89.変わらぬ決意
「最初は人一人だった『贄』。だけど、時間が進むにつれ、時が経つにつれ、魔法が増えるにつれ。『贄』は一人では到底足りなくなっていった。そして贄もまた要用には見つからなくなって来てしまっていた。そうした結果次に取った行動が『魔王復活』という仕組み。魔王という『悪』を建前に、何も知らない人達を犠牲にした」
私は黒い本から聞いた話をそのまま国王に伝える。国王は私の話を聞いても表情を崩さず、ただただ私の言葉に耳を傾けているようだった。
「『魔王』を盾に、贄を正当化した。そして、それだけでは飽き足らず、人一人の還元の力を強大にするべく、その贄にいくつかの試練を課した」
それが魔王の力集め。
あの黒い玉を集め、そして苦難を乗り越える度にその人は『人』として強く逞しくなり世界への還元の力はその分大きくなる。精神的にも肉体的にも大きく逞しくなった人間は、それだけ力があるのだと言うこと。
アルファルド君は、出逢った最初のあの頃よりも強く大きく逞しく『成長』した。
「ただの人間よりも、『成長した』人間の方がより還元力は強かったからな。贄の人数を増やすよりもより効果的で効率的だった」
国王が口を挟む。
「さすがに100人も200人も犠牲には出来ないだろ?」
それが犠牲なのだと分かっていて、それでも国王は緩やかに微笑する。それを承知の上で、こんなやり方しかこの人は出来ない。
「元々、魔法を使えるのはその才にたけている人間だけだ。全員が全員簡単に扱えるような代物じゃない」
だから大丈夫だとでも言いたいのだろうか。
「だけど結局『魔道具』として、誰でも魔法が使えるようになってるじゃない」
才にたけていなくても、その恩恵は受けられる。その分だけ、やはり『魔法』と言うものは膨大するのだ。
意を唱える私に国王は苦笑する。
「……そうだな。それだけ人間は欲にまみれた生き物なのだと言うことだ」
「…………」
「魔法使い、お前はそれでいいのか?」
国王はそう言って私の後ろにいたネイルを真っ直ぐに見つめる。ネイルもまた、真っ直ぐに国王を見つめ返す。
国王とネイルの視線が数秒絡み合う。そしてネイルが口を開いた。
「私は、いらない」
「……そうか」
国王はその言葉に少しだけ目を伏せた。私はネイルをちらと見る。ネイルはそんな国王を、いつもの真っ直ぐな瞳で見つめ続けていた。
「ユノ、お前はどうする?」
ふぅ、と一息。国王は隣に立つアルファルド君に問いかける。アルファルド君は私に向けたその視線のまま、国王を見ることは無かった。
「アルファルド君」
私は彼の名前を呼ぶ。
「アルファルド君。私の気持ちは変わらないよ」
「…………」
あの日、アルファルド君の運命を変えるんだと願った気持ちは変わらない。アルファルド君に伝えた想いは変わらない。
「だから私は、絶対にアルファルド君を死なせたりなんてしない」
アルファルド君を犠牲になんてさせない。どんなにアルファルド君自身がそれを受け入れていたのだとしても、『私』はそれに抗うよ。
「死なせたりなんてしない、か」
国王が笑う。
「よくもまぁ、そんな軽口が言えたものだな。今この『万能力』を無くせばどうなると思う?死なせたりなんてしない。そんなものは何も背負ったことの無い身軽な人間だけが言える浅はかな言葉だ」
「そうかもしれないね」
私は即座に国王に言葉を返す。
「私は何も背負ってなんかいない。だって私がここで背負っているのはただ一つだけだもの」
あの日、君に出逢った。
あの日、君に語りかけた。
あの日、君に触れ、君のことがとても大切なんだと分かった。
そしてあの日、君の『運命』を知った。
「私がこの世界で背負っているのはアルファルド君の『運命』ただ一つ」
その他のものなんて、知ったこっちゃない。
だって私は。
「忘れてないよね?私は魔王だよ」
魔王は破壊の王。
破壊して破壊して破壊して。そして、頂点に立って決める事が出来るんだ。
世界をどうするのかを。皆をどうするのかを。
だって『王』はとても傲慢な者の象徴なんだから。




