37.終わた
一番目の魔王は私のように『人間』ではなかった。もろに魔物、という感じの出で立ちだ。言うなればリザード系。とかげ。蜥蜴人型。みたいな。
ゲームとかに出てくる雑魚キャラっぽいんだけど、こいつが本当に一番目の魔王何だろうか。
私は相手に聞こえないように、片腕である所の隣にいる魔物に「…リアル?」と聞いてみた。魔物は「あれが一番目の魔王です」と淡々とした口調で答えた。
「随分時間がかかったじゃないか、二番目」
一番目の魔王が口を開いた。
偉そうだな、おい。とかげのくせに。リザードのくせに。これで名前が『リザード』だったら、私の中でお前は魔王じゃなく雑魚として認識してやる。
「全くですね。オワタ様」
一番目の魔王の隣にいた、これまた魔物臭漂うリザードが言った。多分一番目の魔王の片腕なのだろう。
私の片腕である魔物は見た目人間で、一番目の魔王であるオワタさんの片腕らしき魔物は見た目とかげ。
魔王に合わせて片腕とか決めたのだろうか。前魔王様は。
そんなことより。
「………」
オワタ、終わた。
「結乃様」
「大丈夫だいじょうぶ。笑ってない笑ってない」
心配なだけだよ。
この魔王、大丈夫かなって。
終わってないよね?
「あの、オワタさん。単刀直入に言いますが、私、魔王になるつもりなくてですね。で、魔王様の座は貴方にお譲りします」
そう私が言うと、オワタさんはそのギョロ目をぱちくりさせた。ちょっと可愛い。
「…この世界の新の魔王になるつもりはない、と」
「はい」
暫く後、オワタさんは「ははははは」と笑った。声を上げて笑った。
「何だ、この不抜けた魔王は。糞だな」
そう言ってオワタさんはにやにやしながら私を見た。そして、「人間臭いのも頷ける、ということか」と言った。時間がかかるのも頷ける、と。
「しかし…、譲る、というのなら貰ってやろう。有難く、な」
「………」
なんか物凄く腹が立つが、雑魚が魔王様になった所でそんなに被害は出ないだろう。そう思っていた。所詮雑魚。所詮リザード。所詮とかげ。
「では、それでいいのだな?二番目の魔王」
「どーぞどーぞ。魔王頑張って下さい。で、どうやって譲ればいいの?」
私は隣にいた私の片腕である所の魔物に視線をやる。魔物は「少し準備がありますので、一旦戻りましょう」と言った。「譲ります」と言う言契だけでは駄目らしい。まぁ、多分私が持っている魔王の力をどうにかしないといけないのだろう。
「しまった。少しぐらい魔王の力、使っとけば良かった」
その時になってそう思った。
多分チート的力が今の私にはあるのだろう。なにせ魔王の力。ちょっとぐらい試しておけば良かった。折角だから。
惜しい事した、と嘆く私の隣で「では出発しますが宜しいですか?」と聞く魔物に、うんと頷こうとした所で、私は耳にした。オワタさんとオワタさんの片腕の会話。
「こんなに簡単に新の魔王になれるとはな」
「オワタ様の実力あってのものですよ」
「ふん、当たり前だ。もし、あの二番目と争っていたとしても俺が魔王になっていたことは公然の事実だろう」
「その通りです」
「しかし…、二番目と争わない、となると力が有り余ってしまうな」
「では、また街や村の一つでも消しに行かれますか?」
「そうだな。…、だが今度は一瞬で消すのではなく、一人ひとり人間を潰す方が楽しそうだな」
そんな会話。
「結乃様」
「……うん」
そんな会話はまだ続いている。潰す、とか殺す、とか逃げる人間をどう追い詰めるか、とかどの魔法が一番苦しめられるか、とかあの顔を見るのが溜まらなく心地いい。とか。
そんな会話で心底楽しそうに。
「結乃様」
「……うん」
うん。
分かってる。分かってるよ。移動するんでしょ?あの魔王城に戻って、オワタさんに魔王を譲る準備をして、そして魔王の座を譲って。それで私は魔王ではなくなるんだ。オワタさんが魔王になる。
オワタさんが魔王になったら、この世界の人間はどうなるのかな。
「………」
「結乃様」
「…ねえ、あのさ…。やっぱ、前言撤回してもいいかな」
「……宜しいですよ」
魔物が笑った気がした。
前言撤回。
快楽殺人者なんかに魔王様の座を譲るわけにはいかない。私は『魔王』を放棄してはいけない。そんな気がした。
でもまさか、その数日後にオワタさんが勇者に殺られて、私が『魔王様』になってしまうだなんて。そんなこと、予想できようはずがない。
オワタさんは終わり、
私も終わた。
人生が。




