ユレイオンの苦悩
今回は長旅。
ユレイオンの苦悩も濃そうです……
その背を見送り、シャイレンドルはぽつりとつぶやいた。目に涙を浮かべつつ。
「わいの金……」
いい気味だ、と内心ほくそ笑みながら、一部始終を見ていたユレイオンも手近なところに腰を下ろす。
「せ~っかく、久しぶりの長旅やっちゅうて虎の子かき集めて持ってきたっちゅーに……ファローンかてこれだけ長い間馬に乗って、寝るときぐらいやわらかい寝床で寝たいよなぁ?」
「えっ?」
いきなり話を振られてファローンは返答に窮した。
「旅はゆっくりするもんや。こないに急いだかて何がおもろいんや」
ユレイオンはそんな悲しそうな相棒の横顔をちらりと見た。その考えには確かに同意する。むしろできる限りゆっくり行きたい。思い出すも呪わしい土地に向かって急いで旅をするなど、考えたくもないほどなのだから。
「お前と同じ考えなぞありがたくはないが、確かにな」
相棒に相槌を打つ。と、相棒は驚いたように目を見開いた。
「へぇ、珍しいな。お前も花街に行きたいんか? わいが誘ってもいっつも鼻にもかけんくせに」
「当たり前だ。誰が花街へ行きたいといった! ……無理やり引っ張り込んだ挙句、お前は女と先に消えて、飲み食いと女の花代を俺に押し付けやがったくせに! 行きたくもないわ!」
「女がいややったら言うてくれればよかったんに。今度男娼の館を紹介したるわ。ええとこ知ってんねん」
「……お前、その気もあったのか」
疑わしげに横目流しにする。シャイレンドルはにやっと笑った。
「女がいややっちゅーなら、男がええんやろ? わいの知っとる限りでええとこを教えたるっちゅーとんねん」
「……いらん。その気もない」
こいつにだけは近寄るまい、と固く心に決める。いつぞや起こしに行ったときに引っ張り込まれた記憶が蘇る。あの時は冗談だと思っていたが、案外本気だったのかもしれない、などと思い当たった途端、全身に鳥肌が立った。
「つまらんやっちゃ」
「俺は街に泊まりたいだけだっ! 急ぐ必要もないのだろう?」
「さぁ、あんまり詳しいことは教えてくれへんかったからなぁ。まったく、食えん爺ぃや」
「……まったくだ」
相槌を打つ。あれほど信頼しているといいながらその愛弟子には何一つ悟らせず、にっこり笑って自分の思い通りに操って見せる人はおるまい。そういう意味では、ユレイオンはシャイレンドルよりも塔長のほうを警戒しているのだった。あの人は侮れない。
あの人の裏の顔を見過ごしたら、一体何をさせられるか分かったものではない。今回のこともどんな裏があるやら……。
「用意できましたよ。昼食にしましょう」
セインの声を聞きながら、そうユレイオンは思っていた。