表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/157

37 『もしも』の時のエクストラポーション

 

「イヴ、薬を探しに行ってくれてありがとね」


 アロンに"リンゴ絞り"を頼んでから、ソファでくつろぐイヴにお礼を言いに行く。


「いいのよ~。手柄はあの男に横取りされちゃったけどぉ。ま、今回不要になったこの薬はとっておきなさいな。『収納』しておけば効果が薄れることもないでしょ」

 

「くれるの? これ、すごく高価な薬なんじゃない? アロンは"神話級"の薬だって」


 言いながら、手の中の赤い小瓶の存在感が増したように感じた。"神話級"など、いかにもヤバそうだ。たしか、死からも蘇らせるとかなんとか……


「せっかく作ったのだもの。もらってくれなきゃ困るわ」


「イヴが作ったの?」


 でも、イヴは水属性の魔法が使えないから『ハイポーション』だって作れなかったはず。


「正確には、『水の神』との合作ね」


 水の神……! 新しい神様が出てきた!

 獣の神に、植物の神に、水の神! おお……!

 ぜんぶで何人いるのかな。


「魔法で作り出す清らかな水をもらったんだね」


「そういうこと」


「この薬は、『死からも蘇らせる』って本当……?」


「本当よぉ。"死んですぐの生き物"って条件はつくけど、どんな生き物でも蘇らせることができるわ」


 小瓶を握る手が震えてくる。


「そんな凄いもの、私の手には負えないよ……持ってるの、怖い」


「いいから、持っていなさい。ウィルくんや、将来できる大切な誰かに『もしも』があった時のために、ね」


 『もしも』か。そんなことがないように願うけど……

 たしかに、持っていれば心強いか。


「わかった……もらうね。ありがとう」


 ぎゅっとハグをすると、イヴも応えてくれる。


「お礼はマンゴーとオリーブオイルでいいわよぉ」


 やっぱりイヴはブレないね。くす、と笑ってしまう。


「今回は最高級『シャインマスカット』も付けさせていただきます」


「キャーッ、また新しい果物? 幸せの予感……!」


 『エクストラポーション』は速やかに『収納』した。




「あの、絞り終わったけど、これはどうすれば……?」


 二人がけのテーブルの上で作業をしていたアロンがリンゴ汁の入ったボールを持ってくる。

 

 あちゃ、手がベダベタだ。


 『キッチン(小)』に案内すると、蛇口をひねるタイプの水道にひどく驚かれた。

 やはり、水道はこの世界にはない技術のようだ。


 これでトイレに案内したら、また腰抜かすだろうな。ふふ、ちょっと楽しみ。


「甘い香りがするな」


 背中にウィルを乗せたハティがボールを覗き込み、ぺろりと舌を出す。

 甘い物好きだもんね、ハティ。


「めっ、だよ? ハティ。ちゃんとうつわについでもらわなきゃ。おぎょうぎがわるいんだよ?」


 お兄さんぶって言うウィルが破壊的な可愛さで、ガツンと頭をやられた。 


 『めっ』てなんですか。『めっ』て。

 私にも言ってぇぇぇぇっ!


「君ってばホント、美人なのに残念だよね……」


 しみじみって感じでアロンが言う。


「そうなんだ。イヴは美人だけど残念系駄女神なんだよ……」


 イヴってば、さっきまで喋ってたのに、もうソファで大の字になってぐーすか寝てる。お客様の前だっていうのに。

 スカート、太ももまでめくれてるよ。際どい。


「違う。君のことだよ、ララ」


 ハッと私は自分の姿を確認した。


 変装用のローブは暑くて脱いでいた。顔半分を隠すレースつきのミニハットも、いつの間にか、無意識に、取っていて……


 つまり、今の私は黒髪も黒目も晒してるわけで……


 びっくりして、アロンを凝視する。


「私が? 美人?」


「うん、見かけは女神様にもまったく見劣りしないくらい美しいよ。見かけは」


 『見かけは』を2回言ってくるあたりは気になるとこだけど、それよりも、


「アロンって目悪いの? 私の黒髪黒目、見えてる?」


「? 見えてるけど」


 私の色を嫌悪してる様子もないし、それがどうした?と言わんばかりだ。


「なんで怖がらないの?」


「ああ、そうか。君の国では、黒は"死を運ぶ鳥"と同じ色ってことで恐れられてるんだったね」


「"君の国では"って、どういうこと? もしかして、他の国では違うの?」


 困惑と、少しの期待とで、胸がドキドキする。


「私の故郷『ミナヅキ王国』では、昔から黒髪黒目の者は一定数産まれてくるんだ。だから、君の色は別に珍しくもないよ」


「うそ、え、そうなの……?」

  

 てっきり、黒髪黒目の私の容姿は、この世界にいる全ての人が嫌うものだと思っていた。


 でも、違う。


 この世界には、私を受け入れてくれる国がある。

 どうしよう。すごく嬉しい。

 その『ミナヅキ王国』なら、変装なしでも紛れ込めるのでは?と期待に胸が高鳴る。


「しかし、このことも知らなかったのか。君は本当に世間知らずだね。いつか騙されて危険な目に遭うんじゃないかって、危なっかしくて見ていられないよ。神様二人に守られているのがちょうどいいね」


「なにそれ。私をポンコツみたいに言わないでくれる?」


「だって、ポンコツでしょ?」


「おい、人間。言葉遣いに気をつけろ」


 私を隠すように、ハティがすかさず間に入る。

 そうだぞ、人間! あんまり馬鹿にすると酷い目に遭わせるぞ! ハティがな!


「すみません……」


 不服そうな青い目は、ハティの大きな体が遮ってくれる。


「姉さま、りんごじゅーすまだぁ?」


「おお、ごめんよ。いますぐ用意するからね」


 いけない、天使をお待たせしてしまった……!


 『収納』からグラスを出して急いで注いでいく。


 待っててね。搾りたての濃厚ジュースですぐに渇きを満たしてあげるからね。


 あの……アロン、ハティ。


 その残念な者を見る目、やめてくれませんかね。

 ジュースあげないぞ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すっごく面白いです、早く続き読まなくちゃ! キャラ達もそれぞれみんな大好きになりました! [気になる点] ここまで読んだ感想なので、この先に改善されるかもだけど、ララは教育を受けてないっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ