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15 潜伏生活開始から一週間


 スキル『安寧の地』が作り出した掘っ立て小屋のある拠点に戻ってきても、まだお昼前だった。


 かごにはたくさんの森の恵み。お昼はきのこのハンバーグでもいいなぁ。

 

 お昼まで、ウィルのお勉強をみてあげる。屋敷から持ってきた本や文房具を出して青空教室だ。

 

 現世ではちゃんとした教育はほとんど受けていないけど、私には前世で受けた教育のアドバンテージがある。塾講師のアルバイトも半年間だけだけどやってたし、教えるのは得意。


 数学や理科系の知識は、前世の方がだいぶ進んでる。私が先生になれば、ウィルを優秀な人材に育て上げる事ができるだろう。


 いまは文字をお勉強中。屋敷では、私と同じくほとんど教育を受けていないウィル。それでも、勉強に対する意欲はちゃんとあって、楽しそうに文字を練習してる。


 潜伏生活も一週間を過ぎる。


 そろそろ食事事情が悪くなってくる頃だ。屋敷から持ってきた牛乳やバターや魚は腐っちゃうからぜんぶ消費したし、卵もあと数個を残すのみ。パンも、柔らかいパンはもうない。日持ちする硬いパンとクラッカーとクッキーでどうにか繋ぐしかない。あとは小麦粉があるから、水と混ぜてクレープ風にして……


 果物やお肉はまだある。なくなっても、森でとれる。ジャガイモや人参などの根菜は保存がきくし、葉物野菜は森で採取可能。

 

 問題はそう。牛乳と、パンと、卵がない(もうすぐなくなる)ってこと。食べざかりのウィルにとっては、辛いよなぁ。


 やっぱり、周辺の村に出る?


 お金もないし、物々交換できる品は宝石類しかない。まずは宝石を売ってお金を作るにしても、森の近くにある田舎の村では買い取ってもらえるのかすら怪しい。珍しい客の情報から、私達の居場所がコーネットにバレても困る。


 どうしよう。


 ぽふ、と温かくて柔らかいものに背中が包まれる。振り向こうとするとハティが大きな鼻を擦り寄せてくる。


「あまりひとりで思い詰めるな。俺がいる」


 あはは。格好いいなぁ、ハティ。


 ───そっか。私は独りじゃない。頼もしい相棒がいるもんね。


「ありがとう、ハティ」  


 全体重をかけてのしかかっても、ハティの体躯はびくりともしない。


 もふもふ、サラサラ。気持ちいい。ああ、癒やされる。

 耳の後ろを掻いてやると、ハティは気持ち良さそうに目を細めた。


「ずるーい!ぼくもやる!」


 首にかじりついたウィルを、ハティがひょいと咥えて背中に乗せる。きゃっきゃとはしゃいでウィルは楽しそうだ。


「このままおさんぽしてきてもいい?」


「こら、まだお勉強中でしょ」


「おねがい。ちょっとだけ」


「もう。お昼ごはんまでには帰ってくるんだよ」


「はーい! いってきまーす!」


 ウィルを背中に乗せたハティは、風のように森へと吸い込まれて消えた。


 さて、お昼ごはんを作りますか。


 ふらり、と視界が揺れる。あら、なんか、立ちくらみ……?

 

 ジャイアントベアーにやられた腕をさする。包帯の下の皮膚が少し熱を持っている。先に消毒して包帯を変えたほうがよさそうだ。


 お昼はきのこのハンバーグだったよね。お肉を叩いて挽き肉にしなきゃ。

 そろそろ持ってきたお肉も限界だな。燻製にしたほうがいいかも。

 

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