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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
魔王編
52/97

52.ぶちギレ

二、三日で着ければ苦労はない。

そして、あの図書館があった街から北の方向が、すでに今現在どっちなのかも分からない。


迷子だ。



「キュアー」

「ミズイロー、何か見えたー?」


遥か上空を飛んでいるミズイロに声をかける。唯一飛ぶことの出来るミズイロに、この辺りを偵察してきてもらっているのだが。

なかなか戻ってこない。


「そんなに何もないのかな?」

「さあな」


いいな、ミズイロは。

と思い、私も「飛べ!」と言ってぱちんと手を叩くが、やはりぷいんとジャンプしか出来なかった。何回やってもこれって。虐めではなかろうか、と最近考えている。誰かの陰謀だ。絶対。


「ピャアッ」


ミズイロが降りてきた。そして、「こっち」と先導するものだから、街でも見付けたかと足取り軽く着いていってみれば、着いた先はなんと湖だった。

先に着いていたミズイロは嬉しそうにばちゃばちゃして遊んでいる。


ミズイロ。

お前絶対遊びたかっただけだろ。



ミズイロのために、私達は暫くこの辺りで休憩することにした。


「アルファルド君、泳いできたら?」


そう言ったら睨まれた。

分かってたけど。


ミズイロを見る。

湖の色とミズイロの色が混ざって、何処にいるのかたまに分からなくなる。それだけ湖の水は綺麗だし、ミズイロの水色も綺麗だった。

最初会った時より少し大きくなったミズイロは、翼を大きく広げて飛ぶ。そうしていると、竜のように見えて、ミズイロは実は竜なんじゃないかと思える時があった。

精霊とか妖精の類いかな、と考えてはいたが、竜、と言われた方がしっくり来るかもしれない。


「アルファルド君。ミズイロって、ドラゴン?」

「何だ、どらごんって」


あえて横文字で言ってみたら、アルファルド君はやはり分からなかった。竜のことだよ、と言ったら、ミズイロをじっと見たアルファルド君は「どうだろうな」と呟いた。竜はいるらしい。


「ね、アルファルド君知ってた?ミズイロ、何か変な力持ってんだよ」


ブカの空間移動の相殺。

あれ以来そういった類いの力は見せていないが、確かにミズイロは特殊な力を持っているようだった。しかも、ブカの力を相殺出来るだけの力だ。


「ああ、あれか」


アルファルド君も、ブカの空間移動相殺には気付いていたようで、思い出したかのようにそう言った。


「ミズイロ、何者?」


笑いながら言ったら、アルファルド君が「人間ではないな」と当たり前過ぎてて突っ込めないほどの感想ならぬ暴言ともとれる言葉を口にしたので、私はアルファルド君から離れミズイロがいる湖へと即時撤退を試みたのだった。


「ミズイロが人間でないことは誰の目から見ても明らかでしょうよ」

「ピャァー!」


ね、ミズイロ。

湖をすいすい泳いで近付いてきたミズイロを撫でてやった。










飽きもせず泳ぎ続けるミズイロに習い、私も足だけ湖に入れる。冷たくて気持ちいい。ばしゃばしゃ動かしてみた。

魚とかはいないのだろうか、と覗き混んでみたら、下の方で団体さんが泳いでいた。もしかしたら、ミズイロに喰われる、とでも思っているのだろうか。


足をばちゃばちゃし、ミズイロを見ながら私は魔王の力について考える。飛空能力についてはとりあえず置いといて。

攻撃系統の、あのセーブ出来ない感じはどうにかならないだろうか。


使うたびにどっかん、どっかん、と魔物だけじゃなく周りを破壊するのは本当に勘弁して欲しい。ブカが以前にコントロールがどうの、制御がどうの、みたいなことを言っていた。

だから、その辺りをどうにかすれば、戦闘禁止礼解除も夢ではない。


「何が悪いんだろ…」


力の制御とかコントロールとか言われても、いまいち分からない。手を叩いて思い描けば魔法みたいな力が出るのだ。まぁ、描いたものより数万倍デカイのが出てくるのだが。それって制御とかコントロールとか以前の問題ではなかろうか。


「手の叩き方が悪いのか?」


私はいつも結構強めにパンッと叩いている。軽めに叩けばいいのかもしれない。


「…………」




やってみた。湖に向けて。


湖の近くだから、水系なら大丈夫だろう、と思って。だが、そんなに甘くはなかった。湖の生態系が死んでないことを祈ろう。


「キュア!!」


ミズイロに怒られた。

湖から離れているアルファルド君には睨まれた。

ごめんなさい。




では何が悪いのか。

私は手を叩いた後、魔法的力を出したい方向に向けて両手のひらをつき出すようにして向けている。

もしかしたら、それが悪いのかもしれない。


パンッ、と手を叩いて、ブカのように腕を振るのはどうだろうか。


「…………」


早速やってみた。

命知らずか、と言われそうだが、もしダメで怒られたら「諦めたら試合終了だよ?って名言知らないの」と言って誤魔化そうと思う。ブカには「知りません」の一言で一刀両断されたやつなんだけど。



「よしっ…」



パンッ、と叩き腕を横に振った。

数秒後。



「………っ!!!」


嬉しさに涙でも出そうだった。

目の前は穏やかに広がる湖。私が出した魔法は、小さな水溜まりのような塊を湖に一つ降らせただけの、私が思い描いた通りの構図だったからだ。


やったよっ、アルファルド君!


そう思い彼を見るが、こっちには気付いていない様子。



「……………」


パンッ、と叩きアルファルド君に向けて腕を振る。

水溜まりがアルファルド君の上に現れ、ぱちん、と割れた。


「う、わぁっ…!」


ばしゃーん、と突然の水が彼を濡らした。髪も服もぐっしょりになった。


「あははははははっ!」


お腹押さえて爆笑してたら、アルファルド君に頭を殴られた。


「痛っ!」


殴られたのは始めてだ。

酷すぎる。



髪の毛も服もぐっしょりになったアルファルド君だが、彼は服を脱いで乾かそうとはしなかった。そのままの状態で腰を下ろす。


「服、乾かさないの?」

「いい」


そういえば、少し前の時も乾かさなかったな、と私はアルファルド君を見る。ずっとずっと前。白大蛇の時は普通に服、乾かしていたはずなのに。


「…………」


ぐっしょりのままの服なんて、着てて気持ちいいもんでもないだろうに。


「……ミズイロっ!」


私はミズイロを呼んだ。「何?」と首を傾げるミズイロに、私はアルファルド君の方を指差す。それだけでミズイロは察してくれた。

ミズイロとの意志疎通はばっちり完璧何でもござれ、だ。


「キュアッ」


ミズイロがスピードを付けてアルファルド君の顔にぶち当たってそのまま顔にへばり着く。まさかのミズイロの行動に避けられなかったアルファルド君は当たったそのままの反動でカッコ悪い声を出して倒れ込む。

私はすかさず彼に跨がり、




服をひんむいた。

あ、上半身だけだよ。勿論。


「ぎゃあーっ!」


アルファルド君の叫び。


アルファルド君が暴れるので、なかなか脱がせられない。ええい、破り捨ててやろうか。


「ちょっとアルファルド君っ、大人しくしててっ!」

「ばっ…!おまっ、何考えてんだっ!!」

「アルファルド君がなんか勿体ぶって脱がないからだよ!」


今更上半身裸ぐらい何てことないだろ。

私は風呂場(御祓中)に乱入した時も、裸な君をかなりじっくり見たんだから。


「別に今更何を隠す必要があるのっ?!」

「変態かっ!!」


変態だなんて失礼なっ。


そう怒鳴ってやろうとしたのだが、私はひんむいた服から見えるアルファルド君の肌に異質なものを見つけ、開きかけた口を閉じる。

ちょうどお腹の辺り。その辺り周辺から胸の下辺りまでに、みみず腫というかタトゥーというか刺青みたいな何かがあったからだ。

変な紋様、みたいな。

背中の同じ辺りにもあるみたいだった。


「何、これ?」


こんなもの以前から彼の体にあっただろうか。


「アルファルド君、何、これ?」


刺青とか。アルファルド君らしくない。だが、私に跨がられたままのアルファルド君は「さっさと放せっ!下りろっ!」と煩いだけだった。

ミズイロはいまだに頑張ってアルファルド君の顔に張り付いている。


ぺたり、とそれに触ってみる。

みみず腫のように浮き出てはいないらしい。私が触っているのは間違いなくアルファルド君の肌だった。

でも、何だろ。何だか、気になる。

刺青やタトゥーの類いでもない気がした。何だ。これは何だ。


ぺったらぺったら、跨がったアルファルド君の肌に触っていたら、さすがにアルファルド君がぶちギレた。


「…っい、いかげんにっ…、しろっ!!!どけっ!!!!!」


怒号。

びっくりして私は飛び退く。ミズイロも同様。


アルファルド君は上半身を起こし、ひんむかれた服を直す。顔が怒ってる。


「…あ、アルファルド君。そのお腹のやつ」

「知らんっ!!」



ぶちギレ。




逆鱗に触れた時は、静かな怒りで弁解の余地もあったのだが、今回はもうお怒りが本当に手も声も足も何もつけられないぐらいのぶちギレ状態。


アルファルド君がキレてしまった。



「…………」


どうしよう。








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