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未来のきみへ   作者: 安弘
地獄道編
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豪傑のジャンス参上

 「俺は負けねぇよ!」


 「ジャンス様、何も勝負していませんけど・・・」


 「何?おまえは戦いを挑んできたのではないのか?」


 「部下の私が何故、城主のあなた様に戦いを挑まなければならないのですか。」


 「なんだ・・・違うのか・・・」


 「・・・・・・」


 この訳のわからない事を言っている男こそ大叫喚地獄城の王であるジャンスだ。十六善神の中で最も怪力を誇り、自慢の筋肉をプルプルさせているジャンスは脳みそも筋肉でできているようだ。汗をかきながら配下の者は説明をしたがジャンスにはなかなか理解出来なかった。


 「よく、わからないんだが・・・」


 「あぁぁ~~もう、だからピサロ様からの指令でこの城に敵が攻め込もうとしている可能性があるからそれを阻止しろってこと!」


 「・・・・・! 敵が来るって事か?」


 「さっきからそう言ってんでしょ!」


 「俺は負けねぇよ!」


 「わかった、わかった。じゃあ伝えましたからね!」


 王座に座っていたジャンスだったが実は最近運動をサボり、酒を飲みまくっていたせいか腹の膨らみが気になっていた。鎧も身に着けず剣もここ何年も振っていない。腹の肉をつまみながらいろいろ考えた。


 「よぉ~し、運動でもするか!敵が来る前に身体を鍛えておかないとな。俺は筋肉も負けねぇよ!」


 王座から立ちあがりジャンスがトレーニングを始めた頃、タカヒト達は大叫喚地獄城を見下ろせる針山の頂に来ていた。大叫喚地獄城は城下町に囲まれるように建設されてその周囲は巨大な壁が張り巡らされている。


 「どうやって侵入するつもり?」


 「問題ない。すでに手はずは整えてある。」


 リナはてんとの回答に少し疑問を感じていた。城はもちろん城下町も部外者の監視体制は整えられて夜間であろうと上空であろうと侵入者と判断されれば、確実に仕留められるであろう。


 「暗くなるのを待って行動する。それまで少しの間、休むことにしょう。」


 そう言い残すとてんとはタカヒト達から離れて何かの準備を始めた。懐疑の表情を浮かべているリナの肩を軽く触れるとミカが口を開いた。


 「リナ、てんとには何か考えがあるのよ。今はてんとを信じよう。」


 「・・・・。」


 ミカに促されてリナも休憩を取る事にした。陽は傾いて辺りが暗くなるとてんとはタカヒト達を呼び集めた。完全に闇の支配する世界に変わると城下町に明かりが灯る。


 「さて、城下町への侵入を開始するぞ。」


 「えっ?どうやって?・・・・! なんだ!あれ?」


 タカヒトが驚いて指をさした方向には沢山の花火が打ち上げられた。城下町に住む者達がその爆音と花火の輝きに驚き目を奪われている。タカヒト達もしばらくの間、花火に見惚れていたがこれがてんとの仕掛けた作戦だと後で気づいた。


 「見惚れている場合ではない。行くぞ、緑玉理力 浮遊フワフワ!」


 てんと達の身体が地上からフワリフワリと浮き上がっていく。花火の打ち上げられている方向と逆側にある針山の頂から一気に城下町へ向かって、てんと達は降下していく。打ち上げられている花火に夢中になっている城内の者達に気づかれることもなく無事、進入することができた。


 「うまくいったね。でも急降下はちょっと怖かったね、ミカちゃん。」


 「ねえ、タカちゃん。見て!」


 町のはずれに降りたタカヒト達は物陰に隠れながら打ち上げ花火をずっと見つめていた。打ち上げ花火が輝く瞬間だけ見えるミカの横顔をタカヒトは花火のことなど忘れて見つめている。しかし不思議なことは何故、花火が打ち上げられているということである。その疑門をポンマンがてんとに問い掛けた。


 「誰が花火を打ち上げているんだい?」


 「花火か?・・・・それは企業秘密だ!」


 「企業秘密って・・・」


 そんなこんなで花火の打ち上げが終了して暗闇が支配する世界に再び戻ると城下の町人達も家の中に入っていった。てんとは迷う事もなく、タカヒト達を連れて誰も使用していないらしき長屋のドアを開けた。


 「とりあえず、今夜はここで休むことにしょう。町人にばれないように変装用の服も用意してある。明日からはそれを着て行動する。」


 「ねぇ、てんと。どうして教えてくれないの?花火に長屋、それに服まで用意してあるなんておかしいと思うわ!」


 「リナ、我々の行く先には敵ばかりがいるわけではない。協力者もいるということだ。もっとも今のところだけかもしれないがな。」


 「・・・・」


 静まり返った花火の打ち上げ現場では大叫喚地獄城の城下町をルルドが眺めていた。たばこを一本手にすると火をつけて一服した。


 「てんとちゃん達は無事に侵入できたかしら?さて、花火も打ち上げたし私もお役御免ね。あぁ~あ・・・次は打ち上げ花火をイケメンと一緒に見たいわ。」


 協力者のおおかたの検討がついたリナとミカは納得すると布団に入った。もちろん、タカヒトとポンマンは協力者のことなど考えることもなく、布団に入った瞬間眠ってしまった。そして夜が明けて城下町が明るくなってきた頃、ミカが心配そうな表情でタカヒトに言った。


 「ねぇ、タカちゃん・・・この格好って変じゃない?」


 「別に・・・・変じゃないよ。」


 ミカは城下町での変装用の服を着ることに物凄い抵抗感を感じていた。頭には鬼のような角をつけて裾が膝上の紫色のワンピースに黒色のブーツ姿。そんな格好をしたミカが恥ずかしそうにタカヒトに聞いてきたのだ。タカヒトはミカの姿に見惚れて問い掛けに答えるのに戸惑った。


 「リナのもすごいなぁ~~。」


 ポンマンはリナの姿を見て声をあげた。ミカのワンピースに対してリナは黒いシャツにショートパンツ、それにブーツという服装であった。


 「どうしてこんな格好する必要があるのか説明してくれる?」


 「説明って・・・リナ似合っているしいいんじゃないか?」


 「ポンマンはちょっと黙ってて!」


 「・・・・」


 「落ち着いて外を見てみろ。」


 「外?」


 てんとに言われリナとミカが長屋の窓から外を見た。確かに城下町を歩いている者は皆同じ格好をしていた。この大叫喚地獄城の城下町の城下町の者の間では今、頭に角、ミニスカートにブーツというファッションが流行っているらしい。最初、てんともルルドの話を疑って聞いていたがそれが事実だと知り、受け入れた。流行っているファッションだと信じたミカとリナは不満ではあったが納得せざるえなかった。


 「ところでてんと・・・私達の服装もやはり流行っているファッションなのか?」


 ミカとリナの服装は流行りのファッションなのだがポンマンやタカヒトの服装は表が黒で裏が赤というマント姿でそれ以外に変化はない。


 「その通りだ!ポンマンとタカヒトが身に着けているマントはこの大叫喚地獄城の主であるジャンスを尊敬している者が好んで身に着けているらしい。」


 「僕、別に尊敬とかしてないけど・・・」


 「タカヒト尊敬しろとは言ってはいない。ただ、このマントを身に着けていればこの城下町で違和感がない・・・我慢してくれ。」


 てんとの説得で何とか納得したタカヒト達は長屋の扉を開けると城下町を歩いていった。大叫喚地獄でこの城下町は規模が大きくタカヒト達を見て侵入者と疑う者はひとりもいなかった。流行のファッションをした若者達にしか見えないらしい。


 「腹が減った・・・」


 不安と恐怖が安心に変わったポンマンは近くにあった食堂へ皆を連れて入っていく。食堂の中には屈強の肉体を持ったヘルズやデモンズが数匹いた。しかしこれらのヘルズやデモンズは三獣士に仕えていた者達では無いようでタカヒト達の姿を見ても気にも止めなかった。


 「大叫喚定食を四人前お願い。」


 「へい、しばらくのお待ちを。」


 店主がすぐに作って定食を持ってきた。割と普通な感じの定食で量もそれほど多くはなかった。店主は最近、ヘルズやデモンズ達の肥満化が進んでいて、城の条例によりヘルシー志向が定着しつつあると語った。タカヒト達にとっては丁度いい量だが、ヘルズ・デモンズ達からは不評らしい。タカヒト達は定食を食べ始めると後の席でヘルズ達がタカヒト達のことを話しだした。


 「ホントに侵入者が入ってきたのか?」


 「そうらしいぞ!なんでも屈強な肉体をした大男達らしい。ジャンス様もそいつらとの戦の為に身体を鍛えているらしいぞ。」


 「俺たちもジャンス様のお力添えが出来るように鍛えようぜ!」


 「おおよ!とりあえず5トンのバーベルから始めようぜ!」


 ヘルズ達は定食を食べ終えて身体を鍛える為ジムに向かった。てんとが笑みを浮かべたのはいうまでもなかった。城下町に出回っているタカヒト達の情報が全くのデタラメだったからである。これにより城下町の探索及び城への侵入が容易になった。食堂を出たタカヒト達にリナからひとつ提案があった。


 「あんな情報が流れているならとりあえずは安心だわ。ねぇ、てんと。二手に分かれて城と城下町を捜索しない?」


 「そのほうがより安全かもしれんな。日が沈む頃にここに集合しょう。」


 「決まりね!それじゃあ・・・タカヒトとミカ、私とてんとにポンマンの二手に分かれましょう。」


 リナはミカにだけわかるようにウインクをして見せた。こうしてミカはタカヒトと城下町をデート・・・いや、探索することになった。


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