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22 町デビュー


 地図にはただ「町」とだけ記された名も無き町。そこは、あまり発展してるとは言い難い田舎町だった。


 ぽつん、ぽつん、と木製の簡素な家が乱雑に建ち並び、道らしきものはあるけれど、土がむき出しで舗装はされていない。


 いつかテレビで見た『ヨーロッパ』の田舎町みたいな風景だと思った。

 ヨーロッパ旅行。憧れてたけど、けっきょく行けずじまいだった。その夢がいま叶ったみたいで、ちょっとワクワクする。

 

 『収納』から出したカゴに薬草を入れて、町中を歩いていく。

 ハティは近くの森でお留守番だ。連れて歩くと大騒ぎになるからね。


 こう見ると、割と広い町だ。それなりに人はいるし、時々ではあるけど荷馬車も通ってる。

 

 全身真っ黒な私の格好が珍しいのか、よく振り返られる。でも、よかった。怖がられてる感じはない。黒髪も黒目もミニハットのレースと、フードでちゃんと隠れてる。


 ひときわ賑わっている広場に出た。たぶん、ここが『市場』だ。


 ワゴンに赤い果物をいっぱい入れて、おじさんが客引きをしてる。地面に敷物を敷いて、何やら並べて商売してる人もたくさんいる。


 なるほど、なるほど。ワゴンか敷物が必要か。幸い、『収納』の中に小さめの絨毯がある。取り出して……っと、


 敷物で商売をしてる人たちに連なって、私も絨毯を敷く。それから、拠点で作ってきた看板を取り出して立てかける。看板には「薬草」と書いてある。


 問題は値段なんだよね。いくらで売るのが正しいのか。果物ひとつの相場すら知らない私には判断がつかない。


 一応、市場を見て回った感じだと、りんごっぽい果物がひとつ銅貨一枚だった。100円くらいかな?って予想してるけどどうだろう。


 薬草一本は、りんご一個より安い位置づけだろうか。薬草の種類にもよるよねぇ……うーん、難しい。


「お婆さん、何売ってるんだい?」


 およ?


 隣で商売してるおばさんに話しかけられた。そして聞き間違えじゃなければ「お婆さん」って呼ばれた。


 失礼な! こちとら14歳のピチピチ妖艶美少女だぞ! 


 仕方ないか。変装のせいで顔の上半分と体のライン見えないもんね。

 脱いだらすごいんだぞ! おっぱいも最近さらに大きくなったんだからな!


「薬草です」


 そう答えると、おばさんは目をまんまるに見開いた。


「こりゃ驚いた。その声、まだ若いお嬢さんじゃないか」


 そうですよ、ピッチピチのお嬢さんですよ。と満足してから気づく。


 あれ、これ、勘違いされたまま「お婆さん」を演じたほうが良かったんじゃ……?


 謎の「お婆さん」として商売すればコーネットに私の居場所がバレるリスクが減る。だって、「お婆さん」が14歳の「ララ・コーネット」と結びつくわけないもん………


 わぁぁぁ! だめだ、幼声も聞かれたし、顔の下半分がっつり見られた! もう遅い!


「半分しか見えてないけど、綺麗なお顔だねぇ。どうして目元を隠してるんだい?」


「酷い火傷の痕があって……それを隠しているんです」


 おばさんが悲痛な面持ちになる。


 ごめん、おばさん。そういう設定ってだけだから。火傷痕なんてないよ。だからそんな悲しそうな顔しないで。罪悪感がぁぁぁ。


「エンゲル草かい。こりゃいい、煎じて飲めば腰痛に効くんだよねぇ。一束もらおう。銅貨2枚でどうだい?」


 銅貨2枚!たぶん200円くらい!


「いいですよ、どうぞ!どうぞ!」


 初めてのお客さんは隣で商売してるおばさんになりました。


 ほくほく喜んでいると、私達のやり取りを見てたのか、数人が声をかけてくる。


 ・エンゲル草︰腰痛に効く 銅貨2枚

 ・オリエール︰二日酔いに効く 銅貨2枚

 ・アカタケ草︰風邪薬 銅貨3枚

 ・月草︰ハイポーションの材料 銅貨5枚


 用意した薬草が次々に売れていく。値段はお客さんの言い値。みんなその値段で普通に買っていくし、たぶんこの辺が相場だろうと思う。


 薬草1本につきこの値段じゃないよ。10本くらい束にしたやつでこの値段。


 薬草を売りつつ、この町にコーネットの捜査網が及んでいないか、お客さんとの会話の中で探ってみることにする。ウィルをこの町へ連れて来るなら、そのあたりをしっかりと調べてからでないといけない。


 コーネットが捜索隊に探らせているとしたら、『14歳くらいの女の子と6歳くらいの男の子の二人組』の情報だと思う。


 私がウィルと一緒に逃げたことは、コーネットも承知していると考えたほうがいい。私が出発したその日にウィルがいなくなれば、すぐにその可能性に思い当たるはずだ。私とウィルは仲が良かったから。

 

 しばらく探ってみても、『14歳の女の子と6歳の男の子の二人組』に関する情報はなし。コーネットの名前をそれとなく出しても、みんな首を傾げるばかり………

 

 薬草を売りながら、お買い物をしながら、まる一日調査した結果、コーネットの追手はまだこの町まで到達していない。私はそう結論づけた。この町は今のところ、安全。

 そして、この町の人は親切でいい人たちだ。昼間なら治安も悪くないようだし、次はウィルを連れてきても問題なさそうだ。


 3時間ほどの商売で、薬草の売上げは銅貨33枚。3300円くらいかな?

 時給千円ちょい、良い稼ぎだと思う。思わず顔がニヤける。


 生肉、牛乳、卵、バター、チーズ、柔らかいパン……

 このお金でどれくらい買って帰れるかな。


 お買い物して早く帰ろう。ウィルが待ってる。


 ◇ ◇ ◇



 森に近づくと、ハティがのっそりと出てきた。


「目的のものは手に入ったか?」


「うん!」


「よかったな」


 ハティが笑う気配がする。狼だから、本当に笑ったかどうかは判断がつきにくいけど。


 それから数分後にはもう、ログハウスに到着していた。

 ハティの走りは力強く、風のように速い。


「ただいま、ウィル!」


「姉さま!おかえりー!」


 飛び込んでくるウィルを受け止める。


 すんすん、とウィルが鼻をひくつかせた。


「なんかいい匂いする!」


「ベリーパイ買ってきたの。お土産だよ!」


 ホールで買ったら銅貨10枚もしたけど、天使の笑顔が見られるなら安いものだ。


 "ベリーパイの歌"を歌いながら、天使はぴょんぴょん跳ね回る。作詞作曲は、なんと天使様ご自身です。耳が幸せ。


「牛乳が手に入ったんだ。夜ごはんはシチューにしようね」


 私のお知らせに、ウィルは頬を真っ赤にして、鼻息荒く喜ぶ。テンション上がりすぎてぶっ倒れないか心配。


「シチュー? なぁにそれ?」


 ソファに寝転がるイヴが聞く。イヴってば、日に日に怠惰になっていくよ……

 ソファがよほど気に入ったのか、そこから全然動かない。庭に『創造』してある果物が食べたくなった時も、私かウィルをお使いに出して自分では絶対に取りに行かない。

 

「ふん、そんな事も知らんのか」


 ハティはドヤ顔だ。耳をピンと立てて、稲穂のしっぽをフリフリ。イヴより優位に立てた嬉しさを隠せていない。


「いい響きね! 美味しそうなごはんにありつける予感がするわ……! ララちゃん、早く作ってぇ! お腹空いたわぁ! ねぇ、ウィルくん? お腹空いたわよねぇ?」


「うん!おなかすいたぁ!」


「イヴ、お前は腹など減らんだろうが」


 小躍りするイヴはハティのツッコミを完全に無視してる。


 まったく、イヴは駄女神まっしぐらだね。


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