後編
しばらくして家に戻ってきた伯爵は、気落ちした表情で夫人に言いました。
「なぁ、お前、
ようやく私にも判ったよ。
戦争も、武器も、
人間が作ったものは全部そう。
人間が私の愛しいものをみにくくするんだ」
「えぇ、そうですね。貴方がそう仰るなら」
夫人はいつになく悲しそうな表情でした。
「だから私は思いついたんだ。
もっと上手く、美しい町を保つやり方をね。
まずは、この紙に目を通してみてくれ」
伯爵は上着の内ポケットから、四つに折った紙を出し、テーブルに広げてみせました。
伯爵の「もっと上手い方法」が、実行にうつってから、大分経ちました。
お嫁にいった娘が、伯爵を心配して戻ってきました。三つになる息子を連れて。
「お父様の新しい改革が、上手くいってると聞いたわ。
きっと私のふるさとは、より美しくなっているに違いない」
久しぶりにふるさとを見た娘は、その復興ぶりに驚きました。
前よりもずっと静かになっています。街路樹もすっきり整えられ、往来にはごみ一つ落ちていません。何より心を惹かれたのは、町外れにある紅いバラの花畑です。
娘もその息子も、その花畑を大変に気に入りました。
『あら、いつの間に帰っていたのね』
ふいに後ろから声がしました。振り返ってみると、伯爵夫人です。大好きなお母様です。紅いバラの髪飾りをつけています。
『ちょうどお父様が、探していらしたわ。
お茶を飲みにいらっしゃらない?』
緊張しているのか、夫人はぎくしゃくした足取りです。
後についていくと、いつもと変わらぬ小さく簡素な我が家がありました。
『よく帰ってきたね。そこにお座り』
娘をねぎらったのは、サッパリー伯爵――
ではありません。骸骨です。しわ一つないビロードの服を着て、左の眼窩に紅いバラを差した骸骨です。声でようやく、伯爵のなれのはてだとわかりました。
「お父様、どうなさったの?」
怖がる我が子をなだめ、娘は尋ねます。
『見て解らんかね。私の考えたやり方さ。
人間が私の愛しいものをみにくくするんだ。天に召されてしまえば、そうはできない。
すばらしいと思わんかね?』
〈つづく〉




