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第54話 これが九十九博士の立体投射機ですか!

 カチャカチャと機材のセッティングをしながら物思いに耽る。精密機械を扱う際に別の事を考えるのははあまり良くないんだが、『九十九あきら』の10分の1程度の能力を得たからか、それとも毎日毎日調整を行っているからか自然と手が最適な動きを行ってくれる。


 最初は『九十九あきら』じゃなくて大丈夫かという顔をしていた取引先の相手も、着々と、淡々と機材が組みあがっていくのを見て安心したらしく、朗らかな顔で時折話しかけてくる。それに生返事を返しながら、物思いに耽る。


 最近、仕事が楽しい。そう、それが今の俺の一番の悩みだった。


 仕事だぞ、仕事。俺の命を削り、人生を削り、ゴミ箱へ投げ込もうとした忌むべき概念だ。そりゃあ社会性の維持のためだけに仕事を求めてはいたが、なにかあればさっさと止めてニートになる覚悟で俺は仕事に臨んでいた筈だ。


 それが何故か、今じゃ自分から新しい仕事を求めて、わざわざ取引先の機材セッティングなんて事まで行っている。まぁ、Vタレ部門のマネージャーとしてご挨拶に来るって用事は合ったけどね。


 俺、もしかして社畜根性が染みついて抜けなくなってるのかなぁ。なんて自分の性根に不安を抱きながらも手は着々と仕事をこなしていき、大体1時間の作業と30分の微調整を経て九十九あきら印の屋内用立体投射機を一つ組み上げ終わる。


 ううん、『あきら』だったら1時間もかかってなかったな、この作業。やっぱり本物との差はデカい。



「おお、おお! 素晴らしい! これが九十九博士の立体投射機ですか! いやぁ、九十九博士以外だとセッティングが難しいと聞いていましたが、こうも早く組み上げられるのですねぇ」


「調整に少しコツがありますので、そこを踏まえていればこれくらいの時間で終える事が出来ます。ただ、担当の方が慣れるまでは十分に時間を取ってセッティングした方が良いでしょうね」


「なるほど、その点は気を付けなければいけませんね。それでは早速最初のテスト配信を行いたいのですが配信中の操作もお教えいただけると……」


「ええ、分かってます。今回の配信は自分が操作しますので、担当の人はそれを参考にしてもらえれば」


「手元の撮影もよろしいでしょうか?」


「はい。大丈夫ですよ」



 ホログライブの担当者さんと話しながら、言われるだろうなと思っていたカメラの準備をしてPCを繋いだ機材の前に待機。操作の流れをレクチャーしながら待っていると、二人の女性が部屋の中に入ってくる。ホログライブのVタレさんだろう。



「山里さん。こちらの二人が本日テストに参加してくれるうちのVタレでして。ポン子さん、もち子さん。こちらVVVの山里さんね」


「あ、アキラちゃんじゃないんだ。初めまして。ロボットポン子です。本日はよろしくお願いします」


「え……あの、初めまして。桜もち子です。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。じゃあ、早速始めましょうか」



 ペコッと頭を下げてくるホログライブのVタレさんに会釈を返し、PCを操作して二人のデータと事前に入力されたそれぞれのVタレとしての3Dモデルを紐づける作業を行う。あ、二人とも化粧してるからちょっとエラーが出てるな。『あきら』が作った立体投射機は表情までしっかり映すから、ちょっとした化粧でもノイズになっちゃうのだ。


 ちょいちょいと担当者さんを手招きし、このエラーがどういう理由で出るかを説明。まぁ女性なら出先に来るときは大体化粧をしてるし、多分これが一番頻発するエラーだろう。このエラーの解除は簡単で、化粧をした状態の顔をPC内に保存すればいいのだ。すっぴん顔と化粧した顔、両方で紐づけが出来るようになればそれでエラーは解消する。



「え……うわ! うわ! ポンちゃん! ポンちゃんがいる!」


「わー、もっちゃんだ。もっちゃんがブワって浮かび上がってるよスゴッ」



 紐づけをしたら後は簡単だ。大まかな身長などのデータは事前に入力されているため、後は立体映像と本人との誤差が出ないように目視で調整していけば本人の動きに合わせて立体投射機が3Dモデルを動かしてくれるようになる。


 ポン子さんの微調整をゆっくりと分かりやすいように担当者さんに見せ、もち子さんの方は担当者さんにやってもらう。あ、もち子さん。楽しいのは良いんですが飛び跳ねると調整が難しいのでやめてくださいね。






 その後、何度か担当者さんの練習のために調整をリセットして再調整というのを繰り返し、午前中いっぱいで作業は終了した。昼を跨がないでよかった、どこでご飯を食べるかねぇと考えていると、この辺りの美味しいご飯処を知ってるという担当者さんがこの後食事でもどうかと誘ってきた。時間を使わせた分、経費で落とすから! という魔法の言葉も添えられて。


 そんなの了承に決まってるので、何故かただ飯という単語に釣られたらしいポン子さんともち子さんも一緒に近くのイタリアンにやってきた。アイドル売りしてるのに男と飯に行くのは良いのか? とちょっと疑問に思ったので聞いてみると「VVVさんには媚うっとかないとってうちのVタレみんなでネタにしてるんで大丈夫」との事。


 媚を売るという行為がネタになるってどういう事なんだと思ったんだが、なんでも最初はVVVエキスポにお忍びで参加したホログライブのとあるVタレが「ビックリするほど凄くて凄かった」と語彙力皆無の発言を配信中に口にし、続けて「VVVさん。うちにもこの機材をお願いします」「媚うっとかないと。うちのメスども総動員してアキコ社長に媚うっとかないと」だとか「もち子ちゃんファンって公言してるんだからもち子ちゃんラッピングしてVVVに送ればワンチャンあるよ! もち子営業やろう!」とか過激な事を言いだしたのだ。


 もちろんこの配信後にホログライブ運営がそのVタレを叱り飛ばしたのだが、その時にはすでにホログライブに所属する他のVタレも祭りに便乗するような形で「VVVに媚をうって機材ゲット」という発言を行い、その声が高まった辺りでホログライブとVVVの業務提携が発表されるという最高のタイミングでの燃料投下により「媚売って機材ゲット」が成功したと一連の流れを見ていた視聴者が盛り上がり、一つのネタとして完成したのだとか。



「まぁ、だから今日はもち子ちゃんもね。アキコ社長かあきらちゃんが来ると思っておめかしして来てたんだけどね! もち子営業ってことで! そしたら来たのはクマさんの中の人だったけど」


「あー。それは申し訳ない。マネージャーとしてご挨拶に行くついでに機材セッティング出来る私が来ることになりまして」


「あ……いえ、大丈夫です。そのぉ、アキコ社長が私のファンって、本当なんですか?」


「本当ですよ。仕事中に結構貴方の配信とか見て笑ってますんで」


「そ、そうなんだ……あ、あの。その内コラボしましょうって、お伝えお願いします!」


「あ、じゃあ私あきらちゃんとコラボしたい! ほら、あきらちゃんロボット工学が一番専門って言ってるしキャラ被るじゃないですか」


「あっちは博士で貴女はロボット側でしょ」



 ポン子さんは割とぐいぐい会話に来るんだが、もち子さんはあんまり対面で話すのが得意じゃなさそうだ。蝶子ちゃんともまた違う感じで少し不思議な感覚だ。これが配信だとバンバン話せるんだからやっぱりVタレさんって凄いわ。


 まぁコラボ依頼とかそういうのはマネージャーとしてお話を頂戴するが、実際に受けるかどうかは本人次第、という事で話を纏めてその日は解散となった。アキコさんは兎も角『あきら』はどうかなぁ。あいつ人に合わせて話すの苦手だから延々専門用語を語りそうで放送事故にならないか心配なんだよね。


 さて、折角早く終わったし今日は直帰、と言いたいところだがむしろここからが今日の本番だ。折角普段は来ないエリアに来たんだから色々見て回って、ついでに人材発掘が出来れば御の字だろう。『メンチ』からも『お前はもう少しプライベートを持った方が良いぞ』って割とガチ目な忠告をされちゃったし。



山里一也(男)25歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)

『魂羽織』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『至高の人形師』(料金:人形作成・開発費)


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