67 逃亡者同盟、結成
私とウィルは、リーベル王国から逃げてきたコーネット伯爵家の子どもなの。
その告白をきっかけに、神様たちとの出会い、それから、ウィルと私が持つ『称号』についてぜんぶ暴露した。
カオスを鎮めるため、これは仕方のないことなのだ。
どうせあとで話すつもりだったのだからと開き直って、秘密のシャワーを浴びせかける。
私って明らかにおかしいし。ほら、神様が側にいたり、謎の設備が整ったこのログハウスとか。変に勘ぐられて、憶測のまま噂を流されでもしたらたまらない。てことで、本当のことを明かしたうえで、口止めするっていう流れは最初から決めていた。『いい人』であるはずのビビとセオなら、命の恩人を裏切らないって信じてる。
「ララたちのことは、決して、誰にも言いません。このログハウスのことも、絶対に秘密にします。だから、どうか命だけは……!」
なんだろう。自己紹介して、秘密にしてねって可愛くお願いしただけなのに、脅してるような雰囲気に……
「ふむ。このまま食い殺すこともできるが。さて、どうするか」
「ひぃ!」
「もう、ハティ」
私はハティの腕をぺしと叩いた。
「そんなつもりないくせに。怖がらせないで」
ぺしってされたのがよほどショックだったみたい。ハティは瞳をうるませて、上目遣いに私を見た。
「お前たちのせいでララに怒られた。覚えておけ。俺たちは常に見張っているぞ」
捨て台詞が弱々しい。
「ビビ、安心して。口封じに殺したりなんて、もちろんしないから。そうするつもりなら、最初から助けたりしない。ビビたちとは仲良くしたいの。だから、本当のことを話したの」
小刻みに頷くビビとセオ。
うん。私の気持ち、わかってくれた……のかな?
「だいじょうぶだよ、ビビ、セオ」
ウィルはビビとセオの手を握って笑いかける。二人の表情が和らいだ。さすが、癒やしの天使様。人の心をほぐすのはお手のものだ。
「ぼくたちは、もうなかまだよ。にげまわらなくたっていいの。ずーっとここにいてもいいんだよ」
こういうとき、ウィルがハッとするくらい大人っぽく見えるから不思議だ。
緑のキラキラお目々。のぞき込むと、悪いものがすーっと吸い出されていくようだ。
「うっ……」
う?
「うぇ、うぇぇぇぇぇん」
どわぁ、ビビが泣き出した。
どうしちゃったの?
不屈の男って雰囲気のセオまで涙ぐんでるし。
「本当はわだじ、怖かったの。魔物も怖いけど、一番は人間が怖い。捕まったら、殺されちゃう。いつ見つかるのかって、ビクビクして。わだじはいいの。けど、セオが殺されるのだけはいや」
ずび、ずび、鼻をすすりながら、ビビが訴える。小さなウィルは、背伸びをして、ビビの頭を無でた。
「よしよし。これからはぼくがたすけてあげるからね」
「うん、うん」
泣きじゃくるビビは、明らかに幼児退行してる。
困惑していると、ウィルはいったんビビたちのもとを離れて私のところにきた。私と、となりにいるアロンの手を引く。そして、ビビとセオの手に重ねさせた。
「みんな、なかま。ねっ」
意外だったのが、アロンも自らの正体を正直に明かしたこと。別に、"さすらいの薬師"のままでも問題なかったと思うのに。
アロンまで、ウィルの魔法にかかっていたのかもしれない。
アロンがミナヅキ王国のノヴァ侯爵家から逃げ出した嫡男だと知っても、ビビは意外そうな顔をしなかった。
「あんなイカレた王侯貴族の世界、まともな感覚を持った者はみな逃げ出すよ。私を含めてな」
そう言うビビは、からっとした気持ちのいい性格をしてる。
早くも私は、ビビのことが好きになっていた。
「私たちは、逃亡者仲間ということか」
ビビに笑顔を返すウィルは、いったいどこまで"見えて"いるのか。
まだ6歳のウィルがその身に宿す力は、底がしれない。その深淵をのぞくのが楽しみであるような、ちょっと怖いような不思議な気持ちだ。
まぁ、ウィルがどんなにすごくても、私の大事な天使であることは一生かわらないけど。
「逃亡者同盟、結成だね」
私はそう言って、『仲間たち』に笑いかけた。
「私たちはこの先、お互いに助け合って、護り合って生きていくの。困ったことがあれば、必ず頼ること。遠慮はなし。いい?」
「ああ」
「うん」
少しの緊張の中にある、わくわくした気持ち。みんなの笑顔に、たしかな希望の光が灯った。
「ビビアン・トランスバールの名にかけて、ここにいる仲間たちを、何があっても裏切らないと誓う」
「オレは一介の騎士に過ぎないですけど、ビビアン様と共に誓います」
「では、私も。アーソロン・ノヴァの名にかけて」
アロンの宣言で、私たちの間にあった最後の一線のようなものが消え去った。
あとから思えば、アロンはこの日、利益でなく心で動くことを決めたのだ。
ビビと、セオと、アロン。
彼らは名実ともに強力な『仲間』だった。
紆余曲折を経て、トランスバール帝国初代女王になるビビアン・トランスバール。
のちに、『盾の勇者』としてウィルの次に有名な男となる、セオ。彼は圧倒的な個の武勇と統率力でトランスバール帝国軍のトップに上り詰め、ビビの夫の座を手に入れる。
そして、実家に戻り、ノヴァ侯爵となるアロン。彼はミナヅキ王国の幼い王にかわり、政情を影から操る『影の王』となる。
そんな彼らは、私とウィルのことが大好きだった。この先、すべての権力をかたむけ、私とウィルを狙うすべての権力を全力でたたきのめすことになる。それはもう、敵に同情してしまうほどに。
けれど、この時点の私は、そんな未来が訪れることをつゆほども知らない。
「わーい、仲間増えた。これからもっと賑やかになりそうだなぁ。楽しみ」
なんて、のんきに思っているだけ。
そして、忘れちゃならない、二人の神様。親のように温かい目で私たちの同盟結成を見守る彼らもまた、"人間たち"に対して色々とやらかすことになるのだけど、もちろん、そのこともまだ、私は知らない。





