33 ウィル、病気になる
それはとても急だった。
「姉さま、あたまいたい」
外で遊んでいたウィルが、そう言ってログハウスに帰ってきた。
「どの辺が痛い? 熱かったり、寒かったりする?」
「おでこのほう。さむい」
頬が赤いし、息も少し荒い。前髪をはらって額に手を当てると熱かった。
「風邪かなぁ……」
ウィルをベッドで休ませて、考えに沈む。
スキル『体力∞』の恩恵で、私達は滅多に病気をしない体になった。
そう、滅多に。全く病気をしないというわけじゃない。
スキル『体力∞』は、体力を回復し続けてくれるスキルで、それは持ち主が元々持っている体力上限に依存する。
たとえば、私の体力上限が10だとする。何か運動をしたとき、体力は減る。9や8へ。スキルはその減少を察知すると、元の10まで戻してくれる。ずっと動き回っても疲れを感じないのは、疲れを感じる前に、スキルが体力を元に戻してくれるからだ。
体力のある私達は必然的に免疫力も高くなるので、病気もしにくくなる。
しかし。
強力なウイルス等に感染し、体力が急激に減り続けるとき、回復速度が追いつかず、寝込んでしまうことがある。
私がジャイアントベアーに傷を負わされた時がそうだった。
スキル『体力∞』はありがたいスキルだけど、あまり過信するのはよくないってことだ。
いま、ウィルの体の中で「何か」がウィルの体力を奪い続けている。
だけどこのときはまだ、私に焦りはなかった。
イヴがいたからだ。
イヴは治癒魔法が使える。
私の傷も、その傷のせいでかかった病気も、イヴが治してくれた。だから今回も簡単に治せると思ってた。
なのに───
イヴのかけた回復魔法は、なぜかウィルには効かなかった。
不安で、胃がムカムカする。
魔法が効かないならと、『収納』から薬草で作った風邪薬を出す。
作ってから時間が経つと劣化して効果が薄くなる薬も、『収納』に入れておけば時間停止機能のおかげで劣化しないので大量に作ってある。ほかに、外傷や内臓に作用する薬もある。
薬作りは、薬草を刻んだり煮たり焼いたり、料理と似たところがあるのでスムーズに作ることができる。
それでも、どうしても作れないものがあった。
それは、『ハイポーション』。
手足がちぎれても瞬時に再生させ、致死性の病気でも一瞬で治してしまう万能薬だ。
このハイポーション、水属性の魔法で作り出した清らかな水がないと作れないらしい。
私もウィルも、属性云々の前に魔法が使えない。ハティの魔法は火属性だし、イヴは光属性で水は作り出せない。だから、ハイポーションは作れない。
ハイポーションがあれば、ウィルをむしばむ謎の病も、一瞬で治るかもしれないのに。
パン粥を食べさせ、風邪薬を飲ませて数時間しても、やはりウィルの熱は引かなくて、いよいよ焦りが募る。
生姜を『創造』して、砂糖と一緒に紅茶に溶いて飲ませる。蜂蜜があればよかったけど、買っていなかった。
「姉さま、さむいよ……」
「俺が温める」
ハティがベッドに上がって、ウィルを胸に抱く。ハティの体温は高いから、適任だろう。
「大丈夫だ、ララ。明日にはイヴが薬を用意して戻る。ウィルは治る」
治癒魔法が効かなかったことを気に病んだイヴは、薬を用意すると言って出ていった。
神様が用意する薬だから、きっとウィルの病気も治してくれると思う。
だけど、戻るのは明日。
紅葉みたいに小さなウィルの手を握ってさすり続ける。
ウィルは苦しんでる。
それなのに、スキルも薬も魔法も効かない。
イヴが戻るのを、じっと待つしかできないなんて………
「ララ……!」
ハティの呼びかけにハッと顔を上げる。
「ララが不安そうな顔をすると、ウィルも不安になる。もう休め。ウィルは俺が見ておく」
「でも……」
「明日は薬師の男に会う日じゃないか? 前回、そいつに『月草』を売ったのだろう? だとすると明日、ハイポーションをそいつから買えるかもしれないぞ。イヴを待つまでもない」
そっか、アロン……!
アロンはハイポーションの原料となる『月草』をたくさん買っていった。きっと今頃、ハイポーションを作って持っているはず。
どんな病気でも、体の欠損だって一瞬で治しちゃうハイポーションなら、ウィルの病気も、きっと治してくれる……!
ハティは気休めに言ったのだろうけど、アロンとの会合は最大の希望を私にもたらした。
ああ、早く明日になって……!





