30.ユノ
私達はアルファルド君の故郷とも言うべき街へと向かっていた。「街に戻る」と言ったアルファルド君が、街に戻るのにどれだけの日数と時間がかかるのか不安だった。
何せ方向音痴。
だけど、私はそれを口にはしなかった。今度こそ「着いて来るな」と言われてしまいそうだったから。
姿が見えなかった時は別にそう言われても気にしなかった。黙って着いていけば気付かれないし。だが、姿が見えるようになった今、そう言われたら本気で置いて行かれるだろう。そう思った。
「ね、アルファルド君。街に戻ったらさ、その『魔王の力』どうするの?」
儀式でもするの?
そう言ったら、アルファルド君が「そんな感じだ」と言った。
「そうなんだ。…ね、私思ったんだけど、その儀式が終わったら私元の世界に帰れるんじゃないかなーって」
私はこの旅でアルファルド君の手助けをするためにここに呼ばれた。手助けらしい手助けは出来てないが、何回かアルファルド君を助けたのは確かだ。だから、この旅が終わり、儀式が終了し、魔王が復活しなければこの世界は平和になり私の役目も終わり、みたいな。
「…だといいな」
「うん」
だといいな。ホントに。
だって、それ以外に帰る方法が分からないから。
「ねえ、そういえばさ」と隣を歩くアルファルド君に顔を向けながら私は問う。
「どうしてアルファルド君なの?」
『魔王の力』集め。
不運で選ばれでもしたのだろうか。それとも、何か特別な理由でもあるのか。
少しの間の後、アルファルド君は口を開いた。
「…俺が、魔王と同じ名前だからだ」
同じ、名前。
「…名前…?」
「そうだ」
「…同じ名前って、魔王の名前なんか分かっちゃうんだ?ここの世界の人達って」
「分かるのは一部の人間だ。神に近い者達が知ってるんだよ」
「へー」
そうなんだ。
私はアルファルド君に笑顔を向けた。そして、それ以上聞くのをやめた。
アルファルド君と同じ名前の魔王。
勿論、『アルファルド』がアルファルド君の本来の名前じゃない訳だから、魔王の名前が『アルファルド』ということはない。別の名前だ。
だからかもしれない。アルファルド君が名前を名乗らないのは。
結果、私はずっと自分が付けた『アルファルド』という名前でアルファルド君を呼ぶことになっているわけだが。
『名前』
「…………」
私は自分の名前が分からない。自分の本来の名前を忘れてしまっている。だからアルファルド君に『レイト』という名前を付けてもらったのだ。だけど、これもアルファルド君と同じで本来の名前ではないわけだから。
アルファルド君に本来の名前を聞いてみても良かったのだろう場面だったのに、私はそれをアルファルド君に尋ねる事はしなかった。
「…アルファルド君」
「何だ」
「サングラス、本当にごめんね」
私は大蛇との水中戦でサングラスを無くしてしまっていた。
「また買うの?」
「そうしないと駄目だろう」
「太っ腹ぁ」
「………」
太っ腹だねぇ、アルファルド君。
それとも財布の紐が緩いのかもしれない。
そして。
まぁ、こうなるよね。
「…奇跡…」
私は小さく呟いた。
私達はついにアルファルド君の故郷であるところの街に着いた。奇跡だ。奇跡すぎる。なにせ二十日間ぐらい過ぎたぐらいから、私は諦めていたのだから。
絶対無理、と。
それが、こうやってアルファルド君の街に戻ることが出来たなんて。奇跡、としか言いようがない。ミズイロが嬉しそうにバッタバッタ飛んでいる。
「アルファルド君、私君の事見くびってた」
「……?」
方向音痴を見くびってた。凄いね、方向音痴。私、今後方向音痴の人とは行動を共にしない事を誓うよ。
すぐに街に入らないアルファルド君に、私は二十日間の旅路で奇跡的に手に入れたサングラス。そして、二十日間で考え編み出したミズイロの髪の毛、を実行に移し話しかけた。
「これで街に入ってもばれないね」
「………」
アルファルド君はやはり微妙な顔をした。
私の姿は目にサングラスで黒目を隠し、フードを被るものの少し出てしまう前髪をミズイロに頭に乗ってもらうことで隠し、フードの首元をきゅ、っとしめることでそこから見える黒髪を隠した。
かなり不審だが致し方ない。
「入らないの?」
「………」
私は中々入ろうとしないアルファルド君に言う。
「大丈夫だよ。アルファルド君から離れて、街に来た旅人、を装うから」
彼女に疑われることないようにするから。
アルファルド君はそんな私を見る事は無く、じっと街の入り口から街を見た後、足を動かした。私はそんなアルファルド君の後を少し離れて街へと入った。
「帰って来たぞっ!」、と街は直ぐにお祭り騒ぎとなった。家々から人が出てきてアルファルド君の周りに集まる。「おかえり」や「お疲れ」と言った言葉が飛び交う中、その人物は現れた。
アルファルド君の彼女、だ。
焦げ茶色の長い髪を蝶々のような髪止めでとめた、まだその顔に幼さを残す可憐そうだったあの時の少女。今はその綺麗な髪をそのままの状態で背中に流しているのだが。
少女はアルファルド君に飛びつき、こう言った。
「お兄ちゃんっ!!」
そうそう。お兄ちゃん。
って。
「は?」
…お兄ちゃんって。
「ユノお兄ちゃんっ」
「ただいま…ニノ」
アルファルド君が優しくニノちゃん、妹ちゃんを抱き返している。
「…………」
彼女じゃない模様。じゃあ私の心配は無駄もいいとこじゃないか。彼女に誤解されないように、と考えていた私の考えは無駄もいいとこじゃないか。
彼女じゃないなら彼女じゃないと、最初から言ってくれてれば良かったのに。
「まったく、アルファルド君にも困ったものだよ」
やれやれ。と私は二人を見守る。しかし、似てない兄妹だ。
『ユノお兄ちゃんっ』
「…………」
アルファルド君の本当の名前は『ユノ』と言うらしい。
ユノ。
ゆの。
結乃。
「…やっぱ…、そうなのか」
ぽつりと呟く私は、
私は、
『私』を取り戻した。
自分の『名前』を、思い出した。
「………」
こうなるんだよ。
結局。
私が『魔王』
そういうことか。




