今の時
終わりだよー。
今の私はこの若者といる。
幸せか、幸せでないか、今はまだまだ判らない。
しかしだ、彼の父である大騎士の持ち手としていた長い時代には、その息子に期待させるのに十分な偉業を成してきたのだ。
大騎士の事は、私的にはかなり最近の話になるな。
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「おぬしが使ってくれ、これがワシの最後の武器じゃ。」
流浪鍛冶が一人の青年に向かって私を渡す。
「最後の武器って、もう武器はつくらないのか。
残念だよ。
けど、最後の持ち主に選ばれたことを光栄に思う。」
私を受け取った青年こそが、後の大騎士となる者だ。
「ふん、気まぐれじゃよ。
けどまあ、御主ならなんとか使いこなすじゃろうと思ってな。
料金は出世払いでいいぞ、ワシはやる事があるからこれでな。」
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「なんだか、ぶっきらぼうだな。
礼くらいじっくり言わせろよ、せっかちなんだから。
まあいい、いずれ立身出世して、専属鍛冶師として迎え入れてやろう。
そうすれば、多少は報いたことになるだろうしな。」
邪気のない快活な笑みを浮かべながら青年は"依頼"をこなすべくある地方に沸いたという強力な魔物を退治しにいく。
私を使うのだ、素人でもなければ遅れを取る事すら難しいだろう。
そうおもっていたのだが、私の考えは覆されることになった。
「こいつか、なら大した事はないな。
よし、いっちょやりますか!」
何を思ったのか、私を抜かず、それどころか元々持っていた長剣も抜かずに、ナイフを一本ひっぱりだして馬を三頭も並べたような大きさの漆黒の大蛇に向かって走り出す。
「ほう、近くでみるとでかいな。
うぉっと、あんまり動くなよ!」
噛み付き、尻尾での弾き飛ばしなど、青年に向かって攻撃を放つが、全て余裕で回避されている。
部分鎧を使って動きやすくしてるにしても、中々にすばやい動きだ。
「はい、おしまいっと。」
何時間も避け続け、大分疲れたところを見計らって、大蛇の脳の部分にナイフをつきたてる。
普通にやれば、頭蓋に弾かれるだろうが、おそらく頭蓋の継ぎ目のようなところを狙っているのだろう。
易々と突き刺さり、勝敗は決した。
「まだまだ稼ぐ必要があるからね、一番目減りしないもので素材とかを手に入れないと割りに合わないよ。」
似たような事を何ども繰り返し、青年は名を上げていく。
青年の名はカイトというそうだ。
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あくる日の事。
「ここに、最近活躍しとる冒険者の男がいると聞いたのだが、おるかえ?」
冒険者のお店に、国に仕えるであろう男が入ってくる。
遠慮も躊躇もしておらず、まっすぐに受付に行って聞いているのだが、周囲は少々唖然としている。
そこそこ地位のありそうな格好をしているのに、護衛一人もつけずにこんな荒くれ者の巣に入ってくるのだから、そうなるのも当然か。
しかし、別に犯罪者の巣窟とかではないのだから、別に普通にこられてもかまわないといえばかまわないのだが・・・・・・。
「しょ、少々お待ちを、上司を呼んできます。」
「ああ、別におまえでもかまわん。
ここにいる奴等なら誰でも知っておるのじゃろう?」
きさくなのだろうか?
普通なら、ここでギルドマスターでも呼んで来いとかいいそうなものなのだが。
「おいおい、お嬢ちゃんがこまっているじゃないか。
あんたは良くても、この嬢ちゃんがまずいことになるから、呼ばせてやってくれ。」
「ふむ、それもそうじゃな。
しばし待つ事にする。
よろしく頼む。」
あろうことか、頭まで下げてお願いしている。
そして、声をかけたのはカイトで、活躍している冒険者とはカイトのことだ。
「ところでだ。
おぬし、ワシに仕えないか?
給料も名声も得る事ができるぞ。」
カイトを少し値踏みしたような目でみると、いきなり勧誘を始める。
実は知っていたというのもありそうだ。
それなら、先程のやり取りは人柄を見るための試験だったのかもしれない。
「おいおいおいおい。
そんなことをいきなり言われても困るよ。
第一、あんたが何者かもわからないのに返事もだせんよ。」
確かに、ついていったはいいが、領地もろくに持たない下級貴族の下男として雇われたとかだと目もあてられない。
それに、確かに政治の仕組みを知らねば名声などを得るのも難しいだろう。
名声の半分は、情報操作が主なものだったりする。
英雄"カイン"のやった事の大半はお国の事情で伝わった話であったことも私の意見の裏づけになるだろう。
「あー、すまんな。
そいつは今一番の稼ぎ頭なんだ、大臣とはいえ勝手に持っていかれてはこまる。」
ギルドマスターが出てきて、二人に話しかける。
どうやら、かなりの重鎮だったようだ。
「ふむ、それならば、私の依頼を優先的に彼に回してくれないか?
そうすれば、ギルドも潤うし、私も実力が判るし、彼も判断する材料にもなるだろう。」
ギルドマスターが考える振りをする。
当然、国の重鎮がそんなことを言ってきた時点で受けるしかないのだ。
ギルド不可侵なんて、普通に考えたらできる事ではない、国等に依存してしまうのは仕方ないといえる。
「わかった、そうしよう。」
「ギルドマスターがそういうならそうしよう。」
カイトは大臣からの依頼を次々にこなし、国からの信頼も得る事となった。
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「あれは何年前だったかのう。」
「まだ2年も経っていませんよ。」
あれから、カイトは国に仕える事となった。
多くの戦を回り、前線で戦い、昇級し指揮を執るようになるまで、一年とかからなかった。
実力があり、大臣の後ろ盾を得ているとはいえ、異例の大出世だ。
「そうじゃったか。
・・・・・・いまでは、おぬしはわが国の盾とも言われておるのじゃ。
後5年も今の調子が続くのなら、将軍にも推薦してやるぞ?」
「止めてください。
そんな、国の重鎮達に恨まれるような立場はいりませんよ。」
じっさいに将軍になれるだけの器はあるとはおもうが、同時に彼の持ち味はそんなところでは生かされないとも思う。
自らが戦い、指揮を執り、味方を鼓舞し、戦局を読み、指示を出す。
それがカイトを最大限に有効に使う方法だ。
もちろん将軍となっても同じ事はできるのだが、その機会が大きな戦のみに限定されてしまうのだ。
小競り合い程度でも将軍が指揮することは可能ではあるのだが、そのような事をするのは諌められる事が殆どだ。
何故かといえば、将軍がすぐに命を落としたり、すげ変わったりするような政府に対して、国民が安心できるのか、諸外国等がどうおもうのか、それが重要になり、目に見えた戦い以外にも気にする必要が出てくると言える。
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「はは、大騎士なんてな。
そういや、騎士になっていたんだな。」
数年後、王より大騎士という名を叙勲することとなった。
国に使え、国民を守り、特に他国を奪う。
確かに、カイトはこの国の騎士だと言える。
そして多くの戦場でカイトは国を勝利へと導いてきた。
今回の事は当然といえば、当然だろう。
寧ろ、昇級を断るカイトに対して、なんとか労いたいという事の表れであろう。
「汝をこの日より『大騎士』とする。
既に名に恥じぬ働きをしておるが、更なる働きを期待する。」
これが、一番最近の大きな出来事だった。
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若者は、世を知り経験を積むためにという名目で冒険者をしている。
しかし、親のカイトとしては、そういうことにして自由にやらせて自分で何かを見つけてくれればいいと考えていたようだ。
私としても、やはり斬る喜びは他にゆずれないほどの喜びがあるので楽しませてもらっている。
若者もまた、歴史に名が残る事を期待せん。
読んでいただいてありがとうございます。
ジャンルがマイナーだったのか、こっちは伸びなかったです。
まあ、書きたいこと書いたからヨシとします。
ちなみに、この形式だと、話を増やすのも減らすのも簡単なんですよね。
一話読みきりだし。
それでは、次回作を書いていくぞー!
明日やるぞー! おー!