第67話 マジモンのテロリストじゃねぇか
日華が一也にレンタルされ、1月。
『ふんふふーん』
今日も今日とて日華は鼻歌を歌いながら、人を叩きのめしていた。相手はクスリに強姦、強盗、場合によっては殺人までなんでもござれという連中ばかりで、ナイフや鈍器どころか銃器まで持ち出してくることも少なくない。これだけやらかしているのにお縄になっていないのは、ひとえにニホンゴワカラナイという魔法の言葉があるからだろう。通訳を用意している間に抑留期間が過ぎれば無罪放免なんだから、そりゃ調子に乗って無茶苦茶する。
だから、警察の代わりに日華が彼らを滅茶苦茶にしている。役割分担というわけだ。
右手に持ったゴミのような見た目の男をぽいっと放り投げる。男が放り投げられた場所は少し開けた路地の一角であり、周辺には10代から20代の男たちが10数名ほど、うめき声を上げながら倒れている。死んでいる人間は居ない。この程度の連中が武器を持っているからと言って加減を間違えるほど日華の腕は悪くない。
『サル。動画は取ったな?』
「うぃぃっす! ツブヤイターに投稿してまっす!」
『十分だ。じゃ、ズラかるぞ』
「もちのロンでさぁ、おーいバイトくん! 解散だ!」
日華の言葉に応えて、周辺を固めていた顔を隠した若者たちがパッと街中に溶け込むように逃げ去っていく。彼らはこの活動に参加したいとSNSなどで声を上げていた若者たちであり、臨時雇いのバイトくんだ。仕事内容は日華が仕事をしている最中に周りを囲むことと、犯罪の証拠を集める。仕事が終われば街に消え、仕事がある時だけ来れる奴がやってくる。一部を除けばいつもつるむメンバーではない、その場限りの関係の流動的な集団。
特に名前を付けているわけじゃないが、彼らはどうやら自分たちの事を自衛団と呼んでいるらしい。その話を聞いた時にそれなら自警団じゃないかと思ったが、あくまで造語だからこれでいいんだとか。仕事を振っといてなんだが、こんな怪しいバイトに来る子はどこか感性が違うんだろうか。
「いやぁ。若い連中の間だと日華さんはヒーローっすから!」
『ダメだろ。あーしはれっきとした犯罪者だぜぃ』
「んなこた関係ないっす! 姐さんが来てからこっち、この辺を荒らしてた連中も大人しくなったし! うちのオカンも駅前でたむろするガラの悪いガイジンが居なくなったって喜んでて!」
サルのマスクを被った少年はぶちのめした連中が持っていたスマホを電波を遮断する袋に詰めながら日華を誉めそやすが、日華からするとなんだかなぁ、という思いがある。文明が崩壊した世界も、それ以前の世界もどちらも経験したことがある日華からすると、自分のような暴力で生きる人間が支持されるというのは余り良い兆候ではないからだ。
行き詰っている。息が苦しい。そんな感情を抱える多感な年頃の子が今の現代日本に絶望し、自分のような存在へと傾倒していく。それは良くない、良くないなぁ。だが、それを狙って『かすが』は自分のような存在を一也にレンタルさせたのだから、やっぱりなんだかなぁ、と思ってしまう。
なおも日華の事を褒めちぎろうとするサルからスマホを入れた袋を受け取り、軽く手を挙げる。
『じゃ、な。そのマスクちゃんと洗っとけよ。次の奴が大変だから』
「うっす! それじゃあ、失礼します!」
日華 の言葉に腰を90度曲げて頭を下げた今日のサルは、そのまま振り返ってぱたぱたと走り去っていった。サルという役割は交代制であり、基本的に的場くんの古巣の不良チーム、ケイオスに所属する子が担当することになっている。マスクも複数あり、今回はサルだが他にもウマだったりイノシシだったりと様々だ。そのマスクによって呼び名を変えるため毎回誰が来ているかは分からない。これは一人に固定すると声を覚えられたり不都合があるかもしれないためだ。
さて、そろそろ通報するか。用意しておいた使い捨て用の携帯を取り出し、もう覚えてしまった番号を押すと1コールもせずに電話がつながった。
『もしもーし』
「日華ぁ!!お前、お前またか! 今日はどこだ!」
『逆探してるっしょ? このケータイここに置いとくからね。日暮さん。あ、今日の所は銃火器に爆薬まで置かれてたから。専門の部署呼んどいた方が良いよ』
「……マジモンのテロリストじゃねぇか。分かった、お前そこに居とけよ!」
『まだ捕まりたくないかなぁ、また連絡するね』
電話に出たのは警視庁の日暮という名の警官だった。初めて通報した際に電話に出た人物で、それ以来日華は直接日暮に連絡を入れるようにしている。この警官を気に入っているのもあるが、半グレと楽しく遊んでいる内に結構な人数の警官が半グレどもと繋がっているのを知ったからだ。
通報しても検挙してくれなければ意味がない。その点この日暮という警官は良い。何度か『あきら』に力を借りて調べてみたのだが、日暮という男は実直が制服を着て歩いているような警官だった。警察の正義をまだ信じている、若い警官だ。
だから気に入った。そして、窓口として活用している。日華が彼に毎回電話をかけるのは、そう言う理由だ。
『お疲れ様。袋はこっちで預かろう』
『ん。見つかったものはこっちのケータイに動画で取ってあるよ』
半グレたちを叩きのめした場所から少し離れた地点に止められていたバンに乗り込むと、車内には『雨宮かすが』と的場が居た。『かすが』の指示に従って袋を受け取った的場が運転席に移動し、少しした後に車が発進する。
改造されたバンの後部座席は広々とした造りになっていて、車載用の冷蔵庫まで設置されている。特に断りもせずに冷蔵庫を開けると中には何本かのミネラルウォーターがあったので、その内の一つを日華は取り出した。
『ここ最近、都内の犯罪数が明らかに少なくなっている』
『お。こんな地味ぃな活動でも効果あるんだねぇ』
『警戒してるのもあるんだろうな。なんせ、君はいつどのタイミングで現れるか連中には分からないんだから。仕事をしている最中に横合いから何度も殴られればバカでも警戒するさ』
『この調子でお役御免になると、一日本人として嬉しいんだけどねぇ』
『そこまではまだ時間が足りないな。警察が抑止力足りえない状況を何とかするために上の連中を働かせている。君がお役御免となるのは、その後だろう』
そう言って『かすが』はニヤニヤとした表情を浮かべる。この少女とも1月ほどの付き合いになるため、彼女がこういう表情を浮かべる時は大体ろくでもない事を考えている事を日華は知っている。前にこの表情を見た時には、半グレを支援するヤクザの事務所に殴り込みをさせられた。
上の連中ってのは政治家とかそういう連中だろうか。どんな弱みをこの悪辣な少女に握られたのやら。冷えたミネラルウォーターに口を付けながら、日華は可哀そうな目にあっているだろう老人たちに思いをはせた。
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山里一也(男)26歳
視聴履歴
『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)
『煉獄列島』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)
『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)
『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)
『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)
『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)
『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)
『魂羽織』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『至高の人形師』(料金:人形作成・開発費)
『拳創成期』(レンタル終了)
プレミアムレンタル権『無双女帝』(料金:気持ちよく昼寝できる環境)
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