ふたりの時間
「えへっ・・・なんか楽しいね。」
「何か言った?」
「ううん・・・何でもない。」
ミカは嬉しそうにタカヒトの手を掴るといろいろな店を見てまわった。最初はちょっと困惑したタカヒトだったがその嬉しそうな笑顔に次第に惹かれていった。それでも恥ずかしさだけは残り、会話も不器用な言い方しかできないタカヒトだった。
「そっ、そういえば幼稚園に通ってた頃は・・・こうやってミカちゃんの手を握って一緒に家に帰っていたよね・・・。」
「うん?何か言った、タカちゃん?」
「ううん・・・・何でもない。」
久しぶりに握ったミカの手は小さくて細かった。幼稚園の頃は大きかった身長も今ではタカヒト方が大きい。気付かない内にミカはか細く、タカヒトにとって守るべき存在になっていた。そんなことをタカヒトは考えているとミカは急にショーウインドウの前で立ち止まる。
「綺麗ねぇ~。」
ショーウインドウには綺麗なドレスを着たマネキン人形が並べられてミカはそのドレスを見てウットリしていた。ドレスを着たマネキンの隣にはバッチリ決まったスーツを身にまとったマネキンもいた。中には何組かのアベックが衣装を着ている。どうやらウェディングをサポートするショップのようだ。ウェディングに異常に反応したタカヒトは急に顔が真っ赤になった。
「デュポン、あれ見てよ!アベックがイチャついてムカつくわね!」
「そんな事言って姉さん、羨ましいんでやすか?」
「ガツン」と頭を叩かれたデュポンはペコペコと頭を下げながらリディーネの後をついていく。タカヒト達を追ってリディーネとデュポンがこの城下町に辿りついたのはタカヒト達が潜入した次の日だ。タカヒトとミカはそんなことに気がつくこともなくショーウインドウをずっと見つめていた。一方、てんと達はタカヒト達とは別の方向へ進んでいた。
「あれ見てよ!なんかマジックみたいなのやってるよ。あそこに行こう。」
ポンマンは町人達が騒がしく集まっているところに走っていく。目を輝かせてマジックを見ているポンマンに少しウンザリ顔のてんとであった。
「やれやれ・・・
目に映るものすべてあの調子だと捜索など出来そうにないな。」
「たまにはいいんじゃないの。てんともいつも気を張り詰めていないでポンマンみたいに気楽に見てまわったら?」
「・・・そんなに私は気を張り詰めているように見えるか?」
「そうね・・・・見えるわ。」
「そうか・・・」
てんとはいままで心の底から笑ったことがない。与えられた指令を達成してはまた次に与えられた指令を達成していく。物事を達成していくのに執着していてそのプロセスを愉しむことなどなかった。それは心に余裕がなかったからかもしれない。
もしかしたらジェイドはそれがわかっていたから友達のいないてんとを誘っていろいろな場所に連れて行ってくれたのかもしれない。てんとはそんなことを考えていた。
「捜索に集中するようにポンマンを呼んでこようかしら?」
「いや・・・しばらくポンマンに付き合うことにしょう。」
「そう・・・わかったわ。」
リナとてんとはポンマンと一緒にマジックを見ることを決めた。以前、てんとはポンマンと共にヘルズ達にマジックを披露したことがあった。ポンマンことポリックのマジックは三流ではあったがヘルズ達はとても喜んでくれた。そんな事を思い出しながらしばらくマジックを眺める。
タカヒトとミカはショーウインドウが立ち並ぶ街道をゆっくり歩いていた。小学校に入ってからミカは女子児童と行動するようになりタカヒトは嫌々ながらではあるが大樹達と行動するようになった。ミカとの心の距離が次第に離れていくのを寂しく思っていたタカヒトにとってこの瞬間はとても幸せに思えた。ミカも最初は恥ずかしがっていた服も街道を歩くアベック達が同じような格好をしていたのでそれほど恥ずかしくはなくなっていたようだった。
「本当に流行っていたんだね、この服。アレ?あの集団・・・何だろう?」
ミカが視線を向けた先にはヘルズ達が四列になって行進をしてきた。集団中央部には駕籠を担ぐ四匹のヘルズがいる。タカヒト達の前にヘルズの行列が近づいてくると近くにいたアベックがタカヒト達を街道の端に連れて膝をつくように座らせた。ヘルズの行列はタカヒト達の前を通り過ぎていくと頭を下げていたアベックが言った。
「あなた達、ダメじゃない!姫様の行列が通るのに頭を下げないなんて!」
「・・・・姫様?」
アベックはタカヒト達が姫について何も知らないことに驚いたが最近こちらに来たことを伝えると詳しく教えてくれた。姫様とは大叫喚地獄城の主であるジャンスの一人娘で名をサクヤと言う。サクヤ姫は城で生活をしているのだがたまにヘルズを率いて大叫喚地獄草原に遊芸に向かうらしい。
「ポンマン、どんなお姫様だと思う?」
「タカヒト、お姫様って言うくらいだからおしとやかで・・・
やっぱり可愛らしい感じじゃないのか。」
「もしかしたらわがまま姫かもしれないわよ。」
「えぇ~、そんなぁ~・・・・。」
リナの冗談まじりの一言に姫様への妄想をブチ壊されたポンマンはすっかり落ち込んでしまう。長屋に戻っていたタカヒト達は城下町の探索情報を話し合っていた。
タカヒト達の仕入れた情報ではジャンスは親バカで一人娘に物凄く甘いらしく姫様が遊芸に向かう時には城の兵士の半分を行列に加えるらしい。そしててんと達が仕入れた情報ではジャンスは対侵入者のトレーニングのしすぎで筋肉痛が酷くベッドで寝たきりとのことらしい。
「兵士の数とジャンスの体調を考えると城への侵入にはいいタイミングだな。」
「そうね、警備が手薄な今がチャンスかもしれないわね。」
この考えに反対する者はいなかった。明朝、城への侵入を試みる事とした。侵入箇所はすでに決めてあり準備も出来ているとてんとは自信を持って言った。皆が寝静まった頃、タカヒトは少し不安でなかなか寝付けなかった。ヘルズはともかく十六善神とは初対面でありいくら筋肉痛が酷くてもその能力がどれだけあるのかは全く未知数だったからだ。隣にはミカが安心しきった表情で眠っていた。考えてもなにも変わりもなさそうだと感じるとタカヒトはうつ伏せになり枕で頭を覆って瞳を閉じた・・・。朝日が昇り始めた頃、タカヒト達の作戦は決行された。
「案外、簡単に入れたわね。」
「リナ、油断するなよ!」
タカヒト達はすでに大叫喚地獄城内にいた。昨日てんと達が城周辺を探索した結果、南門からの侵入が可能なことがわかった。城は敵の侵入を防ぐため周囲に堀が掘られているがカラクリ橋が一箇所だけ設置されてヘルズが操作しているのをてんとが確認していた。それを操作すれば橋が水中から現れて渡れるようになっている。操作するべく南門へ向かうといつもは水中に沈んでいるカラクリ橋が現れて通れるようになっていた。
猜疑心を感じながらも結果的にタカヒト達は城内へ侵入できたのである。城の内部はヘルズ一匹もおらずすんなり二階まで来る事が出来た。割と広い石畳の廊下がずっと続いている。タカヒトが先頭に立ち歩こうとするとポンマンがタカヒトの肩を掴んで制止させた。
「この廊下はたぶん・・・カラクリが仕掛けられているぞ!」
「カラクリ?」
「そうだ!この長すぎる廊下はカラクリが仕掛けられているはずだ。床を踏むとスイッチが入り壁から矢が出るか、床が抜けて針穴に落ちるかだ。こういう時、経験がものをいうんだぞ。皆、待っていてくれ。私が確認してくる。ことは慎重にだ!」
ポンマンはタカヒトを押し退けるとひとりだけで廊下を慎重に歩いていく。タカヒト達はその姿を、固唾を飲んで見守っている。一歩一歩ゆっくりと、しかも慎重にポンマンは廊下を進んでいくが床のスイッチにはまだ触れてはいない。
「まだだ!いつスイッチに触れるか、わからない。そこで待っていろ!」
タカヒト達を制止させているポンマンは更に廊下を進んでいく。ポンマンの姿がタカヒト達から次第に小さく見えるとポンマンは廊下の端で立ち止まった。
「ただの長い廊下だったんだね。僕、すっかり騙されちゃったよ。」
「タカちゃん、ポンマンが気にしてるから駄目だよ。そんな事言っちゃあ。」
「・・・・・いいんだ、ミカ。」
顔を赤くしながらポンマンは先頭を警戒して歩いていく。長い廊下の先に階段があり、それを駆け上っていく。するといくつも部屋がある場所に辿り着いた。
「すごいね、なんか高級なホテルみたい。」
「ミカ、ホテルって何?」
「ホテルって言うのはねえ・・・」
ミカの説明にポンマンもリナも耳を傾けて聞いた。その説明通りの内装をしておりすべての部屋は重量感のある高価なドアが取り付けられていた。タカヒト達は慎重にひとつひとつの部屋を開けて確認したが誰もいない。
「誰もいないのかなぁ~?」
「気を抜くな、タカヒト!・・・敵は近くにいるかもしれない。」
「だってさっきからポンマンそんなこと言ってるけど誰もいないじゃん!」
「・・・・・」
「誰だ!騒がしいぞ!!」
一番奥の部屋から怒鳴り声が聞こえた。ビックリしたタカヒトとポンマンは顔を見合わせて目をクリクリさせていた。
「誰かいるのか?大至急、俺の部屋にすぐに来い!」
「なんか怒ってるみたいだよ・・・いやだなぁ~。」
タカヒトとポンマンは廊下を恐る恐る進んでいくと一番奥の部屋のドアをゆっくり開けた。そこには全長三メートルくらいはあろう大男がうつ伏せになって寝ていた。
「おおぉ~、来たか!んっ?お前等、誰だ?盗人か?俺は負けねぇ~!」
「別に盗人って訳じゃないんだけど・・・おじさんどうしたの?怪我してるの?」
「お穣ちゃん、良く聞いてくれた!実はな・・・」
涙を浮かべながらジャンスはうつ伏せのまま話を始めた。てんとも気にしていたが、この大叫喚地獄城に誰もいないのには理由があった。
「クーデター?」
「我が兵士どもはひとり娘のサクヤ姫を人質に城の明け渡しを要求してきおった。」
「それで兵士が誰もいなかったのか。だがクーデターなら自分の力で制圧できるのではないのか?」
「そのつもりだった・・・だが侵入者を退治しようとトレーニングをしていたらギックリ腰で腰を痛めてしまってこのザマだ!そこでお前達に頼みたいことがある。」
「頼みたい事?」




