22.白虎
堕ちた先は四畳半。
では、今回はなかった。
グガオォォォ!!という雄叫びとともに、ソレはこちらに飛びかかってきた。
「ひぎゃぁあぁぁぁぁーーっ!!!!」
間一髪。
で避けられなかった。
腰が抜けて動けなかったのだ。無様に尻を地面につけたまま私は頭だけを抱える。
だが、ソレが私に襲いかかることはなかった。アルファルド君が剣でソレの牙を止め、弾く。ソレとアルファルド君の攻防戦。私はその間に必死の思いで四つん這いでずりずりとその場から撤退する。
「じょ、冗談でしょっ…、堕ちた先にすぐあんなものがいるなんて」
私はアルファルド君が必死に戦っているものを見る。それは虎だった。前の牛ボスさんと違い人型ではなく本物の虎だ。ただし、大きさは半端ない。牛ボスさんよりは小さいが、普通の虎の大きさではない。あんなものと対峙できるアルファルド君の神経はどうなっているのか。
「白虎、みたいな」
白くないけど。
白虎(仮)は虎だからか動きが素早かった。地面を蹴り壁を蹴りなどしてアルファルド君に飛びかかる。その白虎の動きがフリーダム&素早すぎて、部屋の中を縦横無尽に動き回る白虎はアルファルド君だけじゃなく、私にも危険すぎた。
「あ、危ないってばっ…!」
小さく呟いてからアルファルド君に向けて叫ぶ。
「アルファルド君っ!もっと向こうで戦闘してくれないかなっ!?」
無責任にも私は必死に戦っているアルファルド君にそう言った。アルファルド君は顔をしかめただけだったが、多分心の中ではこう思っているに違いない。
ふざけんな、と。
私達が堕ちてきた部屋はそんなに狭くはない。だけど、広間のようにだだっ広くもない。そして悲しきかな。
出口がない。
この事から見るに、あの白虎を倒さない限りこの部屋からは出られないのだろう。
堕ちた途端に戦闘が始まったもんだから、私の心臓はバクバクだった。今もバクバクだ。
こんな罠なら、前の罠のが良かった。と思ったほど。
だけど、あの白虎は強すぎないか?とも思う。アルファルド君は防戦一方だ。もしかしたら、これはただの罠ではなくあの白虎はレアボス的な何かなのかもしれない。
倒さなくても進行に問題はないが、倒したらレアアイテム貰えるよ。みたいな。
い、いらない。
ここで死んだらゲームオーバーじゃないですか。せめて、セーブさせてくれないとさ。
アルファルド君が白虎に吹っ飛ばされる。背中から壁にバァンッ!と打ち付けられる。
「アルファルド君っ!!」
がはっ、とアルファルド君が口から血を吐いた。馬鹿なこと考えている場合ではない。
飛びかかる白虎を、アルファルド君は寸ででかわす。だが、動きが鈍い。さっきのが効いたみたいだ。
ふらふらと、それでも立ち上がりなんとか白虎の猛攻を避けてはいるが、さっきまでと違い剣は握ったまま使っていない。剣で受け止める力も残っていないのか。
私の近くにいたミズイロがピャ、と鳴いた。ミズイロもアルファルド君を心配している。アルファルド君が避けきれずに右腕に白虎の牙を喰らってしまう。噛み千切られはしなかったが、かすった牙はアルファルド君の腕を傷つけるのには十分だった。
血が流れ落ちる。
ぞっ、とした。
血の気が引いた。
アルファルド君が殺される。
本気でそう感じた。
アルファルド君は右腕を庇いながらそれでも白虎に対峙する。その瞳に光を称えたまま、白虎を睨み付けている。
瞳に光を無くしていない。
白虎を睨み付け、諦めない。
勇者だと、本当にそう思った。
アルファルド君のあの力強さはどこから来るのだろうか。瞳の力が真っ直ぐに白虎を射る。
だが、アルファルド君のその思い虚しく、アルファルド君は足を縺れさせ倒れてしまった。それを白虎は見逃しはしない。
倒れているアルファルド君に白虎が飛びかかる。アルファルド君は咄嗟に剣で白虎の牙を受け止める。両手で剣を支える。白虎にのし掛かられているため、アルファルド君は身動き出来ない。白虎の牙が徐々にアルファルド君へと近付く。
「アルファルド君っ!!」
駄目っ!と思い、私は無意識に走り出していた。そして、アルファルド君と白虎がそう遠くない距離にまで来たとき。
私は一瞬意識を飛ばした。
バァン!!!と何かが激しく叩きつけられる音がした。びくっとし、その音で意識を取り戻した私は走ってきた勢いのまま。
今回は転ばなかった。
足を止めて音のした方を見ると、白虎が壁にめり込んでいる。
前の牛ボスの時と一緒だ。
白虎がグルグルと苦しそうに鳴いて、体を起こそうとしていた。はっ、と私はアルファルド君の名を呼ぶ。
アルファルド君は痛む体に鞭打って白虎がいる所まで走り、そして剣を突き立てた。
白虎が砂になって消える。
アルファルド君がそれをじっと見届けた後、こっちを見た。私がいる所など分かるはずないのに。
「お前が、やったのか」
私はそれにすぐには返事出来なかった。そして、多分と答えた。
牛ボスの時も、今回も。多分私だ。そう思った。一瞬意識が飛んでしまうからどうなっているのかは分からないが。
アルファルド君は無言で白虎の砂山から出てきた物を拾う。
アルファルド君は、今何を思っているのだろうか。
出口の無かった部屋から、突然に扉らしきものが現れる。ミズイロが私の肩に乗り小さく鳴いた。
私達は扉から部屋を出た。




