、言葉にしたら涙が溢れて出てきそうになってしまった。ぐっと堪えて必死にそんな感情を押さえ付ける。私が今泣いた所でアルファルド君が立ち止ることは無い。泣いたって無駄。泣いて嫌だとごねた所でアルファルド君はこっちには戻っては来ないだろう。

私はだんだんと離れて行くアルファルド君の後ろ姿を見、そして走り出した。アルファルド君を引きとめるために。だけどそれをいつの間にか意識を取り戻していた国王が許しはしなかった。


「重い女は嫌われるぞ?」

「……っ!?」


嘲笑まじりに国王はそう言い走る私の腕を掴みあげてそのまま勢いよく腕を振るい壁に叩きつける。背中から壁にぶつかった私がその苦痛に耐えていると、近くまで来た国王が私の首を締めあげる。足が少しだけ宙に浮く。


「……うっ……っ!」

「諦めろ」


必死に国王の手を引き離そうともがくが無駄だった。


「……っはな、して……っ!!」

「無駄だ。私に魔法は気かない」


魔法を使ってみようとするが弾かれた。苦しくて悔しくて。私は国王を睨みつけることしか出来ない。今この瞬間、私の中にいる人物も何もしなければ何も言っては来ない。一度は手助けしてくれたのだがアルファルド君の変わらない態度に、もしかしたら自分の目的すら諦めてしまったのかもしれない。

だけど私に背を向けた遠くにいるアルファルド君が立ち止り私を見ていた。


「アっ……、うっ!!」

「お前はもう喋るな」


アルファルド君の名前を呼ぼうとした私の首を、力を増した国王の手が締めあげる。呼吸がさらにしずらくなり苦しさに顔が歪む。

息が出来ない。そんな私から視線を外し、国王は足を止めていたアルファルド君を見る。


「ユノ」

「…………」


アルファルド君はその声にまた歩き出した。

だけどその後ろから小さな水色の者が後を追うように飛んで行く。国王の目がそれを見て不快に歪む。


「歪(ひず)みが」

「……っ、ミズ、イロ!!っ、だ、め……っ!!」


まるでスローモーションを見ている様な気分だった。

バンッと言う音と共に国王が放った衝撃が当たり、小さなミズイロの体が吹っ飛ぶ。


「――――――っ!!!」


私は国王の手に爪を喰い込ませ、力が弱まった所を突いて国王の手から逃れ一直線にミズイロに駆け寄る。


「ミズイロっ!!」


ミズイロは苦しそうに鳴き、私を見た。


「ミズイロ、ミズイロっ……ミズイロ……っ」

「諦めろ。犠牲者が増えるだけだ」


私は小さなミズイロの体を優しくそっと包み込む様にして抱く。小さな小さな命のぬくもり。そんな暖かみに目の前が霞む。

それは悔しさなのか、悲しさなのか、切なさなのか、哀しさなのか、苦しさなのか。


「分かっただろっ!!無駄なんだよ!!もう無理なんだっ!!」


アルファルド君の声が聞こえた。

遠くからだけど、私に向かってそう『無理』だと叫ぶ彼の声。


「アルファルド君が……、アルファルド君が諦めちゃうから無駄になっちゃうんだよっ!!無理になっちゃうんだよっ!!」


私はそんなアルファルド君の方になど視線を向けずに同じようにして叫ぶ。


「私は諦めなかった……。アルファルド君みたいに諦めなかった!!」


手に抱いたミズイロが私を慰めるかの様に必死に小さなその手を伸ばそうとする。そんなミズイロの姿に私の視界はまた霞んでゆく。


「ミズイロだって諦めなかった……勇者さんだって、ブカだって……ネイルだって、諦めなかったっ!!」


ミズイロの体に耐え切れなかった私の瞳から涙がぽたりと落ちる。


「諦めているのはいつだって何時だって、アルファルド君だけじゃない!!」


アルファルド君が今どんな表情をしてそこにいるのかは分からない。

だけどこれを逃したらもう次はない。そう思う。これがきっと最後のチャンスだ。

ミズイロが身体をはって作った最後の願い。とても小さなミズイロの願い。


「……アルファルド君のソレが犠牲なんだとしても、私達のこれは犠牲なんかじゃないよ。私達のこれは、アルファルド君を助けたいっていうただの純粋な気持ちなんだよ」


私はアルファルド君の方へとゆっくり視線を向け彼を見る。彼をその視界に捉え真っ直ぐ言葉を伝える。


「全部全部、考え方次第。それでもやっぱりアルファルド君は諦めちゃうの?」


一人で全部終わらせようとするの?



近くに人の気配。

見ると国王が剣の切っ先を私に向け真っ直ぐそこに立っていた。


「茶番は終わりだ。歪と共に事の終幕まで眠れ」


剣が振りかぶられその刃が私とミズイロを襲う。私はミズイロを庇う様にぎゅっと抱き締めそんな国王を睨み続けた。


振りかぶられた刃が振り下ろされる。その直前、私の体は誰かの手によって突き飛ばされ、その突き飛ばした相手と一緒に折り重なるようにして地面を滑る。

止まった所で私はそっと目を開いて自分を突き飛ばした相手、アルファルド君を仰ぎ見る。


「アルファルド、くん……」


アルファルド君は私とミズイロを背に庇いつつ国王を見る。


「殺しはしない」


そんなアルファルド君に国王は言う。私やミズイロは殺さない。だけどアルファルド君は殺すのだ。殺そうとしているのだ。


ぎゅっと私はアルファルド君の服を掴む。

もう絶対に離さない。そう意思を込めて。


「キュウ」とミズイロが小さく鳴く。


「……俺が今守りたいと思うのは、この世界じゃない」


小さく呟き、ぎゅっと服を握る私の手にアルファルド君が手を伸ばし手に触れる。



「今俺が一番に守ってやらないといけないのは、こいつらだから」



ねぇ、アルファルド君。

そんなアルファルド君だから私は一番に守りたいって思うんだ。


だからお願い。

せめてこの世界にいるこの瞬間だけは私の手を離さないでね。だって君のいないこの世界はきっと酷くつまらない。


私は君と一緒に生きていたいから。


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