74 ふたつの『収納』
《レベルアップ!『収納』レベルが5になりました。亜空間No.2を開放します。生命体が収納可能となりました》
今回のレベルアップで、『収納』の空間がふたつに増えた。
そして、新たに追加された『亜空間No.2』。なんと、生命体が収納できる。これまでの『収納』にはなかった機能だ。
レベルアップしたら、検証する。それがいつも通りの手順だから、私はほとんど条件反射で検証作業に取り掛かった。
まず、ちょうどその辺にいた生きた一角ウサギを『収納』してみる。そして、成功。角ウサギは生きたまま亜空間に『収納』され、生きたまま取り出すことができた。
「おお……生命体『収納』ってこういうことか」
感心していると、一角ウサギが「なにすんだ!」ってかんじで怒り出したんで、『植物創造』で作り出した最高級にんじんをきびだんごよろしくプレゼント。ひとくち食べて、もう下僕。
「魔物の気配がしたら教えてくれると助かるんだけど……」
「ピッ」
「おっ! いいの? じゃ、よろしく頼みます!」
敬礼する一角ウサギ。赤い目をした普通の一角ウサギと違って、アメジスト色の目をしてるから、アメちゃんと呼ぶことにする。
アメちゃんはひくりく鼻を動かしながら、私の周囲を警戒しはじめた。
「ありがとね。おかげで、検証に集中できるよ」
「ピッ!」
次に、なんとなく、本当になんとなくできるような気がしたから……
自分が『亜空間No.2』に入ってみることにする。で、まさかの成功してしまった。
そこは、10畳ほどの真っ白な空間たった。呼吸もできるし、声も出せる。
ふむ、と体操座りして10分ほどそのまま過ごしてみても、体に影響はない。
ただ、No.2においては時間停止機能がついてないみたいで、外に出るとちゃんと10分経過していた。出た場所は、亜空間に入った時に立っていた場所と同じだった。
どこ行ってたの?と騒ぐアメちゃんを前に、私はしばらく呆気にとられてた。
とんでもない機能をもらっちゃった、って半ば放心状態だったんだ。
例えばだよ、森の中で魔物に追いかけられたとする。そのとき、この『亜空間No.2』があればすぐさま避難可能。簡単に魔物をまくことができる。あとは、亜空間の中でしばらく過ごして、魔物がその場を去った頃に外に出ればいい。
魔物にしてみれば、獲物が突然消えたように見えるはず。
大昔、『瞬間移動』という『称号』を持った者がいたと、アロンが持ってきてくれた本で読んだ。ここでまた例えばなんだけど、追手がもし、この知識を持っていたら、私が目の前で消えた現象を『瞬間移動』したと思うかもしれない。
実際は場所を移動することはできないけど、そんなふうに勘違いしてくれたら助かる。追手は「チッ」と舌打ちでもして、その場を立ち去るだろう。
報告を受けたお父様はどんなお顔をなさるかしら。「娘は『称号』など、持っていない! そいつは別人だ!」とお怒りになる? その追手はきっとクビね。
考えれば考えるほど『亜空間No.2』最強だ。
私はアメちゃんを抱え、もう一度『亜空間No.2』に入った。魔物も私と一緒なら、問題なく招くことができるようだ。
ふと、何もない空間が寂しく思えて、『収納』から絨毯とクッションを出してみる。
よかった、『亜空間No.2』の中にいても、『亜空間No.1(時間停止機能つき)』に入ってる物を取り出せるみたいだ。食べ物や飲み物に困ることはない。眠る場所にも。
ひとりになりたかった私に、スキルは最高の隠れ家を用意してくれた。安全で、快適。
さんざん泣いて、心も体も疲れ切っていた私は、いつの間にか眠っていた。一角ウサギはついさっきまで野生だったせいで獣臭がきついけど、温かくて、手放せなかった。体温がハティに似てる気がして、安心できたから。





