76.BとLはくっつかない
BとL。
BとLに不快感、不愉快感、嫌悪感をお持ちの方は、この話はどうぞお気をつけてお読み下さい。
全てはこのための予定調和だったのだろうか。
「アルファルド君がまさか、まさかそっち系だったなんて……」
私は愕然とし、アルファルド君とブカを見る。今はもう二人はそれなりの距離を取ってはいるが、それすらも逆に妖しく見えた。
ああ、分からないよね。
分からないですよね。
私は分かりたくもないんですよ。分かりたくもないのに、この脳がぴこぴこと音を立てやがるのです。アラームがけたたましくなりやがるのです。
これはアレだ。
アレなのだと。
説明しよう。
今から数分、もしかしたら数時間前かもしれないがそれぐらい前のこと。
私はアルファルド君とブカを地上に残し、ネイルと共にお空の旅へと向かっていた。地上に残した二人が心配だったがそこはそれ。まぁ、ブカのことだから、言ってもアルファルド君に手は出さないだろうと決めてかかり私は二人を『二人っきり』で置いてきたのだ。
あわよくば仲良くなってくれないかな、なんて思いながら。
あわよくば。あわよくばだからそんなに期待はしていなかったけれど。
そして私とネイルはミズイロを追いかけ空の旅へ。上に上にとミズイロを追いかけた先にあったもの。
それは一面透明な世界。
白ではなく透明。
色があるのにない光景。
そこはレイトの花が沢山咲いている花畑だった。
透明な花弁のレイトの花。
それが数えきれないぐらいに辺り一面何処までも何処までも広がっている空間。
それが遥か上空にあったのだ。
地上とは全く異なるそのあまりにも荘厳で綺麗でなんとも形容しがたい光景に、テンション上がらない筈がない。
ミズイロの機嫌が良かったのも、ネイルのテンションが高かったのもこれを見たから。
私のテンションも勿論上昇。
アルファルド君やブカのことなど忘れるぐらいにレイトの花畑を思う存分堪能した。
ミズイロがレイトの花畑すれすれで飛んだりして風が花を揺らすのに、レイトの花弁は散らない不思議。
だけど何処から降ってくるのか。
上空からレイトの花弁らしきものが降ってきたりした不思議。
でもやはり摘んでしまうと花弁ははらりと散ってしまう不思議。
そんな不思議体験プラスネイルの飛空遊泳でかなり満喫した私達は地上へと戻った。
興奮冷めやらぬ、と言った感じで私が「アルファルド君っ、ブカ!」と上空から降りて来てにこやかに二人に声をかけた所。
「…何やってんの」
私は言わずにはいられなかった。
だって。
だって。
だって、アルファルド君がブカを押し倒していたのだから。
ばっ、と飛び退くアルファルド君。
ばつが悪そうに顔を歪めた。
え、何それ。
まずい所見られた、みたいな。
ブカが立ち上がる。
「結乃様、上には何があったのですか?」
「え、あ、花畑だよ。凄く綺麗だった。ブカも見に行く?」
凄く綺麗だったんだよ。
でも今その感動全て吹っ飛んだけどね。
「あ、あのさ、ブカ」
「私はいいです」と言ったブカに私は恐る恐る口を開く。だが、確信に触れる前にブカがやはり口を挟む。
「花畑というのはどんな感じのものなのでしょう」
「ん?あ、えっとー、花がね、辺り一面咲き誇ってるの。私達が見てきたのはレイトっていう透明な花弁した花なんだけどね、それがいっぱい沢山咲いてたんだよ」
「やっぱり見に行く?むしろ見てきた方がいいよ」とブカに言うのだが、ブカはやはり「いいです」と遠慮した。
「…………」
むしろ見てきてくれ。
その間に私はアルファルド君を問い詰めるからさ。
ちらりとアルファルド君の方を見れば、彼はまだばつの悪そうな顔をしていた。私の視線に気付いたのか、アルファルド君がこっちを見るが私と目が合うとすぐに反らしてしまった。
そしてやはりばつの悪そうな顔。
「…………」
まて。
待つんだ私の思考回路よ。
私は何処かへと泳いでいってしまう自分の思考回路にストップをかける。何処かと聞かれると、それはもうBとLの方向なのだが。
違う。
違うよね。
むしろあれだ。
花畑見た後だったからか。そんな気がしたのは。
そうだ。そうなんだ、と。
あとあまりにも似合っていたから。マッチしていたから。アルファルド君とブカ、二人の姿が。
きっと誤解なのだ。勘違いだ。
これはあれだ。滑って転んで、あ、ごっめーん、みたいな感じなのに違いない。
だけどだけど。
だけどだけどだけど。
よもや全てはこのための予定調和だったのだろうかと疑ってしまうのは私の妄想だよね。
最初から仲が悪かったのも。
私が花畑にいくまでの一連のあれやこれやも。
全て。
伏線。
伏線だったのっ?
全てがこのための予定調和。
そ、そんな馬鹿な。
「ぶ、ブカ。ねぇ、散っちゃった?もう散っちゃったのっ?」
ブカの両腕を掴み揺さぶる。
だけどブカは「何がですか」と言ってのける。何がですかってアンタ。
「ブカの大事な何かだよっ!にゃんこなの?ねぇ、ブカはにゃんこなのっ?にゃんこだったのっ?意外だよっ。でも寧ろ合ってるのかも。ブカ×アルファルド、よりアルファルド×ブカの方が人気はあるかもだよっ」
「…結乃様、あの、いまいち話が掴めないんですが」
そして、それよりも何よりも酷いのはアルファルド君だ。
私はアルファルド君をきっ、と睨み付け怒鳴る。
「私を隠れ蓑にしたのっ?!」
「……」
フラグを立たせないな立たせないなと思っていたらこんな事だったとは。一回は私自身の手でへし折ったんだけれども。
だけどそれでも。
「あんまりだよ、アルファルド君」
君の性癖にとやかく口を出すのはあまり良いことじゃないのかもしれないけれど。
ここまできて。
ここまできて私にその仕打ちはあんまりにも残酷だ。当て馬だ。鼠取りにかかった鼠だ。罠にかかった日本猿だ。
「薔薇の棘は痛いんだからねっ!!!」
悔し紛れにそう叫ぶ。
「おい、レイト」
「薔薇なんて無くなってしまえっ!」
「…ばらってなんだ」
うわぁーん、と私が叫んでいる所に新たな人物の声がした。
「……だから何で貴方達はいつもそう騒がしいのよ」
それは勇者さんだった。
勇者さんはいつもいつもいつの間にかそこにいる。
「サナ」
「ネイル、貴女も止めるとかしなさいよ」
「いや、なかなか面白くてな」とネイルが勇者さんにあははと笑う。勇者さんは呆れ顔。
「勇者さん…」
「獣も見つかってるんだから、さっさとこの森から抜け出しときなさいよね」
はぁ、とため息を吐く勇者さんに私は歩み寄る。一歩、また一歩と。
「ゆ、勇者さん…」
私のあまりにもな悲愴感に弱冠ビビったのか勇者さんが後ずさる。
「な、何よ」
「勇者さん、ごめんなさい。私、わたし……」
アルファルド君を止められなかったです。
不甲斐ない。
マジ不甲斐ないっす。
ブカは勇者さんのものだと言うのに。それなのにアルファルド君がブカに……ブカに。
だけど。
「…謝らなくてもいいわ。私も謝る気はないから」
そう勇者さんの声がした直後、私の体はふわりとバランスを崩し、地面にうつ伏せに叩きつけられる。地味に痛かった。
「…っ、たぁ」
「獣含め全員動かないで」
チャキ、とうつ伏せで倒れている私の首もとに勇者さんの剣。
な、何事。
皆何が起きているのか分からず、言葉も出ずに呆然としている。ただ一人、ブカだけがじゃり、と足を動かした様なのだがその瞬間勇者さんが動く。
「ブカ、貴方私の言葉聞いていなかったの?」
「えっ!ちょ、勇者さん痛い痛いいたいっ!!」
勇者さんが剣を私の喉元につきつけながら、もう一方の手で私の腕を捻りあげたのだ。
バンバンッと自由な方の手で地面を叩きギブアップ宣言をするが勇者さんは離してくれなかった。
「ゆ、勇者さんっ、ギブですっ!ギブっ、ギブギブギブッ!!!」
「貴女も少し黙ってて」
でも痛いっ、痛いんですけどっ!
折れる。このままだと折れるっ!
「何のつもりだ」
「見たままよ。動いたらこの子を殺すわよ」
「勇者さんっ、そんなに怒ってるんですかっ?でもこの場合悪いのは私じゃなくてアルファルド君ですよっ!アルファルド君が薔薇の花咲かせちゃったんですっ!怒りはアルファルド君に向けるべきですっ!」
「……何の話よ」
あれっ?
違うの?
と、勇者さんが何故こんなことをしているのか分からず私は一瞬頭が真っ白になった。
その隙をついたかのように、勇者さんと私の周りが淡い緑色に輝きだす。
「……!」
これってもしや空間移動ではっ?!
「ゆ、勇者さんっ?」
なんだ何だ、なんなんだっ?
私はじたばたもがくことも出来ず勇者さんのなすがままになっていた。
そして。
「サナっ」とネイルの声だけが最後に聞こえ、勇者さんは私を連れて空間移動した。
全てはこのための予定調和。
だったら怖すぎる。




