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72 新しい武器、その名も品種改良バリバリの「ムチ」!


「さて、ウィルくん。敵と剣を交える上で大事なことはなんだと思います?」


 セオが問う。


「んーと、たたかうりゆう?」


「うん、理由は大切だな。無闇やたらに剣を振るうやつは、自分の力を知らしめたいだけの悪党って評価を受けちまう。オレたち騎士が振るう剣は、名誉の剣だ。正義の剣だ。しかし、」


「しかーし! それにこだわるばかりでは死んでしまう。いいか、敵と剣を交える上で一番大事なのは、死なないことだ。名誉や正義なんてクソ喰らえ! どんな卑怯な手を使ってでも生き延びろ!」


「……ビビ様」


 興奮するビビを、セオがじっとりと睨む。


「……と、セオが言っておりました」


「間違ってはないっすね。さすがオレの教え子」


「ふっ、当然だ」


「ま、そういうことで。まずは基本を教えます。ビビ様、お願いします」


「承知!」

 

 白銀の刃と、ポニーテールが風を切る。

 『基本の剣術型』を披露するビビの表情は勇ましく、一挙手一投足が気品に満ちていた。あれが、皇女が振るう騎士の剣。あるいは、スキル『剣術レベル6』の補正もかかっているのかもしれない。


「ほわぁ、ステキだなぁ」


 ふらふら近寄って行って、ガタン、という音ともに足が止まる。これみよがしに立てられた"侵入禁止"の柵。舌打ちしたい気持ちになる。


 もう、なんで私だけ仲間はずれなの!


 わかってる。それは私が弱っちい小娘だからだって。

 信じられる? 私のこの細腕ってば、剣を持ち上げることすらできなかった。

 たっぷり水を入れた桶を持って行ったりきたり。毎朝の水やりで、腕の筋肉もだいぶついたはずなのに。


 今日からウィルの剣術指導が始まったけれど、そういうわけで、私は見学に甘んじてる。私のとなり、原っぱに広げた絨毯に寝そべるイヴは、私が"向こう側"に行かないように見張る監視役。イヴに柵を作らせ、監視役に任命する、それはぜんぶハティの指示だった。


 昨日。


 ハティは耳がいいから、ログハウスの中にいても、アロンの告白を、その息遣いまでばっちり聞いたはずで、彼の告白に動揺する私の姿も見てしまった。


 あれからずっと、ハティの態度がおかしい。私と一言も話さず、目も合わせようとしない。

 柵の向こうにある大きな背中は、いまも沈黙を貫いてる。


 怒ってる……?


 何に対してか。怒る理由はいっぱいある気がするのに、わかんないって、ずるい私は逃げの姿勢で思考を放棄する。いつものように。


「あつぅーい。やだわぁ、日焼けしちゃう」


 イヴのぼやきで、ピンときた。

 ああ、こんなに心がしんどいのは、天気が良すぎるせいかも。連日の悪天候が嘘みたいに晴れ渡る空。日差しの照り付け方が強くて、茹でられてる気分。こうなると、嫌でも実感してしまう。梅雨は去り、憂うつなあの季節がやってくる。


 夏は嫌い。暑いからって、ウィルがくっつくのを嫌がるんだもん。今のところ、まだ拒絶されてないけど、考えるだけでうつになりそう。


 イヴが何やら呪文を唱えると、真っ白な日傘がふたつ現れた。それはイヴが眷属のカイコに作らせたシルク製で、ビジュアルはもちろん、うぅ、サイアクだけど……姫系のフリフリ。ひとつを私に手渡してくる。


「私はいい」


「だめよぉ、受け取って。日焼けは美容の大敵よ。女は常に美しく、ベストな自分である努力をすべきだわ」

 

「美しくあるより、私は強くありたいや。そりゃ、美しさと強さを同時に兼ね備えられたらもっといいけどさ。ビビみたいに」


 きゃー! ビビステキ! こっち向いてー!


 黄色い声援を送ると、ビビがよろめいた。照れたように手を振ってくれる。剣を握るビビは、自信に満ちていて、格好いい。護られるだけじゃなく、護る女。意気込みだけじゃなくて、ちゃんとその力があるんだと知ったら、無性に羨ましくなった。対する私は、守られるばっかりで剣を持ち上げることすらできないのだから。


 あーあー、いいな。私もあんなふうに、格好いい女の子になりたかった。


「ハァ、仕方ないわね。来なさい。か弱い女には、か弱い女なりの戦い方があるのよ。それを教えてあげる」


「ほえ?」


 イヴに手を引かれ、私はログハウスの裏に連れて行かれた。いつもだったら、怪しいって疑ってすぐにはついていかないけど、このときばかりは思考が停止していた。きっと、この暑さのせい。


 イヴの手の中に突然出現した、緑のツタ。強度を確かめるように数度引っ張り、地面に打ち付ける。


 バシィィン


 すごい音が鳴った。暑さでとけた脳みそも、一瞬でしゃんとする。

 

「ムチよ。『植物創造』を使えば、ララちゃんにも出せるわ」


 『植物創造』で作った植物は、武器にもなり得る。その無限の可能性には、とっくに気づいてる。実際、しびれ毒を持つ『ツタアケム』を作って、効果を確かめてみた。


「そう、『植物創造』の汎用性は高いわ。だけど、作り出した植物を、自分の狙いどおりに動かすのは難しい。なぜって、動物のような思考力を持たない植物は、うまく命令を遂行できないからよ。土に縛られてるせいで、活動できる範囲にも制約がある。そこで考えだしたのが、ムチよ」


 イヴがムチを振るう。バシィィン。

 さっきより大きな音がして、地面が裂けた。


「ひぃぃぃぃ!」


「『ツタアケム』を限りなく強化して、ムチにするの。植物だから軽いし、自在に形を変えられるけれど、強度はミスリルの剣以上。ムチはね、正しく振るえば、少しの力で、最高の威力を引き出せるの。か弱い女の味方よ。なにより重要なのは、ムチが描くこの曲線。しなやかで、女性的。とても美しいわ」


 いや、美しいっていうより、破壊的な印象のほうが強いよ。とは思うけど、黙ってる。そんなことを言えば、美的センスがなってないとかけなされるに決まってるもん。


 けど、そっか。


「ツタアケムをいっぱい『強化』して、強いムチを作れば、"自分の思い通りに"動かして、戦うことができるってわけだね!」


「そういうこと」


 そこから、『ツタアケム』の品種改良会議が始まった。打ちのめしたい相手の顔を思い浮かべて、えげつない『機能』をたくさんつけていく。


「こんなのはどう? その名も、"針千本"。ムチを振るうと、細かい針がたくさん飛んでくの」


「いいわね! 針には『フツカソウ』の神経毒を塗りたくりましょう。二日間、昏睡状態に陥るわ。……あ! 『マグマソウ』から出る高熱のマグマを利用するのはどうかしら?」


「それ、火傷しちゃわない? 傷が残ったらさすがに可哀想……」


「そんなの、あとから治癒してあげればいいのよ。適度に適当に」


「それもそうだね!」


「「うふふ、うふふ……」」


 こうして出来上がったムチは、時間停止機能付きの『収納』へ。

 植物だから、使ってるうちに枯れてしまう。予備も数本作っておくべきだし、今後もさらに改良を重ねていくつもりだ。ムチの振り方も、イヴにしっかり習わないと。


 ズドーンと木がなぎ倒された。これで、4本目。おそるおそるイヴを振り返ると、深いため息をつかれた。


「子どもたちの駆逐に手を貸してるようで、植物の神としては頭が痛いわ」


「えへへ……がんばる」


 ズドーン!!


「ハァ……道のりは遠いわね」

 

 このムチをうまく使えるようになったとき、最初に打たれる相手は誰になるかな。追手か、変態ボルドー侯爵か、クズな両親か、もっとクズな兄たちか、小賢しい教会か、いずれにしろ、ちょっと同情しちゃう。

 ムチを振るう日が来なければいいって願うけど、そうもいかないんだろうな。なんたって、現実は厳しいから。

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