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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
解決編
81/97

81.星に願いを


「だけどそれだと話がぐちゃぐちゃになりますよ。ゆう、じゃなくてサナ」


街の中。宿屋の一室。

日も暮れ空が黒味を帯びて来たので、私達は近くの街の宿屋に入っていた。


「だって、私を魔王として選んだのは前魔王様で、アルファルド君を選んだのはこの世界のあの教会の女なわけで。もし、アルファルド君が魔王復活阻止の生贄としてじゃなくて何かしらの理由で選ばれていたのだとしたら、その何かしらの理由のために私が前魔王様に選ばれたと言うわけで……、あれ、話としては筋が通ってるのか……?」


なんかもう色々訳が分からなくなってきた。


「今回のコレは最初から『魔王復活』が鍵なんかじゃなくて、『彼』が鍵なのよ。彼を中心に今回の事は回っている。彼のために貴女も私も利用されたってわけ」


利用って、とサナの言葉の悪さに思うところあれど私は考える。重要なのは『魔王』じゃなく『アルファルド君』だと、そういうこと。

そもそもアルファルド君のために『魔王』がいたってこと?


「さ、サナ。頭が混乱してきた」


結局アルファルド君には何かがある、とそういう結論なのだろうか。

だけどやはりおかしい。

私はサナに待ったをかけた。


「でも、サナ。アルファルド君が魔王復活阻止のための生け贄としてじゃなく、別の何かしらの理由で選ばれていたんだとして。だけど最初のあの旅でアルファルド君に待っていた最終地点は『生贄』だよ?」


可笑しいだろ。

別の何かしらの理由で選んだアルファルド君を生贄として火炙りにするだなんて。殺そうとするだなんて。そんなの、本末転倒ではなかろうか。


「だからその『生贄』が彼の選ばれた理由なんじゃないの」


眉間に皺を寄せるサナのその言葉に、私は目を丸くする。


「生贄が、アルファルド君の選ばれた理由?」

「それしかないでしょう」

「どういう意味?」

「…貴女ね」


はぁ、とサナはため息を吐く。


「そもそもが彼を生贄として殺すための、全て仕組まれた茶番劇だったって事よ」

「……どういう意味?」

「貴女ね」


イラッ、としたらしいサナはさらに口を開こうとするが、私を見て少しだけ開いていた口を静かに閉ざした。


『これが俺の運命だったんだよ』


アルファルド君のその言葉を思い出した。

あの時そう言った彼の言葉。生贄として、魔王復活阻止の糧として火炙りを待ち、それを『運命』だと言う言葉で受け入れた彼の言葉。


『死の運命がまとわりついているのだよ』


そんな前魔王様の言葉も思い出す。

運命。魔王。生け贄。復活阻止。呪い。勇者。平和。定められた宿命。力。


私とアルファルド君。


「……どういう意味かよく分からない」

「……そんな貴女だから、ブカは今も貴女を慕っているのでしょうね」


サナの方を見る。

サナは「もう遅いから、寝るわ」と言って一人ベッドに潜り込んだ。私もしばらくしてから同じようにベッドに潜り込み、いつの間にか眠っていた。













「アルファルド君アルファルド君アルファルドくんっっ!!!!」

「…………」

「何で無視するのっ!!」

「…煩い」


真夜中。

木の陰で寝そべる彼の傍で異界の人間である彼女がぎゃんぎゃん騒ぎだす。彼は寝そべったまま耳をふさぎ目を瞑る。


「煩いって…、寝てる場合じゃないからっ!見えないのっ?アルファルド君にはこの今の危機的状況が見えていないのっ?!」

「見えてる」

「見てないじゃんっ!目、瞑ってるじゃんっ!」


「ねぇ、アルファルド君。アルファルド君、アルファルド君ってばっ」と、なおも諦めない彼女に彼はついに折れた。目を開けて上半身だけを起こす。


「別にそんな騒ぐほどのもんじゃねーだろ」

「これがっ?!これが騒ぐほどのもんじゃないって言うのっ?!」


彼女は天を指さす。

そこに広がるのは真っ暗な夜空。いくつもの光が瞬いているその中で、その輝きに負けないくらいの光輝きで、右に左にと光の筋がいく筋もいく筋も流れて行くのが見える。


「流星群ってやつだよっ!半端じゃない数なんだよっ!日本じゃ絶対見れない光景だよっ!!見た方が良いんだってっ!!」

「ニホンって何処だよ…」


彼は呆れたように呟き彼女ははしゃぐ。

彼女とともに、小さな獣もはしゃいで飛び回る。


「綺麗だよ綺麗だよ綺麗だよぉ。ねぇ、アルファルド君ちゃんと見てるっ?」

「見てる」

「…見てないじゃん」


せっかく良いムードになる的な素敵展開なのに、と機嫌を損ね小さな獣に「ね?」と同意を求め始めた彼女とは裏腹に、彼は眠そうに欠伸をした。


「見飽きてるんだよ、こんなもの」

「見飽きてるって。そんなに何度も見た事あるの?」

「ある」


彼の言葉に驚く彼女。

この世界って凄い、と感嘆の言葉が零れ出る。


「じゃぁ願い事かけ放題だ」

「願い事?」


怪訝そうな顔をする彼に、彼女は楽しそうに説明する。


「だって流星群ってさ、流れ星の集合体でしょ?この世界ではしないのかな、星に願いを」


彼女は唐突に歌い出す。

彼女の世界の有名な歌。

彼女の世界の星の歌。


「流れ星がさ、消える前に三回お願い事が言えたらそのお願いは叶っちゃうんだよ」

「…そのナガレボシって、あの何回も流れてるやつか?」


「この世界では流れ星って言わないの?」と問いかける彼女に小さな獣が小さく鳴く。彼が答える。


「ただの光の筋」

「何っ、その何の感動もない表現の仕方っ」


あはははは、と笑う彼女。

とても機嫌が良いらしい。


「ねねねっ、アルファルド君。願い事しようよ、願い事っ!」


光の筋が流れ続ける夜空を見ながら彼女は言う。


「叶っちゃうねっ、絶対!これだけ流れてたら絶対叶うよ願い事っ!ね、ミズイロ!」


キュァ、と小さな獣の楽しそうな声。


「私はとりあえず、元の世界に戻れますようにーって願っとくよ。アルファルド君は何を願う?」

「ない」

「…考えてないだけじゃん」


彼は彼女を見る。

願う彼女を彼はぼんやりと見つめ続ける。


「レイト」

「なにー?」

「もういいか?」

「…アルファルド君」


もうちょっと楽しもうよ、との彼女の言葉。

ため息を吐いたのは彼女。


「ねぇ、願い事ないの?」

「ない」

「………」


考える気すらないらしい彼。


「…じゃあ、アルファルド君の分の願いは私が願っとくよ」と彼女は言った。


そして彼女はまた歌う。こことは違う世界の歌を彼女は歌う。歌う彼女を彼は見る。




輝く星に 心の夢を。

祈ればいつか 叶うでしょう。




何て事ないこの景色が。

何て事ない日常が。

何て事ない平凡な日々が。


この世界の人間じゃない彼女には、どんな些細なことだってとても眩しく明るく、光輝いて見えるのだろう。













目を覚ますとサナはすでに起きていた。


「おはよう」

「…おはよう」


頭がぼんやりする。


「ねぇ、サナ」

「何よ」

「何だっけ?」


は?とサナは私の発言に声を漏らす。


「何だっけって、何がよ」

「アルファルド君の選ばれた理由」


私のその言葉に、サナは少し間を置いてから答えた。


「…まだ確信じゃない。その可能性もあるんじゃないかってだけの話よ」

「その可能性って、どのぐらい?」


「五分五分、かしら」とサナは言った。


「そう」


半分の確立で、アルファルド君はただただ『生贄』となるために選ばれた。

魔王復活阻止のための生贄じゃなく。


ただただ生贄。

ただただ死ぬ事を求められた。

ただただ殺すために選ばれた。

魔王復活阻止だなんて建前で、本当の目的は。本来の目的は。


私は強く手を握る。


「…ねぇサナ。真実を知っているのは誰?」

「私を呼び出した国王。…それか、貴女を呼び出した…」


前魔王様。


「サナ、知ってた?」

「何をよ」

「アルファルド君さ、あの頃のアルファルド君がさ、一番優しかったんだよ」

「………」


生贄になる前。火炙りにされる前。

魔王の力を全て集め終わって、アルファルド君自身の街に戻るまでのあの数日間。


これから死ぬんだって。そう知りながらも決して逃げ出さずに、街に戻る事を自分一人で決めて、抱え込んで、何も私には言ってくれなかったあの数日間。一緒にいたのに私は全然気付いてあげられなかったあの数日間。


あの時のあの期間のアルファルド君が、

一番私に優しかったんだ。








光照らしてくれるでしょう?



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