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私の異世界での立ち位置  作者: 葉月
勇者編
29/97

29.次の目的地

私はアルファルド君に大蛇から出てきた黒い玉を渡した。


「はい、これ」

「………」


アルファルド君はそれを無言で受け取った。

本来、今回のこの黒い玉は神殿に保管してあったはずらしいのだが、何がどうなったのか。黒い玉はあの大蛇の体から出てきた。アルファルド君は神殿にない黒い玉を探していた時に、私が大蛇に襲われ水中へと連れて行かれる現場を目撃したらしい。

で、最初はどうしようもなく水池周りをうろうろしていたと言うのだから。


「どうしようもない」


まぁそれでも最後には水の中助けに来てくれたので感謝しないといけない。だから。


「アルファルド君、安心して。フラグはへし折っといてあげたから」

「…なんだ、ふらぐって」


知らない所で恋愛フラグ立たされたらたまったもんじゃないだろう。カナヅチで泳げないのに助けに来てくれたお礼に、私とアルファルド君の間の恋愛フラグは私自信の手で真っ二つに折っといたからね。安心してね。


そんなアルファルド君は無言で黒い玉を見続けていた。前回の時も前々回の時もそうだったが、今回はそれが長い。黒い玉をじっと見るアルファルド君と私は服を乾かしている最中なので動けない。だから暇なのは分かるのだが。


「ね、アルファルド君。そのさ、『魔王の力』ってやつ、あとどのぐらいあるの?」


何となくここまで見てきて分かったが、多分アルファルド君の旅の目的はこの『魔王の力』みたいなのだ。今回ので三つ目。あと何個あるのだろう。

その私の問いに対し、アルファルド君はこっちを見ることもなく何の感情もなしに「これで最後だ」と言った。


「…そうなんだ?じゃあ…」


いよいよ魔王退治か?

パーティメンバーが物凄く心許ないけど。私のあの力もさっきは都合よく使えたが、まだ不安定なのが否めない。戦闘には参加出来る気がしない。


「メンバー、増やさなくていいの?」

「さっきから俺の分からない言葉を連呼するな」


睨まれた。


「えっと、だから…。魔王退治には戦闘員が少なすぎるんじゃないかなって」


アルファルド君に私にミズイロ。少ないなんてもんじゃない。

それともまだ魔王退治にはいかないのか。

まだ何かアイテムが必要だとかなのか。


アルファルド君はそんな私をじっと目を細めて見た後、俺は勇者じゃない、と言った。そしてまた手にしていた魔王の力である黒い玉を見つめる。


「…………」


じゃあアルファルド君は『何』なのさ。


そう聞きたかったが聞けなかった。

黒い玉を見つめるアルファルド君のその表情が、最初に会った時、そしてあの街で魔物を倒した後と似たような表情だったから。

あの悲しいような寂しいような、何も考えていないような、何も想っていないような。


そんな表情。




「…アルファルド君が魔王、ってオチじゃないよね…?」


一応聞いてみたらアルファルド君に睨まれた。オチ、の意味は分かっていないんだろうけれど。












「次は何処に行くの?」


服も渇き、よし出発だ、となった所で私はアルファルド君に聞く。今まで何回もこの質問をしてきたが、ここに来て初めてアルファルド君は答えてくれた。


「街に戻る」

「街って?」

「…俺の街だ」


ああ、あそこか。


「街に戻ってどうするの?」


『魔王の力』をあの街でどうにかするのだろうか。そう思って聞いたのだが何故かアルファルド君は、そんな私にとても今更な事を言ってきた。


「何処まで着いて来るんだ、お前は」

「…アルファルド君、それ、今更すぎるよ」


ここにきてそれ聞くの?



最初はアルファルド君が勇者だと思ってたし、私が異世界に来て初めて会った人だったから絶対元の世界に戻るための重要人物だと思って着いてきていた。だから戻れるまで着いて行く気をしているのだが。


「俺が『魔王の力』を持って街に戻れば魔王が復活することはない」

「そうなの?」


というか、復活自体してなかったんだ。魔王。


「俺が街に戻れば…、それで終わりだ。お前が元の所に戻れるようなことは何もないぞ」

「…………」


私はアルファルド君を見る。

何故だろう。

何だろう。

なんか。





「なんか、アルファルド君。私に街まで着いてきて欲しくないみたいなこと言うね」

「………」


アルファルド君は黙った。

図星か。何故だ?


「迷惑、とかは今更だと思うんだけど…。もしかして、私が魔王とかまだ思ってたりするの…?」


アルファルド君は『魔王の力』を持って帰る。持って帰ったら魔王は復活しないらしい。多分、何か儀式的なことでもするのだろう。

その儀式を邪魔されたくない、とか。


「私は魔王じゃないってば」


多分。いや、もし魔王だったとしても邪魔はしないしさ。その儀式が終わったらもしかしたら帰れるかもしれないのだし。


「そういう意味じゃない」


アルファルド君はそう言った。そういう意味じゃなければどういう意味だ。もしかして、女連れで戻るのが嫌なのだろうか。そういえば、あの街にはアルファルド君の『彼女』がいるのではなかったか。


何だ。そうか。


「大丈夫だよ。ちゃんと街近くなったら離れて歩いて他人のフリするからさっ」


そんなこと気にするなんて、アルファルド君も男の子だな。そう思い私は笑いながら彼にそう言った。




アルファルド君はもう何も言わなかった。




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