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ブラック企業にすり減らされた社畜が主人公になれるアプリを手にしたらどうなるか→  作者: ぱちぱち


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113/133

第113話 技ってほどのもんじゃねぇぞ? 名前もないし

『私が行く?』



 不意にかけられた言葉で我に返る。声をかけてきた『さやか』の言葉が頭に染み渡り、そして理解した。ああ、冷静さを欠いていたのか俺は、と。小さく首を横に振ると『そ』と言って『さやか』は忙しそうに肉を頬張る作業に戻っていった。危ねぇ、また『日華』に怒鳴られるところだった。


 中身の入ったジョッキを手に持って席を立ち、トイレへ。監視カメラがないのを確認して『セシル』をレンタルして『ドッペルゲンガー』を呼び出し身代わりを確保。後は頼むぜと『セシル』に店内に戻ってもらい、次にスマホを手に取る。



「ヴァーイ、緊急モード発動」


『了解しました、マスターカズヤ。緊急モード発動、ここからの操作はどこにもデータは残りません』


「さっきの電話の場所を逆探知。データをマップに表示してくれ」



 緊急モードってのは『あきら』が仕込んだものだ。俺たちの秘密を維持するためにヴァーイの権限の及ぶ範囲で山里一也の情報はごく一般的なものだけが残る様にしているのだが、その範疇を超えた行動をするときにはこの緊急モードを発動して前後の時間俺の情報がどこにも残らないようにヴァーイに働いてもらうためのものである。ネットが繋がる監視カメラなんかはこれで誤魔化すことが可能だ。


 これである程度の電子戦対策は出来た。そして次。『ひばり』をレンタルしたタイミングでヴァーイが田井中さんが電話した場所を割り出したため、そこをマップで表示して『ひばり』に体を預ける。


 瞬間、周囲の景色が切り替わった。



『はいはい特急便ですよぉ。これ時間外労働ですよねぇ!』


――こんどなんか奢るからそれで


『おけまるですぅ!』



 ビルとビルの間に出現した『ひばり』から体の操作を取り戻し、次のレンタルに繋ぐ。視線を下に向けると、右腕を失った田井中さんと黒いスーツを着た外国人たちが対峙しているのが目に入る。



『代われ、一也』



 視界にそれが映った瞬間、『メンチ』がそう声を上げた。手に持ったスマホでレンタルをワンタップすると、すぐさま体の操作権が『メンチ』に奪い取られる。手に持ったジョッキからビールが零れ落ちていき、水滴となり、そして一つ一つの水滴が矢じりのように変貌して黒スーツの外国人たちに降り注ぎ、その体を貫いた。



「あぎゃっ!」


「ぐあっ!」



 足元から悲鳴が上がる中、自由落下に身を任せながら『メンチ』がビールジョッキを放り投げて印を切る。矢じりの形で黒スーツたちを貫いたビールが今度は細長い棒のように姿を変え、男たちの身体をぐるぐると縛り上げていく。



――便利な技だなぁ


『技ってほどのもんじゃねぇぞ? 名前もないし』


――普通はこんだけ便利なら技なんだよ



 他の能力バトル物ならもうそれだけで技名とか声高に叫んで使うような代物を弱パンとか弱キックとかの要領で使いまくるのが『メンチ』の戦闘スタイルだ。ちゃんと詠唱のある大技もあるんだが、今の所通常攻撃だけで全部ワンパンできてるから必要ないんだよな……『メンチ』が死を覚悟して仲間たちの犠牲の果てに生き残れた『煉獄列島』って相当ヤバイ世界なんじゃないだろうか。いや、あの作中でも最終的に『メンチ』は最強格になってたけどさ。



「はぁ……生き残れたかぁ……しんど」


『田井中さん、右腕は』


「そっちにぃ……転がってますよぉ。痛たた……」



 救援が来た事に安堵したのか、田井中さんがストンっとその場に腰を下ろして座り込んだ。失った右腕から大分血が出ている、早く止血しないと不味いかもしれない。


 落ちていた右腕を拾うと、随分と綺麗な切り口なのが見て取れる。これは刃物か? にしては倒れている連中は全員素手に見えるんだが、どうやって田井中さんの腕を落とした?


 右腕の汚れを酒精で落とし、田井中さんに手渡すと田井中さんが微妙な表情を浮かべて自分の切られた右腕を見た。



「……これ、くっつきますかねぇ」


『腕のいい医者ならくっつけられるんじゃないですかね。知り合いに声かけましょうか?』


「……お願いできます? 私の知り合いもねぇ……心療医療は専門でも……外科的なものだと心許ない……あ、ヤバい。血が足りね……」


『急いで手配しますね。意識は保てそうですか?』


「これは無理ですねぇ……メンチくん、そいつら吸血鬼なんで……霊障対策課に連絡して……あとは……血液型……俺AB……たの……」



 そこまで口にして、田井中さんはがっくりと項垂れる。まだ死んではいないが、相当に不味い状況だ。急いで処置を施さないと本当に間に合わなくなる。



『……一也、頼みがあるんだが』


――分かってる。その前に、一旦場所を変えよう


『そんなら郊外の人形工場がいいぞ。あそこにゃ人形の素材に血液袋も置いてっから』


――確かに人形工場なら誰にも見られないか。



 『残夢』の言葉に従い、『ひばり』を再レンタルして郊外にある人形工場へと移動する。魂羽織の開発用に使っている場所だが、こういった形で役に立つとは思わなかった。あとは、拘束した黒スーツたち、田井中さん曰く吸血鬼?だとかいう連中もこっちに移動させ、人形を入れるための頑丈な箱に閉じ込めておく。こいつらには後で聞きたい事もあるからな。『メンチ』の拘束を破ったうえでこの箱を壊すのは至難の業だろう。



『この右腕は氷水に浸しときますねぇ。壊死しちゃったら困るのでぇ』


「なんか慣れてる?」


『チャイニーズマフィアにお世話になってた時ぃ、よくあったんでぇ。あ、AB型の輸血袋みっけましたぁ。残夢さぁん、アルコールありますぅ?』


『お、おう。そこの棚にあるぞ』



 予想外に慣れた手つきで『ひばり』は田井中さんの腕をめくり、アルコールをぶっかける。かなり大雑把なやり方だが迷いなく『ひばり』は輸血袋を適当な場所にひっかけ、田井中さんの腕に針を差し込む。



『これで最低限、時間は稼ぎましたけどぉ。普通のお医者さんに連れてった方がよくないですぅ?』


『それが一番なのは分かってるが、腕の切り口が異常過ぎる。なんでこうなったのかが説明できなきゃ俺達も田井中さんも困る事になっちまうかもしれない』


「とはいえ、時間が無いか」



 『ひばり』のレンタルを解除し、スマホを眺める。俺がレンタルできる奴で医療知識があるのは『日華』か『雨宮かすが』、そして『九十九あきら』の3名だ。人体に精通してるって意味だと『人形残夢』もそうなるか。だが、全員あくまで知識があるだけでその道の専門家ではない。銃弾の摘出や折れた骨の接骨くらいなら出来てもぶった切られた腕をくっつけるとなると流石に無理難題になるだろう。


 だからまぁ、必要なのは医者。それも外科の専門家。そして、出来る限り早くレンタル出来るようになる事。1クール全13話すら今の状況では長すぎる。


 非常に条件が限られてしまうのだが……実はピッタリの作品形式があったりする。


 大昔に存在したアニメの放送形式。1話分を超え、けれども映画よりも短い特別番組。


 アニメスペシャルに、救いの手は存在する。



山里一也(男)26歳



視聴履歴

『ドキドキ! 魔女っ子大戦争』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『不死鳥の魔女 赤神さやか』(運営に怒られたので値上げしました。料金10円)

『煉獄列島』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『閻魔の地上代行人 坂東メンチ』(料金1000円)

『電脳歌姫ろっくんろー!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『鬼畜クマネージャー マネージャー』(料金30000円)

『九十九あきらは終末世界を諦めない』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『天災科学者 九十九あきら』(料金:ひなちゃん家のご飯)

『安楽椅子の占い師』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『未来を知る者 リリーベル・リ・ラスティーネ』(料金:1億円or生徒とのランチ権1回分)

『ドッペルゲンガー』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『もう一人の俺 セシル・ファラウェイ』(料金:週休2日三食昼寝付き週6万)

『世界最強の傭兵隊長だった俺が女子高生になった件について』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『生真面目系殺伐女子高生 雨宮かすが』(料金:組織)

『魂羽織』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『至高の人形師 人形残夢』(料金:人形作成・開発費)

『拳創成期』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『無双女帝 日華』(料金:気持ちよく昼寝できる環境)

『テレポーター三沢ひばりは平穏に過ごしたい』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『ハードラックテレポーター 三沢ひばり』を獲得しました(料金:休日)

『プロレスラーに明日はない!』(レンタル終了)

プレミアムレンタル権『炎の経営者 純情仮面(本名:間藤勇作)』(料金:良き闘い)




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