18 ララ、病に倒れる
この日は朝から雨が降っていた。
スキル『安寧の地』で作ったドームも雨の侵入は許すようで、私達は掘っ立て小屋の中に避難した。もちろん、外に出してたキングサイズのベッドやキッチン用品はすべて『収納』してある。
こんな日のために、掘っ立て小屋の中も、一応住居としての体裁は整えてある。
コーネットの屋敷で使っていた私のベッドはシングルサイズだから、4畳程の掘っ立て小屋にもしっかり入る。私とウィルの二人だけなら、このベッドでも十分休める。
ハティには悪いけど、床に敷いた絨毯と毛布で我慢してもらう。
小屋の中では火を使えないから、ジャムやクラッカーや果物類で食事を済ませる。
作り置きのスープも『収納』してあるけど、もう一度火を通さないとお腹壊しそうで怖いし。
屋根を叩く雨の音がする。古そうに見える掘っ立て小屋だけど、懸念していた雨漏りはいっさいしなかった。
「かくれんぼしてるみたいでたのしいね!」
布団にくるまるウィルが明るく声を上げる。
「そうだね」
ウィルは私の太陽だ。暗く淀んだ世界から取り残されたような寂しさを感じずに済んでいるのは、ウィルのおかげ。
「今日はトランプでもして大人しく過ごそっか」
「トランプー! ひさしぶりだね! まえはまけたけど、きょうはまけないもんね」
「姉さまに勝とうなんて百年早いわよ」
14歳が6歳相手に本気で勝負して大人気ないって?
ウィルってば頭が良いからトランプの腕前も大人顔負けだし、本気にならないとすぐ負けそうになるんだもん。姉としての威厳を保つため、弟には負けられません。よって、問答無用の真剣勝負です!
と、勢い込んだのも束の間。
『収納』からトランプを出そうとして、視界が反転した。あら?と思ったときにはベッドに突っ伏していた。
「姉さま!」
「ララ!」
ベッドに重みが加わり、見上げるとハティが私の顔を覗き込んでいる。ぺろり、とザラついた舌で額を舐められた。
「熱がある」
熱? うそー、まじか。
たぶん、ジャイアントベアーから受けた傷のせいだよね。消毒はしたけど、細菌が殺せてなかったのかな。
熱を持ち、ずくずくと痛む腕にはずっと気づいてた。傷口を洗って、こまめに包帯を取り替えて、頑張ってはいたんだけど……だめだったみたい。
ウィルの可愛い顔が苦しげに歪む。亡くなった実の母親の病床を思い出しているのかもしれない。
ウィル、泣かないで。ごめんね、不安になるよね。
ああ、もう、自分が情けない。こうなる前に、もっとできる事があったはずなのに。
「……ウィル! そこのタオルと水を持ってこい!」
「うん!」
苦しさに耐えられず目を瞑ると、周囲で二人が慌ただしく動き回る気配がした。
そこから何度か目を覚ましたような気がするけど、記憶が曖昧だ。半分、夢でも見てたみたい。綺麗な男の人が額のタオルを替えてくれた気がするけど、あり得ないくらいの美貌だったし、あんな人現実にいるはずないからきっと夢の中の出来事だろうと思う。
はっきりと目を覚ましたとき、側にはウィルがいて、ハティの姿はなかった。
テーブルの上に、『収納』から出した覚えのないパンとスープと果物が乗っている。ウィルの食事を気にして無意識で出したのかな。
「ウィル、ハティは?」
「くすりとりにいくって」
「薬……?」
とりにいくって、どこに行ってるんだろう。森に薬草採取にでも行ってるのかな。
まだ熱っぽくて体がだるい。お医者様を呼ぶわけにもいかないし、薬草でも何でも使って自力で治すしかない。ウィルに心配させないよう、できるだけ早く。
薬草の本を『収納』から取り出す。
「だめだよ、姉さま。ごほんよまずにねむるの」
本はウィルに取り上げられてしまった。
そうだね、眠らなきゃ。視界がぼやけてるもん。スキル『体力∞』による回復力に期待しよう。眠っている間にどうにか細菌をやっつけてくれますように……
「今戻った! ララは?」
一陣の風と共に、白銀の狼が小屋に入ってくる。
「いまねむったの」
「そうか」
ハティの後ろ、全身が黄緑色の綺麗な女の人がいる気がする。誰だろう。……ああ、また夢を見てるんだ、きっと……





