初ではない初舞台
舞台袖に立っている俺と相方。
相方はすごくリラックスしている。相方は20年のベテランらしい。
俺は、今日が初舞台だ。
俺は緊張して、ペットボトルの水を一口飲む。
途端に相方が笑いだした。
「お前、いつも水飲むのな。」
「あ、そうなんですか。すいません、初めてなもので……」
「その挨拶も何回目だよって話。」
「……はあ」
俺たちが、やりとりしている間に、前の組が終わり、俺たちの出囃子がなる。
「ど〜も〜」
俺たちは愛想よく舞台に飛び出していく。
前の組までは、わりと静かだった観客が、ドッと盛り上がる。
「はじめまして〜」
俺が言った途端に大爆笑がおきる。
「昨日もお会いしたかもしれないんですけどね。私は、今日も初舞台なんですぅ〜」
「どういうことだよ!」
相方が慣れた手つきでツッコミを入れる。
「あのですね。みなさんは、これからのくだりも全部ご存知だと思いますけどね、私は一度寝ると全ての記憶がなくなる障害をかかえています。」
「急に重たい話だな。」
「芸人としては致命傷だなと思われる方も多いんですけどね、どんな状況でも笑いに変えるのが芸人ですのでね。笑いにしてやろうと思います。」
「不謹慎だろ、同じ障害を抱えてる人がいたらどうすんだよ?」
「ええ!?僕と同じ障害の人いるの!?」
「いや、聞いたことないけども」
「良かった〜二番煎じはウケないからね。」
「気にするのそこかい!」
「逆にそれ以外の何が気になるねん?」
「いや、障害を笑いにして、誰か傷つけたんじゃないかとか?」
「そんなん気にしてたら芸人できんぞ?」
「いや、少しくらいは気にしてくださいよ。」
「なんでやねん。逆に聞くよ?障害者自身が笑いにしていきます、言ってんのに、笑わんのは逆に差別やで?」
「差別なん?」
「知らんけど。」
「知らんのかい!」
観客は大笑いする。
はじめての掴みは大成功だ。
まあ、ここまでのくだりを観客席は知っているらしい。
俺はマジで知らない。
俺だけが、俺の面白さを分からない。
俺は緊張で胃の中身を胃ごと吐き出しそうだった。
こんな緊張の舞台に慣れるのだろうか?
まあ、この緊張も明日には忘れてるのだけどもな。
「もうええわ!」
相方のツッコミで、俺たちは舞台袖に帰って行く。
「あ、あの、ありがとうございました。」
「今日もウケたな?」
「……今日も、なんですね?」
「せやで。」
「俺には分からないですから。」
「そうだよな。『もうええわ』で終わりなのも毎日教えないと忘れてるもんな?」
「すいません、ご迷惑をおかけして。」
「迷惑なもんかい、相方やで?」
「相方?」
「漫才の相方はな、夫婦以上、恋人未満や。」
「そうなんですね。」
「今のはツッコミどころやで?」
「すいません。」
相方さんは大笑いする。
「ここまでの流れ、昨日とマジで一緒やで?」
「へ?」
「まあええわ、この後はもんじゃ焼き食べに行こう。」
「もんじゃ?はじめて聞きます。」
「昨日も行ったで?なんなら一昨日もや。」
「そうなんですね。」
「そんで、毎回『うまい』言うて感動すんねん。安上がりでラッキーやな。」
「そんなもんですかね?」
「そんなもんやで。ちなみに、もんじゃ焼き屋はお前の実家やからな?」
「実家?って何ですか?」
「せやったぁ……この失敗は何回かしたんや、すまん、俺のミスや。実家いうのは、お前のお父さんとお母さんが住んでるところや。」
「ええ!じゃあ、僕はもんじゃ焼き屋さんで生まれたんですか?」
「そらそうや、実家やもん。」
「実家?」
相方は大笑いする。
「何度やってもおもろいな。障害なんて、障害やあらへん。明日になって忘れんなら、忘れるなりに生きりゃええねん。」
「はあ……」
「ええよな。何を言っても、記憶にございませんって言えんねんで?」
「それの何が面白いんですか?」
「よく、政治家が言うねん、『記憶にございません』ってな。そんな訳あるかいって、みんな思うんやけど、お前が言うと、ひと味もふた味も違うねん。」
「はあ……」
「お前、昨日はもんじゃの食べすぎでゲロ吐いたで。」
「ええ!すいません。記憶はございません。」
相方は大笑いする。
「それや、それ。もうナチュラルに記憶にございません。これから、どんどん破天荒にいこうぜ?そしてな、次の舞台でネタにしてこう。」
「はあ……」
俺は、本当にやっていけるのか、すごく不安になった。
ま、この不安も明日には忘れているのだけども




