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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
魔王編
36/97

36.魔王の言うことは絶対

そうして私達は早速一番目の魔王の所に行く事にした。場所はこの魔物が知っているようで、さっきみたいにひとっ飛びしてくれるらしい。


「でも、よく場所なんて知ってたね」

「一番目の魔王は結乃様より随分早く魔王として存在されていましたから。二番目の魔王である結乃様の片腕としての私と致しましては、それぐらい調べておくのは当然です。ですが、調べておかなくても、あちらは隠す気は無かったようですが」


一番目の魔王は私より三カ月近く早く魔王としての立場に付いていたらしい。それでも三カ月、だ。数か月前。

ということは、一番目の魔王というのは私と同じように異世界からこの世界に連れてこられた人、ということなのだろうか。そんな気がした。魔物に聞いてみた所、「そうだと思われます」と答えてくれた。

この魔物は私がこの世界の住人ではなく異世界から来た人間であることも知っていた。そこん所も前魔王から聞いていたらしい。

ということは、もしや前魔王様が私をここに連れてきたのか?


「ではまいりますか?」


一番目の魔王のところへ。


「うん。あ、でもちょっと待って」


私はまだ胸の所に張り付いたままのミズイロを見る。魔物と話している間も全然離れようとしない。ずり落ちないように私が腕で支えてあげているが、さすがにもう疲れているのではないだろうか。この格好。


「ミズイロ」


名を呼ぶ。返事がない。私はミズイロを支える腕に少し力を入れた。


「ねぇミズイロ。お願いだから返事ぐらいはしてよ」

「……キュァ」


小さくミズイロが鳴いた。そんなミズイロに私は言う。


「ミズイロ。ミズイロにお願いがあるんだ」


そう言ったら、ようやっとミズイロが顔を上げた。ミズイロの瞳と視線が合う。何故だか無性に嬉しくなって私は微笑んだ。


「ミズイロ、アルファルド君の所へ行って」

「キュアッ!」


一際激しく一声鳴いて、ミズイロはまた顔を伏せた。私の服を掴む手に力が込もる。嫌だということだろう。あの時、私はほぼ無理矢理と言っていいほどアルファルド君の所へ行かせた。ミズイロに怒鳴って、睨んで、無理矢理行かせた。

私と一緒にいると、ミズイロに被害が及ぶ可能性があったから。魔王の仲間だと思われると思ったから。それは避けたかった。ミズイロは魔物なんかじゃない。魔王とは、何の関係もないんだ。

だけど、今私がミズイロをアルファルド君の所へと行かせようとしているのは、その理由だけではないんだよ。


「…ミズイロ、私、アルファルド君の事が心配なんだ」


アルファルド君のことが少し心配だった。

火に焼かれて生贄になる、という儀式は多分無くなっているだろうとは思う。アルファルド君と一緒に火に焼かれる筈だった『魔王の力』が無くなったのだから。

だからアルファルド君が生贄として死ぬようなことはないはずだ。


だけど、私が魔王の力を壊したあの瞬間、アルファルド君は『失敗した』ということにはなるのだろう。アルファルド君に非はないのは街の人から見ても明らかだが、確実にアルファルド君は失敗した。

失敗して、私という魔王は復活した。


私とアルファルド君に関わりがあった、ということはアルファルド君が話さない限り街の人にもその他の人にもバレる事は無いだろう。街にいた時はローブにフードにサングラスをしていたし。魔王として宣言した時はローブは着ていなかった。同一人物だとはバレないだろう。まぁ、サングラスは宣言途中で外したのだが…。

それに、そもそもあの街ではアルファルド君とは他人のふりをしていたのだから、私達が知り合いなのだとバレ様はない。


だけど、失敗した事によりアルファルド君が責められる可能性はあるのではないか、と思うのだ。失敗の責任を取らされていないだろうか。それが心配だった。そうじゃなくても、『失敗』はアルファルド君の心を追い詰めてはいないだろうか。



心配だった。



「アルファルド君が心配なんだ。だからミズイロ、アルファルド君の傍にいてあげて欲しい」

「…キュウゥ…」


ミズイロもそれは同じなのか、何だか心苦しそうに鳴く。


「ミズイロ、私は大丈夫だよ。魔王だしさ、魔王の力も手に入れて。ほら、最強になったし」


多分。


「それに、こうやって片腕の部下がいるし」


頼もしい魔物。自分で魔王の片腕、と言っているのだからそれなりの腕なのだろう。まだ空間移動的な力しか見ていないが、攻撃系統もそれなりに強いと思われる。


「だからさ、ミズイロ。アルファルド君にはミズイロがついていてあげてよ」


アルファルド君に味方はいるのだろうか。

アルファルド君はあの街で責められてはいないだろうか。

侮蔑な目や蔑みな目で見られてはいないだろうか。


私のせいではあるので、アルファルド君のその後が心配だ。だけど、ミズイロがアルファルド君の傍にいてくれるなら、こんなに心強いことはない。


「だからミズイロ。お願い」

「…キュゥ」


まだ何処かやりきれない感じのミズイロに、私は「魔王引退したら会いに行く」と伝えた。絶対に会いに行く、と。

それでミズイロは渋々と言った感じで納得したようだ。後ろ髪引かれている感じだが、納得してくれた。


「ありがとう。ミズイロ」


私は近くでずっと静かに立っていた魔物にミズイロをアルファルド君の所まで送ってもらえるよう頼んだ。魔物は了承した。


「あ、でも街の人に見られないでね。できればアルファルド君にも。街の近くからなら、ミズイロ、自分で飛んでいけるだろうから、街の近くでいいよ。ミズイロ、大丈夫だよね?」

「ピャァッ」

「あと、街には手を出さないでね。人にも手、出しちゃ駄目だよ。ミズイロ送り届けて、すぐに戻ってくること。途中で憂さ晴らし的に人間襲うのはやめてね。あと、ミズイロにも。優しく、無事に、安全に送り届けて下さい」


魔物は「わかりました」とだけ言った。かなりいっぱい注文付けてしまったが、彼は怒ることも呆れることもため息を吐くこともなく無表情無感情な『無』を貫き通した。

私が「無ーん」と言ったら、「無ーん」とは返してくれないだろう。残念ながら。


そして、ブカはミズイロを連れて腕を軽く振った。直後、いなくなった。


「…凄い」


消えた。一瞬で。


私にも出来るのだろうか、と考えていたら魔物が戻って来た。数秒しか経ってないんだけど。


「早いね」

「ありがとうございます」

「ちゃんと送り届けてきてくれた?」


あまりの早さに不安になり、私は魔物に聞いた。すると魔物は「確認に行きますか?」と聞いてきたので、私は首を横に振る。



大丈夫だろう、と思った。


この魔物は多分、私の言ったことを守ってくれるはずだ。




魔王の言うことは絶対!

なのだから。













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