対決
「ユレイオン、壊せ!」
言われるまでもない、とユレイオンは鏡の本体に力を流した。鏡は砂に戻り、シャイレンドルの起こす風に吹き飛ばされていく。
「わしの用意した罠を全てしのぐとは、やはりザイレンの弟子といったところよの」
「ザイレン?」
シャイレンドルは首をかしげる。ユレイオンは苦々しく答えた。
「塔長の名前だろうが。それぐらい覚えとけ。――貴様がモントレーと組んだ闇魔導師か」
闇魔導師がにやりと嗤う。
「なかなか楽しい余興であったぞ。思ったより楽しめたわい。それにしても、こうやすやすとアダの結界より出てこようとはの。もう少し足止めできるかと思うておったのだが、それだけが予想外じゃ」
「抜かせっ」
シャイレンドルは風を集めると刃に変えて放った。同時にユレイオンも土からブレードを複数作り上げ、放つ。
二つの力が軌跡を描きながら避ける闇魔導師を追跡する。
「無駄よ!」
魔導師が腕を振るうと両方の刃が粉々に吹き飛んだ。
「まだまだっ」
風を纏うシャイレンドルは立て続けに風刃を飛ばす。その一つが当たったかに見えた。
が、霧散したはずの魔導師の姿が再び黒い粒を集めて宙に浮かぶ。
「――何っ」
「これは単なる影じゃ。その程度も気が付かぬか」
「わかってらぁ」
怒気をはらんでシャイレンドルの気が膨れ上がる。
「ところでそなたら、こうしておってよいのか? あの小僧がどこにおるのか、どうなったのか、気にはならぬのか?」
魔導師の言葉にユレイオンは一瞬手を止めた。その隙を狙って魔導師から黒い鎖が飛ぶ。
「危ないっ」
シャイレンドルの起こす風に押されてユレイオンはぎりぎりのところで鎖を避けきった。地面深くに刺さった鎖から穢れに似た闇がにじみ出る。
「すまん」
「ぼーっとすんなよ。それよか貴様……ファローンをどこへやった」
「それくらい、自分で探せばよかろう?」
嗤う魔導師の声が癇に障る。
シャイレンドルは魔導師に目を据えたまま、あの石の気配を探った。
「シャイレンドル」
「今やっとる!」
確かに気配がある。だが、二つ。一つは向こうに見える煙を上げる都市の方角。そしてもう一つは……。
「背後やっ!」
シャイレンドルは振り向きざま風刃を叩き込む。何もないように見える空間に、いくつもの刃があたって跳ね返った。
「あたりー」
からかうような声とともにぺらっとめくるように空が切り取られると、その空間にはあの男がいた。悠々と空中に浮かんでいる。
罠の中で鏡から出てきた、青い瞳の男。地の王。
「貴様っ」
「……なんでおまえがそれを持っている」
押し殺したシャイレンドルの声。怒気は先程より膨らんでいる。
ユレイオンはシャイレンドルの視線を追う。
地の王の手首には、相棒のサークレットが巻きついていた。
「きれいだろう? あの坊やが持っていたものだよ。これ、君のだよねえ? においがする」
「……返せ」
ユレイオンはぞくりと背筋に寒いものを感じた。いつものシャイレンドルの気配とは違う、別の気配が滲んでいる。目の前にいるあの男と似た、闇のような気配。
――おまえ、まさか――。
嫌な予感がする。闇の中で見た――シャイレンドルの過去のシーンがフラッシュバックする。
「シャイレンドル」
「ユレイオン、下がれ!」
シャイレンドルを中心として、風が吹き上がった。砂を巻き込み、かなり広い範囲に渦を巻く。ユレイオンは巻き込まれないところまで飛び退きながら、ユレイオンは叫んだ
「怒りに飲み込まれるな!」




