23 謎の男とスキル『真実の目レベルMAX』
今日も、名も無き田舎町の市場にやってきた。
昨日ある程度の食料品も手に入ったし、連日で来る必要はなかったのだけど、どうしても町に行きたいとウィルにせがまれて、まぁ町の安全は昨日で確認できたしってことでやって来たのだ。
ウィルはキョロキョロと、しきりに周囲をうかがっている。見るものすべてが目新しく、気になるご様子。
コーネットの屋敷に閉じ込められていた私達にとって、この町は初めて見る平民の生活区域だ。大声をあげて笑い合うおばさんたちや、荒い言葉で客引きをするおじさんなんて、貴族の屋敷ではまず見ない。
「いいにおいする」
「ほんとだね」
屋台の方から、甘ダレの匂いに混じって肉の焼ける匂いがする。じゅわ、と口の中で唾液が広がる。
ちょ、ウィル! ふらふら行っちゃだめだよ。
「あとで食べようね」
「うん!」
きらきら笑顔が今日も眩しいです。
昨日のお買い物で稼いだお金はぜんぶ使っちゃったから、まずはお金を稼がないといけない。
いっぱい薬草を売って、いっぱい稼いで、ウィルにお腹いっぱい屋台飯を食べさせてあげよう。
薬草の売れ行きは良好で、2時間で既に昨日の倍は売り上げた。たぶん、今日は"小さな女の子"っていう可愛い売り子がいるからだね。
そう、今日のウィルは私の妹。少しでも私達の正体を誤魔化すために、女装させたの。といっても、特別なことはほとんどしてないよ。元々可愛い顔だから、私のワンピース(黒)を着せて、長めの金髪を二つ結びにしただけ。それだけで、どこからどうみても女の子です。
「お嬢さん」
「はい!」
営業スマイルで見上げて、びっくり。
ものすごいイケメンが私に笑いかけていた。
青い目に、知的な眼鏡がよく似合うオトナな感じのお兄さん。ひとつに結んだ灰色の長髪を左肩に垂らしてる。濃紺の上等なローブを身にまとっているし、お金持ちっぽい。
上客の予感!
「向こうで少し、お話しない?」
……おっと、客じゃなかった。まさかのナンパだった!
うぇぇ、どの世界にもナンパ男っているんだね。げんなりだ。こっちは天使に貢物をするためにお金を稼がなきゃなんないの。忙しいんだよ!
しかし、よくこんな、顔の下半分しか見えない怪しい女を口説こうと思うよな。しかも子連れ。ある意味勇者だ。
無視するけど。
「あー……、勘違いさせちゃったかな。ナンパじゃないよ。私は商談がしたいだけなんだ」
え? そうなの?
「君が持ってる薬草、あるだけ全部買い取りたい。金額が大きくなるから、ここじゃなんだと思ってね」
私が持ってる薬草って、『収納』の中に軽く百束は入ってるよ。そんなにお金、持ってるの?
「お金なら心配いらない。ほら、この通り」
男の人が巾着袋を開いて見せる。
ふぉぉぉっ!金ピカだよー!!!
そのお金すべてが、ウィルに貢ぐべき食料に見えてしまう。喉がごくりと鳴った。
───て、だめだめ。お金に釣られてついてく、なんて初歩的なミスはしないよ。知らない人にはついていっちゃいけません。小学1年生でも知ってる。これ日本の常識!
お兄さん、「さすがに警戒するか……」なんて言ってるけど当たり前でしょうが!
大金ちらつかせてついてこい、なんて誘拐のニオイぷんぷんだよ!事件だよ!
と、
てくてくてく。ウィルがイケメン知的眼鏡、略してイケメガネの方に歩いてく。そしてじっと、彼の目を見つめた。
きゃー!!!ウィルが不審者にさらわれる!!
「ぼくたちを助けてくれるの?」
うぉーい。ウィルさん、天使のボーイソプラノボイスで小首を傾げて何言ってるの?
イケメガネもあっけに取られてる。しかし、すぐに笑みを浮かべた。どこか、面白がっているふうだ。
「そうだよ。私が君たちを助けてあげる」
いや、いやいやいや。お金ちらつかせて私達をさらおうとしてたやつが何言ってんの?
「その件で少しお話したいんだけど、私に付いてくるように君のお姉さまを説得してくれる?」
わかった、そう元気よく返事をするウィルがぐるんと私を振り返る。
「このひと、わるいひとじゃないよ。姉さま、行こ?」
でも────言いかけた口をつぐむ。いつになく、ウィルが真剣な目をしていたから。
「ぼくをしんじて」
そっか。すっかり忘れてたけど、ウィルは、スキル『真実の目レベルMAX』を持ってるんだった。
私が『植物創造レベルMAX』をもらう一方で、ウィルに与えられたスキル。
『二人に同じスキルをあげるなんて芸がなくて面白くないでしょう?』と、イヴは私達姉弟に別々のスキルを与えたのだった。
それを聞いたハティが怒って、喧嘩になってたっけ。
ハティはまさに、『体力∞』っていう姉弟でお揃いのスキルをくれたもんね。
『真実の目レベルMAX』は、人の善悪といった性質を暴き、本気になれば人の心の中まで覗くことができるスキルなんだって。強力なスキルだ。ウィルを騙すことは、誰にもできない。
だめだよ、ウィル。危険だよ。そう思うのに───
ウィルの緑の瞳は、木漏れ日に輝く湖のように綺麗で。その瞳を見つめていると突然、泡が弾けるように不安が消え去った。
「───わかった。ウィルを信じる」
気づけばそう呟いていた。
「さぁ、行こうか。ついてきて」
いつもは私が引く手を、ウィルが率先して引いて歩く。そうして、不思議な心持ちのまま謎の男の後をついていく。





