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12話 『魔導士』シオン・ミリオール

 俺がこの世界に来てから、計3ヵ月ほど経過した。


 大蛇という素晴らしい食材を発見したこともあり、ほぼ毎日狩って食べるようになっていた。狩れなかった日は相変わらず別の魔獣を食べていた。たまの贅沢でトリッタ食堂にも通っている。


 魔獣ばかり食べている影響か、以前よりもさらに身体能力が向上し、肉体は頑強になっていた。


  ギルド職員採用試験用の勉強もそれなりに捗っている。なんというか大学受験のために試験勉強をしていた日々を思い出す。


 クエストの方も順調だ。


 いつの間にかランクがFに昇格していたこともあり、現在は、Eランクのクエストまで挑戦できるようになっている。流石にG~Fランクよりも報酬額が良い。


 ここまでは順調な異世界ライフだが、魔法だけは全く進歩が見られない。


 文字もだいぶ読めるようになったので、以前購入した『魔導書』を参考に練習をしているのだが、下級魔法すら使える兆しが見えない。今度、ノールにコツを訊ねてみようと考えているところだ。


 まぁ、魔法については引き続き地道に努力するとして。


 俺は本日、武器屋に訪れていた。


「よ、ドリスのおっちゃん。何か良い武器ない?」


「入ってくるなり唐突だなボウズ…」


 そう、最初に剣を購入した武器屋である。あの後も何度か訪れたので、ここの店主:ドリスとはすっかり顔なじみだ。俺は基本的に「おっちゃん」と呼んでいる。


「いつも使っている剣は折れたのか?」


「いや、ここ最近ようやく懐事情が安定したから、そろそろ新しい武器が欲しいなぁと思って」


「ああ、なるほどな。しかし、おススメと言われてもなぁ」


 そこで俺は、悩むおっちゃんの背後の貼り紙の内容に意識が移った。


 ある程度文字が読めるようになった今、その貼り紙の内容も分かるようになった。そこには、武器の個別受注についての内容が記載されていた。


「なぁ、おっちゃん。その貼り紙に書いてあるやつって、もしかして、個別に頼んだら武器作ってくれるの?」


「ん?……ああこれか。そうだな、武器の素材は集めてもらうが、作れるぞ」


 要するにオーダーメイドというやつか。自分だけの武器………ぜひ欲しい。


「せっかくだし、頼んでみたいんだけど」


「構わないぞ。どういう武器にするんだ?」


「ちょっと待っててくれ」


 ~~~10分後~~~


「こういう武器が欲しい」


 俺はザックリとした絵を描いて、おっちゃんに提出した。


「なるほどな。分かった、素材を集めてきてくれたらすぐに取り掛かれるぞ」


「どういう素材が必要なんだ?」


「この武器なら【甲晶】っつう石が必要だ。こんな感じのな。この街を出てすぐのテンリ山で採取できるぞ」


 そう言いながらおっちゃんは様々な色の水晶のような石を見せてくれた。


 なるほど、これが俺の欲しい武器の素材となるのか。


「ありがとう!探してくる」


「おう。気をつけてな」


 そうして俺は店を出た。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後、俺はギルドでクエストを探していた。


 早速甲晶を探しに行こうしたが、どうせ行くなら何かテンリ山関係のクエストがあれば丁度いいと思ったからだ。


「おお!良さそうなのがあるじゃん」


 幸運なことに俺でも挑戦できるEランクのクエストがあった。内容は『テンリ山のニードル・ラットの討伐』である。ニードル・ラットがどういう魔獣か知らないのが不安点ではあるが…。


 他に良さそうなクエストは無かったので、俺はこのクエストに挑戦するべく、受付に向かった。


 ところが、そこで問題が発生した。


「すいませんヨミヤさん…。このクエストは、2名以上のパーティーじゃないと挑戦できないんですよ」


「マジですか…」


「マジです…」


 いつもの受付のお姉さんが申し訳なさそうにクエストの条件を見せてくれた。


 確かに下の方に、お姉さんの言う通り「2名以上のパーティー」という条件が記載されていた。


 なんてこった……完全に見落としていた。


「しょうがない、別のやつを探してみるか」


 軽く気落ちして、別のクエストを探そうと考えたときだった。


「あの……パーティーメンバーをお探しですか?」


 背後から控えめな声量で声を掛けられた。


「ん?」


 振り返ると、そこには、上部に水晶のような石が付いた背丈ほどの杖を携えた、金髪で碧眼の少女が立っていた。


 見た目からして、恐らく『魔導士』だろう。…………というかこの子、以前どこかがで見たことあるな。


 どこだっけ、と考えながら記憶を探っていくと、以前俺が初めてこのギルドに訪れた日のことを思い出した。確かあの時、性格悪そうなメンツのパーティーで唯一善良そうだった子だ。あのときのことが割と印象深く残っていたので、なんとか思い出せた。


「えっ……と、その……」


 戸惑い気味の声が聞こえ、ハッと我に返った。記憶を探ることに集中にしていたせいで、彼女のことを置いてけぼりにしていた。


「あ、いやゴメン。えっと…パーティーメンバーじゃなくて、別のクエストを探そうかなぁ…と」


「そのクエストの人数条件、2人以上なんですよね?よろしければ私が組みましょうか?そうすれば、挑戦できるかと」


 なるほど?…確かにそれなら条件を満たせるのか。


 チラリと受付のお姉さんの方を見ると、右手の人さし指と親指で丸を作っている。恐らく『OK』というジェスチャーだろう。


「暫定パーティーか……」


 他のクエストを探そうかとも思ったが、できることならこのクエストに挑戦したい。初対面の子といきなりパーティーを組むのは不安があるが、まぁ今日だけだしな。


「それなら…せっかくだし、お願いしようかな」


 俺がそう答えると、目の前の少女は、ホッとした表情を見せた。


「ありがとうございます!えっと…呼び名はタイガでいいですか?」


「いや礼を言うのはこっちのほう……いやちょっと待って。よく俺の名前知ってるね?」


 以前会ったときも、ここまでのやり取りの合間も、名乗った憶えは無いんだが。


「もしかして、ご存じないんですか?貴方はこのギルドでも割と有名ですよ」


「え?そうなの?いやぁ~知らなかったなぁ」


 フッ……まさかそんなにも俺の名が売れてしまっているとは。なんかこう、冒険者の方々の目に留まるようなものを俺は持っているのかもしれないな。


「はい。『しょっちゅう草刈りをやっている奇妙な冒険者』ということで有名ですね」


「そっちかよ!」


 変に勘違いしてしまった。ってかそんなふうに言われてんの俺!?…いや、まぁ事実だけどな!


 見ている人は見ているんだなぁ…と遠くを見つめる表情をしていると、少女は「あっ!」と声を上げて、申し訳なさそうに言葉を続けた。


「すいません。名乗り忘れてました。私はシオン・ミリオール、魔導士です」


 やはり彼女は魔導士のようだ。戦力として非常に頼りになる。


「よし……じゃあよろしくな、シオン」


「はい!よろしくお願いします。足を引っ張らないように頑張ります」


「いや、多分それは俺のセリフかなぁ」


 苦笑しながら、俺はそう返した。どう考えても俺のほうが未熟者だからな。


 その後、受付のお姉さんにクエスト挑戦と暫定パーティー登録を正式に申請し、俺とシオンはテンリ山に向かった。


 


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