35 アロンにすべてを話す
「『エクストラポーション』だと!?」
アロンが叫ぶ。
「なんなのぉ、こいつ。気持ち悪い」
突然迫ってくるアロンに、虫けらを見るような視線を送るイヴ。今にも何らかの「攻撃」を仕掛けそう。
慌ててアロンを紹介して、彼がウィルを治療してくれたことを説明した。
「ああ、あなたがララちゃんの言ってた人間の男ね」
「あり得ない! 『エクストラポーション』は『ハイポーション』のさらに上級。レシピが失われた"神話級"の薬だぞ! 死からも蘇らせると聞く! この世にあるわけがないんだ! ………というかこの女、緑に光ってないか!?」
アロン、ご乱心。
とりあえず、落ち着かせよう。
前世の知識がある、という点だけ除いて、コーネットの屋敷から逃げ出そうと決意してからこれまでのことをすべてアロンに話した。
コーネットの屋敷に初代様が残した『鑑定』と『収納』を、自分のものとしたこと。なお、家族はスキルの存在を含め、そのことを知らないということ。
ハティは逃亡前に森へ逃した愛犬だったけど、再会したら巨大な狼になっていて、実は獣の神様だとわかったこと。
それから、ハティの保護下に入ってスキル『体力∞』をもらったこと。
その後、私の怪我の治療のためにやってきた植物の神様であるイヴが仲間になったこと。
イヴの保護下に入って、『植物創造レベルMAX』をもらったこと。そのおかげで薬草が作り放題だということ。
ログハウスやドームについては、ある日突然使えるようになったスキル『安寧の地』の産物であること。
ウィルのスキルについては、必要があればおいおい話すとして………
「───頭が痛くなってきたよ」
アロンは青い顔で頭を抱えてる。
「君が言う『スキル』は『称号』のことだよね?」
「たぶん、そう」
「つまり何かい、君はこんなに強力な『称号』を5つも持っているということかい」
「そうなるかな?」
「───信じられない。普通、称号は一人につきひとつだ。といっても、『称号』が与えられること自体が珍しいことだけどね。40人に一人くらいの割合かな。例外は、200年前の勇者の『鑑定』と『収納』の2つ持ち。5つなんて、規格外にもほどがあるよ」
「へぇ……」
「君、自分の異常性をちゃんとわかってる? アホ面してないで、もう少し真面目に聞いてほしいね」
アホ面! 失礼しちゃう! 理解するには時間がかかるんだよ!
だって、私が持つスキルの特殊性とか、数の制限とか、そんなの知らなかったんだもん。
コーネットではそんなこと教わらなかったし、『称号』について学ぼうにも、持ってきた本の中には『剣聖』関係の解説本しかなかったし………
「とりあえず、『称号』を持っていることは誰にも話さないように。目立つどころの話じゃなくなるからね。人前では使わない、わかった?」
「はい……」
と、
アロンは席に座り直し、改まって言った。
「私の調べでは、君はコーネットのご家族から冷遇されていたと聞いている。容姿の珍しさと貴族の証たる魔法が使えないというのが、その理由だ」
「………うん、その認識で合ってるよ」
嫌な記憶が蘇って、思わず顔をしかめる。
過去の出来事とはいえ、あの辛く苦しい日々を思い出すと、今でも吐きそうになる。その度に、あの頃の弱かったララも確かに『私』なのだと、思い知らされる。
コーネットの味方をするわけじゃないけど、と前置きしてからアロンは言った。
「何の力もなかった君が、今では5つも強力な『称号』を得た。それを伝えたら、ご家族はもう君を冷遇しなくなるだろう。ボルドー侯爵に違約金を払ってでも、君を自家に留める。きっとだ。だとすると、もう君に逃げる理由はないんじゃないかな?」
逃げる必要は、ない───?
カッと頭に血がのぼった。
嫌だ、とアロンの言葉尻にかぶせて、私は半ば悲鳴のように叫んでいた。
「私は、私達は絶対に帰らない。確かに、アロンの言うとおりかもしれない。私に価値があると分かったら家族は手のひらを返して私を大切にするかもしれない。でも、それでこれまでの仕打ちが消えるわけじゃない。コーネット家のララとして、彼らに恩恵をもたらしてやる気はこれっぽっちもない!」
そう、私のスキルは、私と私の大切な人を幸せにするためにあるものだ。そこに、コーネットのクズ共は入っていない。
「姉さま……」
ウィルがベッドの上から、心配そうに私を見ている。
ごめんね、と謝った。病み上がりのウィルの前で、大声を出してしまった自分を恥じる。
「まぁ、そうだよね」と、アロンが神妙に頷いた。
「帰っても、君は自慢して歩くためのペットか、家畜のように使い潰されるのがオチだろう」
アロンの口調は辛辣だ。コーネット、というよりは貴族自体を嫌悪しているようだった。
侯爵家から逃げ出したアロンにどんな過去があるかわからない。だけど、アロンも辛かったのだろうと思った。だから、実家の貴族家から逃げ出した。そう思うと急に、仲間意識のようなものが芽生えた。
「君が逃げ続けたいと言うのなら、私もこれまで以上に協力するよ」
私達は打算にまみれた契約関係で繋がっているはずだった。
けれどアロンの青い目は真剣そのもので、打算ではなく、純粋な好意がそこにある気がした。
「アロン……」
ちょっぴり感動しかけたそのとき、アロンがふっと表情を緩めて言った。
「君に実家へ帰られたら、君の薬草畑をじっくり研究できなくなるし」
「アロン」
うん、アロンはそういうやつだってわかってた。
この合理主義者の薬草馬鹿め。
と、アロンが吹き出して、「冗談だよ」と笑った。
いや、今のは本気だったろ。そう思いながらも、私もつられて笑ってしまった。
すっかり元気になったウィルは、腰掛けたベッドの上でにこにこ笑ってる。
この終着点を初めから知っていた、と言わんばかりだ。
「改めてよろしく、ララ」
アロンが握手を求めてくる。こちらこそ、と私はその手を握った。
こうして、アロンは私達の事情を(ほとんど)すべて知る、完全なる味方となった。





