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第51話 これだからアキラのファンは止められないぜぇ!!

 ああ、これは本物だ。


 登壇した彼女がマイクを持ってから10分ほど。その会話を耳にした来場者は、ほとんどがそれを理解した。たった10分の会話で、彼らは普段自分たちが相手している学生や同僚たちと目の前に立つ少女の3Dモデルを被った女性が比べるべくもない存在で、それこそこの場に居る誰よりも。いいや、もしかしたら世界で最も優れた科学者であるという事を理解したのだ。



『ドクター・アキラにお尋ねします。今、隣の会場で実演されている立体投射機は購入する事は出来るのでしょうか』



 今回の講演会はあくまでも立体投射機についての機能説明のようなものであり、期待していた学術的な論議は行われないようだった。だが、ドクター・アキラの口から出てくる技術に対する質問の時間には、会場内に居る誰しもが真っ先に手を挙げて彼女との会話の糸口を持とうとする。当然だろう。この場に居る者達は誰も彼もが知識欲に取り付かれていて、そして彼女のファンなのだから。


 彼女の知識は、技術は、我々既存の学者が必死になってつけていた道筋の遥か先にあるものだった。例えるなら動力という概念を手に入れ、自動車を生み出そうとしているのが我々なら、彼女は一人ジェット機を作っているようなものだろうか。


 彼女の配信で分かっていた事ではある。なにせ彼女が世に出てすぐに扱っている技術の基礎ベースが余りに違いすぎて、最先端を行くと考えていた者ですら彼女についていくのがやっとという始末だったのだ。理解できる。だが、何故そうなるのかが分からない。余りにも異質過ぎたために他の学者が研究・発表しているものの内容について彼女に問いかけた者もいた。これらについてこういう研究がありますが貴女はどう思いますか、と。


 的外れな答えが出たらこき下ろそうという魂胆が見え透いたその質問に、彼女は『え、知らない』と一言バッサリ切り捨てた後、その場でどういった物かを調べ、ネット上に論文があるものならその場で論文を精査し、彼女なりの解釈をその場で発表する。多少専門外であろうと、彼女は配信中に、配信時間の中でそれらを行っている。そしてそれらの解釈は往々にして研究している当人ですら唸るほどの理解度であったりする。


 質問を行った人物が二の句を告げる事も出来ないほどに完ぺきなカウンターを行ったというのに、ドクター・アキラ自体はそれらを全く大した事が無い作業だと思っている様子だった。これ以降、彼女の配信では各国の学会の研究論文などを語り合う視聴者が増えた。あるいは、この時に彼女に興味を持つ者達が理解したのかもしれない。


 彼女は本物だと。そして、その彼女に一度でいいからお会いしたい。会って、存分に研究についてを語り明かしてみたい、と。



『会場に持ち込んでるのは全部私が作った一品物だから売れないかな! VVVは専用工場とかもないから生産能力はあんまりないんだよねぇ!』


『でしたらライセンス生産などをご検討いただけないでしょうか。会場のアトラクションを全て体験しました。あの技術には、未来がある。是非母国でも広めていきたいのです』


『んー、私が要求する精度で作れるなら構わないけど……あ、じゃなかった! こーいうのはアキコちゃんを通してね! うちの社長だから!』



 だから、こんな業務的な内容であったとしてもドクター・アキラと会話をする相手につい嫉妬の視線を向けてしまうのだろう。良いからはよ終われ。こっちも質問したいんだよ。他の者がドクター・アキラと話している間、それを眺めている他の来場者は事前に手間暇かけて作り上げた3Dのガワの内側で体をプルプル震わせているのだ。恐らく、ほぼ全員が。


 そしておそらくほぼ全員が、特に実りのないライセンス契約の話を終えた瞬間、その男が着席する前の段階でシュバっと音を立てて手を挙げる一秒遅れればチャンスを逃すかもしれない。そんな焦燥感を感じさせる挙動に、檀上のドクター・アキラはにこにことした表情で『もー! 次は私がしゃべる番!』と口にした。


 ああ、それならしょうがない。アキラの話は聞かなければいけない。ざわめきすらも起きずに挙げられていた手が一斉に降ろされると、ドクター・アキラは満足そうに頷いて、演説台に備えられたマイクに向かって口を開く。


 そんな様子が。楽しそうに科学について話をするアキラの姿が、眩しい。きっと彼女はこの場に居る誰よりも優れた科学者であるのに、この場に居る誰よりも純粋に科学を愛しているのだろう。この場に居る誰しもがこの姿を見たくて、自分の目で見たくてわざわざ東京まで飛行機を乗り継いでやってきたのだろう。彼女の姿に、かつて通り過ぎてしまった学生の頃の。まだ権威にも権力にも失望していなかった頃の自分の姿を重ねてしまうのだ。


 声を聴く限り、恐らくは20代。子供扱いされるような年齢の、しかも男社会の学会の中ではマイナスの要素とされる女性の身でありながら、自分たちはただただヒーロー番組を見る子供のように彼女に憧れる事しか出来ない。それほどに、彼女と他では差があるのだ。彼女に嫉妬すらすることが出来ないほどに。


 だが、むしろそれで良いのだろう。嫉妬に狂って彼女ほどの逸材を不当に評価するよりは、一ファンとして彼女の活動を見守る方がずっとずっと、何千倍も良いに決まっているのだから。



『立体投射機については以上! 理論は論文にしてあるから一々説明しないよ! あ、あとさぁ。これは余談なんだけど、時間が余っちゃったら話そうと思ってたんだけど、ムカついたからって理由じゃないんだけどね! 今日来てないイギリスさんとは全然全く関係ないけどね――イギリスさんが最先端だっていってる超電導方式の量子コンピュータの発展形思いついちゃったからちょっとだけ話しても良いかな?』



 ――イェア!!! 勿論良いに決まってるじゃないか! これだからアキラのファンは止められないぜぇ!!


 明らかに「私、不愉快です」という表情を浮かべたアキラの可愛い不機嫌顔と爆弾発言に、講演会の会場は熱狂に包まれた。あちらこちらの席から英語で『止めてくれ! ああ、でも聞きたい!』と叫ぶ声が聞こえたが恨むなら自分の国のカスっぷりを恨むと良い!


 これ以降、年一くらいでブリカスやらかしてくれねぇかな、というのがアキラファンの合言葉となったのだが、まぁ、仕方ないことだろう。

山里一也(男)25歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生』(料金:組織)

『魂羽織』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『至高の人形師』(料金:人形作成・開発費)


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